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51 役割は人それぞれ2

「ただいま戻りました」

 この地を治める貴族の家に先触れに出していたマシュウが帰ってきた。

「領主はお忙しいそうでお会いになれないそうです。その代わり魔物討伐は自由にして良いと許可が出ました」

「ええー……」


 会えないと言うことは、口車に乗せて金や武器を出させることはできないと言うことだ。

「お会いにならないのに、斥候はちゃっかり出してくるのか。へえー」

 声の調子から、わずかに機嫌が悪くなったことがわかる。


「こいつ殺していいかな」

「絶対やめろ!」

 早川の言葉にナルミスは全力で否定する。

「なんで殺すって発想になるんだ!」

「なめられるより恐れられた方が交渉とかやり易いかなって思って」

「発想が野蛮すぎる!」

「そうです。私は野蛮人です」

 気にも止めずぬけぬけと言ってのける。

「お前は聖女様の代わりに来てるってことを忘れるなよ!」


「代わりねえ。そこがまず違うと思うんだよな」

 叱り飛ばすナルミスの発言に思うところがあり、早川はひとりごちた。



 この地の水源地は比較的町の近くにある。町外れの森に入って、ほんの数分歩けば着く。

「霊験あらたかな水とされてるそうです。町の娘が一人、病の母のためにと昨日この水を汲みに行ったそうなんです。ですが、そのまま戻らないそうです」

「ふーん」

 マシュウの報告に早川は興味なさ気に相づちをうつ。ナルミスは表情を明るくさせる。


「その娘を助けられれば、お前の世間への評判も良くなるぞ! そうすれば、お前に会いたくないと思う輩も減る!」

「お前も功を上げたいんだろうが、そんな希望を持つのはやめろ」

 早川は冷静に否定する。


「どうせその娘はもう死んでる。人が相手ではないんだ。人質にしようなんて向こうは思わない」

 低く小さい声で周囲に聞こえないように、残酷な見立てを述べてくる。

 一旦持った希望はすぐにしぼんだ。


「ほらカージス、いつまでもへこんでるなよ、仕事だぞー。お前が油断しなければ、ルーに負けるなんてないんだからさー。本番じゃなくてよかったじゃねーか」

 脱け殻になってるカージスを適当に慰めつつ、歩みを進める。


「あの、この人どうするんですか?」

 マシュウが捕縛した男の処遇を尋ねてくる。

「えー、解放したら仲間呼んで反撃に出るんじゃねーの」

 そのまま捕まえとけと早川は言う。

「私は今回、この人の見張りですか?」

 不安そうにマシュウは言うが、早川は譲らない。


「お前がそいつに負けるわけないだろう?」

 顔を近づけて低く小さい声で言ってくる早川に、マシュウは無言で対する。

 早川はマシュウを本物のよく訓練された密偵だと思っているので、決して過小評価はしない。

「カージスは敵に相対するのが本分だし、ルーはまだ実力不足。ナルミスは性格が向かない。お前しかできるやつがいない」

「……わかりました」

 マシュウは了承した。捕縛した男を連れたまま、一行は森に入っていく。



 水源地を守るように現れた魔物は、年若い女性の姿をしていた。

「戻らない町娘だよな……」

「本当に助けられないんですか?」

 カージスは弱気な発言をする。


「攻撃できないのか?」

 淡々と言う早川を責めるようにカージスやナルミスが振り返ってくる。


「俺の役目を教えてやるよ。俺は、聖女様の代わりなんかじゃない」

 早川は前に前にと進んでいく。構えた剣が一瞬光ったように見えた。

「お前らや聖女様が殺せないものを殺すために来たんだよ。俺は尖兵。露払いを担う者」

 女の姿の魔物の髪が触手のように蠢き襲いかかる。それを交わし切り伏せ、魔物の体へ近づいていく。

 ためらいなくその細い体を叩き切る。女の体は崩れ去っていく。


「……お前はそれでいいのか?」

 早川の語る通りだとすれば、それは完全な汚れ役だ。

 ともすれば、人から尊敬どころか敬遠されてしまう役割だ。


 ナルミスの問いに、早川は笑って答える。

「最初から、選択肢なんて用意されてないだろう? 俺はやるしかないんだよ」

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