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69 お城で○○と1

 王城まで送ってもらったオスカーとは入り口で別れた。オスカーは城で仕事の話をするらしい。


 城で誰に報告するのかと思えば、国王直々に謁見するとのこと。

「え? 暇なの?」

「失礼だろ。それだけ国の一大事だということだ」

「てっきりセオドア殿下か軍の幹部に報告するものとばかり思ってた」

「それは、まあ……」

 反論しながらもナルミスも同じように思っていたらしい。



 控え室に向かう道すがら出会う侍女達に挨拶をする。早川の顔を覚えてくれていたのか、快く応えてくれる。

 一番顔見知りの侍女を見つけたので、挨拶代わりに抱き寄せた。

「何してんだ!」

「こっちではこういう挨拶をするんだろ? 良い文化だな」

「そんな手当たり次第にやったりしない! よっぽど親しくないとしないもんだ」

「へーそうなの」

 しれっと言うその口調の響きから、この男はわかっててやってるのでは、とナルミスは内心疑う。抱き寄せられた侍女は頬を染めてうっとりした様子で去っていく。


「お前、手出してないよな」

「ああ。行儀見習いに来てる貴族のお嬢さんだろ? さすがに嫁入り前のお嬢さんに火遊びするのはまずいもんな」

「……踏み止まってくれて良かったよ」

 否定が返ってきて安心しつつも、条件次第では手を出すような物言いに聞こえて、ナルミスの胸の内は穏やかでない。



 数少ない女性騎士と親しげに会話を交わす。

「いつだ! いつ仲良くなる機会があった!?」

「前に城にいたとき」

「数日しかいなかったよな!?」

 その後も下働きの下女から女官から身分年齢に問わずすべての女性と挨拶をしていく。

「なんで……?」

 とうとう普通に疑問に思えてきた。

「ただ親切にしただけだ」

「え? 全員?」

「さすがに全員なわけないが。声をかけるのを惜しまず、笑顔を惜しまず、手を貸すのを惜しまず。そうすれば仲良くなった。それだけだ」

「あ、そう……」

「女性には優しくするもんだ。女性は生来世話焼きな人間が多い。こっちが親切にすれば、自然と世話を焼いてくれる。……欲しい情報も勝手にしゃべってくれる」

 付け足された一言とそれを言うときの表情にいつもの不敵な笑みが消えていたことから、ナルミスは背筋がうすら寒くなる。



 控えの間に着いた。

「お帰りなさいませ! 英心様!」

 中でエイミーが待っていた。彼女の背後に護衛の兵士がずらりと居並ぶ。華やかな笑顔のエイミーと無表情で厳つい兵士達との落差が甚だしい。

「これはこれはエイミー殿下。わざわざお時間を割いていただきありがとうございます」

 早川が言い終わる前にエイミーが駆け寄ってくる。手を差し出すように前に出しているので、それに応えてやる。

 その様子が歩くのを覚えた息子が駆け寄る様に似ていて微笑ましく思えた。

 手と手が触れると穢れが一気に浄化されるのを感じた。改めて素晴らしい能力だと実感する。

「穢れを祓っていただき、ありがとうございます」


 エイミーがにこにこと笑ったまま、手を離さない。指を絡ませてぎゅっと握り込んでくる。

「殿下?」

「英心様のお話が聞きたいです」

 潤んだ瞳で熱っぽく言うエイミーは大層愛らしい。秋波を含んだ目に、はて、と内心疑問符が浮かぶ。そんなに好かれる覚えがない。早川が物珍しい異国の男で、恋に憧れを抱く年頃だからだろうと結論付ける。


 これはのらくらと無礼にならない程度にかわそうと手を握られたまま考える。

 その握られた手がじんわりと温かく、心地よい。この心地よさの正体はなんだ、といぶかしむ。早川は体に起こった変化を慎重に探る。


 じわじわと体力が回復している。そして、それが妙に気持ちいいのだ。例えるなら、温泉に入っているときのような快さである。

 まさに傾国の女子、と早川は戦慄する。体力の回復ができるとあれば、戦場では重宝されるだろうし、下世話な話閨事でも相手の男子を疲れ知らずにさせることができる。


 実に哀れだと早川は思った。彼女が真に幸せな生活をつかむのは難しいと感じたのだ。

 よっぽど慎重に相手の男を選ばねばならない。並みの男ならば、すぐにエイミーの魅力と能力にとり憑かれたようになり溺愛してしまうだろう。

 それでは身を滅ぼしかねない。自制心があり、欲に薄く穏やかな人間が望ましい。そう思ったところで、それを決めるのは早川ではない。


 長々と手を握り合っているので、そろそろ周囲の目が厳しいものになっているのがわかる。

「英心様?」

 小首をかしげる仕種もまだどこかあどけない。早川は笑ってやんわりと手を引く。

「他の者達も浄化してやってください」

「はい!」

 早川の頼みにエイミーは張り切って返事をする。

「軽く触れる程度で良いんですよ。殿下が疲れてしまいます」

「はい」

 城の人間の穢れを溜めさせないためにはエイミーの能力が必要であるが、彼女の回復能力とそれに伴う快楽を知る人間が増えるのは問題である。いつなんどき不埒な思いを抱いた人間が現れるともわからない。エイミーが害される可能性は極力減らすべきである。


 同行していたナルミス、カージス、マシュウの浄化を終えると、エイミーはすすっと早川の隣に戻り片腕をとると絡ませてくる。

「英心様、お話ししましょう」

「えーと……」

 甘えを含んだ媚が精一杯の背伸びだと感じる。

 この娘が市井の産まれや下位貴族の産まれだったならば、こういう所作と能力をもって成り上がりができたであろう。

 しかし、彼女は王族の娘で、最高の地位を得ている。なんとも宝の持ち腐れに感じる。


 色恋の真似事などする機会にもなかなか恵まれないだろう。考えれば考えるほど哀れだった。

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