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84 聖女とはなんぞや1

 教会の人間が早川を訪ねてきた。聖人認定するに当たって、教えないといけないことがあるとのこと。

 情報がなんでも欲しい早川はそれに従ってついていく。


「あなたが元いた国の名前を教えていただきたい」

 と言われて、どう答えたものか、と悩む。

「何を悩む必要があるのですか!?」

 苛立ったように言われるが、怒られても困ってしまう。

「国名と言われても、どれを言えばいいのかと考えてしまってな。にほん、にっぽん、ひのもと、葦原の中つ国、秋津島……どれも俺の国を指す言葉だ」

 他にもあったな、と思い返すが彼らが聞きたいのはそういうことじゃないだろう。一番よく言われる国名となると、にほんか、にっぽんか、ひのもとか。考えてしまって答えがでない。


 そんなに複数の国名が出てくるとは思っていなかった神官は戸惑ってしまう。

「それほど複数の呼び名があっては、外国とのやり取りに困るだろう」

「外の国ではそれぞれが好きなように呼んでるようだな。ジッポンとかイルボン、ヤポンなどと呼ばれてるらしい」

 また増える呼び名に困惑がさらに広がる。

「大日本帝国ではないのか!?」

「お? なんだそのしかつめらしい呼び名は」

「あるいは、日本国(にほんこく)

「じゃあ、それで」

 軽い感じで返されて、神官は釈然としない。

「過去の聖女と同じ国出身でないと、認定できないのか?」

「……そういうわけではないだろうが、その方が話が早いということだ」

 へー、と興味の薄そうな返事に神官はむっとする。


「過去、聖女が起こした奇跡をご説明します」

 聖女についての講義が始まった。


「……そして、魔獣の群れを撃退することに成功したのです」

 実例を元に教えられた聖女が使った術の数々を纏めると、死者の蘇生、怪我や重病の回復、魔物を寄せ付けない結界、魔物を消滅させる浄化、である。

「……これらの術は聖女しか使えないのか?」

「回復魔法はかつてこの国にも使うことのできる人はいたそうです。その中でも、高位の術者が蘇生を行うことができたと言われています。ですが、これらの術はすでに失われてしまいました」

「魔物の浄化に当たる術はセオドア殿下が使われていた光魔法では?」

「えっ!」

 目の前で術の発動とその効果を見たので、早川は自信を持ってそう言っている。しかし、神官はそれを聞いて絶句した。

「この結界に当たる術はエイミー殿下の持つ力に近いな。これを俺も使えれば、色々とやり易いんだが」

 絶句する神官を放っといて早川は思案する。至るところに結界を張れば、防衛したいところが守れるし、魔物の出現場所を特定しやすくなる。


「しかし、この国では死者の蘇生が許容されているのか。この世の(ことわり)を乱す最たるものではないか」

 仏教的死生観を持つ早川には、それに反するものに思えて受け入れづらい。

「それを許されるのが神からの使いである聖女なのです」

「いや、古来は他に使える人がいたって言ってたじゃねえか」

 神官の解説がなんとも頼りない。元僧侶である早川から見て、宗教家として実に未熟と思わせられる。

 蘇生回復ができるものすべてが神の使者とする神官に、では俺は使えないので認定は無理だと返して、いや待ってくださいと引き留められる。

「無理に認定しなくてもいいじゃねえか」

「こちらが困るのです!」

 ほとんど叫ぶように言われて、下っ端は苦労するなと思うのだった。



 どういう方法でかわからないが、神官と早川のやり取りは見聞きされていたらしい。

 教皇と枢機卿が現れた。

「聖女のことは聖女に聞くのが一番だろう」

 教皇の言葉に早川は首をかしげる。

「聖女様の残留思念と会話ができる部屋があるのだ。今から、そちらへ案内する」

 教皇と枢機卿に連れられて、その部屋へと向かった。

「あなたが聖人の資格があるなら、彼女と会話ができるはずだ」

 聞きながら、残留思念とは恨みを持った霊が悪感情を垂れ流して人に悪さをするものでは? と早川は考える。

 それなら、調伏してしまった方がいいのでは? と思い、俺が調伏してしまったら騒ぎになるだろうか、と案じる。

「それでは、ここから先はお一人でどうぞ」

 促され、その部屋へと足を踏み入れた。



 部屋の様子は隣室で教皇達が監視していた。室内を覗き見るのに使っている水晶は、数代前の聖女が持っていたとされる聖具である。

 部屋へ一歩足を入れた早川はそこで黙って立ち尽くしていた。

 その様子を見て、教皇は外れだったかと思いほくそ笑む。どうやって利用してやろうか、と策略を練るのを楽しんでいるのだ。ふと、横を見ると枢機卿は愕然とした表情で部屋の様子を眺めていた。

「似ている……!」

 教皇は枢機卿の言う意味がわからない。彼に見えているのは早川だけである。だが、枢機卿には聖女の姿が見えているらしいのだ。


「あら。こんにちは。今回は男性が招かれたのですね」

「ああ。よろしく……」

 いつでも調子よく口は回る方だが、このときの早川は驚きが勝って中々二の句が継げなかった。

「……なんだか、血縁を思わせるようなお顔立ちをされてますね」

「やはりそう思うか」

 聖女と早川はとてもよく似ていた。男女の違いがあるので瓜二つとはいかないが、並べば兄妹のように見えた。

 早川と千佐よりも似ているくらいである。

「何からお聞きしましょう。お生まれはどちらです? 私は日本の神戸の出身になります」

「神戸? 摂津の方か。俺の生国は播磨の早川領だ」

「あら。私のお祖父様の生まれも播磨の早川村ですよ」

「ほう。いよいよ怪しいな」

 彼女の口調から、生まれた時代が違うのはなんとなくわかった。


「私は唐崎彰子(からさきしょうこ)と言います。お名前を伺ってもよろしくて?」

「俺の名は早川英心」

 聖女彰子は笑みを保ちつつも、神妙にうなずく。

「……お祖父様と同じ名字ですわ。私が元いたのは大正の世なんですが、英心様はいつからいらしたんですか?」

「たいしょう……聞いたことないな。俺が来たのは天正(てんしょう)十三年だ」

「天正……聞き覚えがあります。何か後の世に残る大きな出来事が起こってませんか」

「織田信長公が明智光秀に討たれたのが天正十年のことだが……」

「戦国時代の方でしたのね!」

 思い当たったために、彰子は身を跳ねさせた。年若い少女らしい所作に、早川はなんだか眩しいものを見る気がしてくる。

「ひとまずお座りになって。何もありませんから床に座ることになりますけど」

 勧められてその場に座る。床には絨毯が敷いてある。

 座ることを勧められたと言うことは、これは話が長くなりそうだ。

討たれたという表現が正しくないようなら直しますんで


ブクマ、評価、ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[良い点] え?なんで大日本帝国とか出てくるの??と思ったら、斜め上の展開にファーーーー!!となりました! ここに来てこう来るのか!!!
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