50 役割は人それぞれ1
「行きます!」
ルーティアは槍を構えると、剣を構えているカージスに向かっていく。
カンカンカンカンとぶつかり合う槍と剣が小気味良く音を立てる。
カージスは始め余裕綽綽で打ち合いをいなしていたが、次第に焦り始める。
「え? あれ? ちょっと待って、これ、ええーっ!」
ルーティアの繰り出す槍の速度が予想以上で、受け止めきれなくなる。
ガツッと一撃、腕に食らい剣を取り落とした。
「う、うそ……」
自身の不甲斐なさにカージスは色を失う。ルーティアはじわじわと目を見開くと、手にした勝利に歓喜した。
「私! 槍の使い手になりますわ!」
高らかに宣言する。早川はそれを笑顔でうなずいて肯定してやる。
「このように、剣で槍と戦うには三倍以上の実力が必要と言われているんだ。それくらい、槍というのは強いし、素人同然でもそれなりに戦えるようになる。そんな武器だ」
早川は槍の特性を解説する。
「この国の軍が槍の訓練をしないのはある意味合理的と言える。ただ持たすだけで戦力になるから、かき集めてきた歩兵に槍を持たせるのは定石中の定石」
早川の解説にルーティアは熱心に聞き入ってうなずく。
カージスはへこんでてそれどころではない。ナルミスは斜に構えつつも黙って聞いている。
「じゃあ、俺とも打ち合うか!」
「はい!」
今度は早川がルーティアの相手をする。
向かっていったルーティアの槍が早川の剣に届くかと思った刹那、早川が動く。
「えっ?」
カラン、と槍が地に落ちる。
ルーティアの手に残るのはわずかな衝撃。どうやって槍を落とされたのか、それを知覚することはできなかった。
早川を見やると、笑顔を返される。
「じゃあ、武器を失ったときの対処法も勉強しようか」
「武器を失ったときの対処法、まず一つ目はもう一つ隠し持ってた武器で対処する」
言いながら短剣を取り出す。
マシュウを使い走りさせて入手した短剣である。どこへ隠し持つか、ルーティアに触れながら思案する。
とりあえず腰の背中側に帯剣させる。
「素手になったと思わせて、向かってきたところを、こうだ」
身ぶり手振りで実演して見せる。
「後はこんな隠し武器もある」
見せたのは手のひらより少し大きい鉄の棒、寸鉄である。
これは早川が元いた世界より持ち込んだものを見せて、通りすがりの町の鍛冶屋に作らせたものだ。
「こんな小さな鉄の棒でも、当たれば痛い。うまく急所に当たれば、相手を倒すことも可能だ。手に当てて武器を落とさせるのを狙っても良い」
眉間、こめかみ、喉など急所を指し示しながら教える。3人にそれぞれ寸鉄を渡す。
マシュウには既に渡してある。
「いやこんなのもらっても……」
ナルミスは戸惑うが早川は押し付ける。
「鎖骨が狙えるなら、狙っても良い。こんな風に」
ナルミスの腕をつかんで自身の鎖骨に寸鉄を当てる真似をしたりと、教えを続行する。
「さっきから騎士道に悖るようなことばかり教えてくれるな」
「生きるためだからな。そんな綺麗事は二の次だ」
「と言うか、これは人間相手の攻撃だろう?」
「この国の魔物は人間の姿をしてるんだろう?」
「これが効くのか……?」
ナルミスは懐疑的だ。
「魔物に限らず、操られた人間と戦う可能性も視野に入れよう」
「そんな手段も使ってくるのか!?」
「いやー、わからん。そうならないと良いなと思ってるけど、対策はしとこうや」
驚くナルミスに対し、早川はヘラヘラと笑ってる。
「お。じゃあ、とりあえず実践で練習してみるか」
「実践?」
言うが否や早川は振り返って、木立の中に入り、一人の男を引きずり出した。
「これどこの誰だろうな。斥候だろうけど、暗殺者だったりするかな? 恐らく簡単には口を割らんだろうから、拷問も兼ねて練習台に使おう」
男の腕の関節を極めながら笑顔で残酷なことを平然と言う。
「私はこの地の領主より派遣された男です!」
拷問の一言に怯えた男はすぐさま情報を吐く。
「なんだつまらん」
「つまらんて、お前……」
「ただの見張りです! 暗殺はしません!」
「本当につまらないな……」
その一段と低い声が真に迫っていたので、ナルミスは内心そら恐ろしく感じる。
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