68 鍛冶屋へ行こう
「また迎えに来てくださいね」
「ああ、もちろん」
「必ずですよ」
王城へと出向く、その前に鍛冶屋へ寄る。
ルーティアはアンダーソン家で留守番だ。ルーティアの身元の保護はオスカーが引き受けてくれた。
よく切れる刀が欲しいと話すと、オスカーが快く金を出してくれると言ってくれた。オスカーは実に金払いがいい。第二王子派に取り入ろうと思っていたのに、その必要がないくらい色々としてくれるし、これからもしてくれそうだ。
だが、と早川は考える。
人は移り気な上、命は儚いもの。オスカーだけをいつまでも頼みにし続けることは難しい、と。
だから、いまだに第二王子派との接触は諦めていない。
こうやってオスカーに遇してもらっていれば、早川が第一王子派につくと考えて焦って接触してきてくれないだろうか、とも考える。
それには早川の存在が重要だと思わせることが必要だ。どうにか目立つ戦功を上げてそれを知らしめねばと思案する。
「片刃で長さはこれくらいで反りがあって切れ味がいいのがいいんだ」
紹介された鍛冶屋で欲しい得物を説明する。説明するが、怪訝そうな顔をされて伝わってなさそうである。現物があればいいのにとつくづく思う。
「これは小刀なんだが」
見せられるものが懐に忍ばせて持っていた小刀しかない。儀礼のために刀を外していたのが、こんな形で仇になるとはと悔いる。
切れ味を見せるために紙を裂く。その切れ味の鋭さに一同が目を見張る。
「なんだ、その切れ味は……」
鍛冶職人は目の色を変えて小刀を見つめる。
「俺も詳しい訳じゃないが、柔らかい鉄と硬い鉄を使って鍛造しながら作るらしい」
「柔らかい鉄と硬い鉄?」
「芯の部分に柔らかい鉄を使って折れにくくし、外側に硬い鉄を使って鋭さを持たせるそうだ」
「……いや、そういう製法は聞いたことがある。東の国では反りのある曲がった剣がよく使われていると聞く。そちらは暑い国でこちらほど重装の鎧を着込まないから、こちらのような重く頑丈な剣が必要ではないらしい」
話を聞く内に思い出した知識を元に鍛冶職人は語る。鎧に対して適した武器がそれぞれ必要だという。
「こちらで使われる剣がこんなに重いのは鎧の上から攻撃するためだというのは、わかる。だが、俺たちが今戦ってる敵はそういう対鎧用の武器は必要ではないんだ。なにせ正体は人間ではないんだ。そりゃあ鎧を着た人間に扮することもあるだろうから、こちら仕様の重い剣もあった方がいいが……」
要するに手に馴染んだ刀の方が使いやすいので、それを使いたいというただの我が儘である。
「なぜこんなに切れる必要があるんだ」
言い訳が苦しいなと思ってると、オスカーが素朴な疑問を口にする。
「そちらの戦も鎧ぐらい着るだろう? いくら切れ味が良くたって、鎧に当てれば切れないじゃないか」
「ああ、刀は戦では補助的な役割が多いですね。よく活躍するのは銃、弓矢、槍です。ですが刀は小回りが効くので乱戦に向いてるんですよ。こう、鎧の隙間を狙ってズバッと」
説明しながら四方の敵を攻撃する真似をする。
「鋭い切れ味の刃物で切りつけると、広範囲を一気に傷つけられるんですよ。治りにくい傷がしっかりつくんです」
「殺意が強いな……」
「そして首を切り落として」
ここらで一同の表情がぐっと暗くなった。
「なぜ首を切り落とすんだ」
「持って帰って恩賞を決めるんですよ」
「ああ、そういう理由があるんだな……」
青ざめながらも、オスカーは一応の理解を示した。
「首を飾ったりするそういう蛮族的な風習でもあるのかと思った」
ナルミスは偏見を恐れることなく口にする。
「ああ! 見せしめに並べて置いたり、飾って鑑賞することは普通にやるぞ! 首の目付きの向きで吉凶を占ったりとかな!」
早川は明るく軽い調子で言う。
「どうです。中々の野蛮さでしょう、俺の国は」
ハハハ! と笑い飛ばして言われて、聞かされた方はずしんと気落ちした。
鍛冶屋が言っている東の国は中東とかその辺のことです。




