72 尋問、尋問、そして
「洗いざらい、全部話しやがれ」
据わった目でナルミスが詰め寄ってくる。
「えー……やだな」
「この期に及んで!」
話し合いの席は早川への尋問の場へと変わった。本人は今だのらくらとかわそうと悪あがきをしている。
一旦はナルミスに任そうとしたが、怒気が先走りまともに聞き出せそうにない。兵隊長達は目配せをして、一つずつ聞き出すことにした。
「クリフォード王子との連絡はいつからとられてたんだ」
具体的な質問が飛んできたので、かわし辛くなった。しょうがない、と答えを返す。
「こっちに来たその晩」
「お前、そんな前から!」
「ナルミス殿!」
いちいち話の腰を折られては、前に進まない。兵隊長達がナルミスを後ろから押さえつける。
「そうは言っても、俺は相手の発言の真偽がわからんわけで。なおかつ、お前らの言うことの真偽もわからんわけだ。自称クリフォード王子の言うこととお前らの言うことのそれぞれ少ない情報からそれを判断せねばならん。さて、互いに信頼関係ができたと言えるか怪しいぐらいの状態で、お前なら持ち札をすべてさらせるか?」
早川はあえてナルミスに向かって語りかける。
「……それでも、俺は手がかりでもなんでも、どんな些細なことでもいいから、知りたかった……」
怒るかと思ったのに、弱気な口調の言葉が返ってきてこちらがいじめているようで気まずい。
「あー……勇者殿は聖女様とご兄妹でいらっしゃる」
話を進めるべく兵隊長の一人が違った質問を投げ掛ける。
「はあ。あなた方がどうやって聖女を認定したのかは知りませんが、今鏡に映っていたのは俺の妹です」
向こう側から見ていて召喚の儀を知ってるくせに早川はしらばっくれる。
「召喚の儀のときに近くにいらっしゃったのか?」
「ここに来る前は一緒に居ましたね」
なるほど、と兵隊長達はうなずく。
「聖女様と似た性質を持ってらっしゃるからこちらに来られたのか?」
「いや、なにか意味があってこちらに来られたんだろう。クリフォード王子が聖女様といらっしゃる、そちらにも意味があるに違いない」
未だ居座っている魔導師が見解を述べる。
早川に話せるのはこれくらいである。クリフォードの腕を引っ張ったことは明かすつもりはない。
「こちらに早川殿はいらっしゃるか」
文官らしい男が、部屋を覗いて言ってくる。
「急なことではあるが、早川殿の話を聞きたいと貴族院の方々が仰っている。議会までご足労願いたい」
またしても、面倒な時間の始まりである。
円形に座席が設けられた空間の真ん中に早川は立たされていた。早川の正面上方に王が座る席がある。その近辺にセオドアが座る。教皇や枢機卿の姿もある。末席らしきところにオスカーの姿が見える。
身分の高い人間達の前に連れ出されて晒し者にされている。罪人のような扱いだと早川は思った。
「ただいまより、質疑応答を始める」
議長より宣言が下る。来るなら来やがれと構える。
「クリフォード王子の無事が確認されたとの報告が入ったが、それは本当か」
「今日、兵隊長達が鏡に映った姿を見てクリフォード王子だと確認されました」
「度々対話をしていたのではないのか」
「私はクリフォード王子に直接会ったことはありません。だから、彼の自己紹介の真偽を確かめる術は私にはありません」
この辺で議会全体がざわざわする。
「それでも報告だけでもすれば良かったのではないか」
「大体が深夜唐突に鏡が光って始まるんです。昼間に対話ができたのは今日が初めてです。他の人間に見せて確認してもらうことができなかったんです。実物を見せないで話だけで伝えられるものでもないと判断しました」
質問に答えを返す度に場内がざわつく。
「兵隊長達がクリフォード王子だと確認したらしいが、それが本物のクリフォード王子だと信じていいのか。真偽が確かめられないという彼の言うことはもっともだ」
これは質問かどうかよくわからなかった。同席させられている兵隊長の内の一人が手を挙げて発言する。
「クリフォード王子は召喚の儀に現れた聖女様と一緒にいらっしゃいました」
またしても場内が騒がしい。聖女の情報に浮わついた反応を示すものといぶかしげな反応とでない交ぜになっている。
「その聖女が本物かどうかもわかるまい。魔物は人の姿を模してくるのだから」
その意見もわかるのだが、それだとクリフォードも千佐もすでに魔物にやられてしまっていることになる。
早川のいうクリフォード本人かどうかわからないという話と、魔物か本人かわからないという話とでは意味が違いすぎるだろう。
なかなか危険な発言をしてしまっていることに、発言主は気づいているのだろうか。
「大体、この危機的状況に際してこの場にいらっしゃらない、それ事態が問題である」
あからさまな批判に早川はおっと独りごちそうになる。不敬と指摘されるのを恐れていない大胆な物言いだ。座席の位置からして、そこそこ有力な地位にいる貴族だろう。ナルミスがいたらすでにぶちギレている。
クリフォードは人望があると先程思ったばかりだが、ここでは違った様相を見せる。兵や魔導師達に人気があるのは、共に現場で戦ったことがあるからだろう。だが、高位の貴族達はそうではない。ただの権力闘争の火種にすぎないというわけである。
王位争いなど、早川にはどうでもいい。勝手にしてくれと思っている。だが、クリフォードが気の毒とも思えてくるのだ。
あのお人好しが、一体誰のために戦ってるのか。この政治闘争に一生懸命な貴族達はそのことを一度でも考えたことがあるのだろうか。
一人で頑張っているのに、それが知られることは決してない。なんともむなしい話だ、と早川は憤る。
そのとき、またしても衣嚢で鏡が光り出す。せわしないなと思いながら、取り出してみる。
強い光の中、鏡に映った像は議会の天井に大きく映し出された。
???「貯めていた光を使うのでは?」
ディアナ「……」
???「おーい」




