閑話 何で食べたんですか
ムカデを倒しきると、ほぼ日は暮れかけていた。
「民家を探しましょう。見つからなかったら野宿で」
この時間からの宿探しは苦労しそうだ。清六が一旦退却を提案した意味がわかった気がした。
「お?」
案外あっさりと見つかった。その家の前にどこかで見た顔があった。
「おお、さっきの。迂回しすぎて道に迷ったのか?」
「そんなとこです」
魔物の情報を教えてくれた炭焼きだった。
「狭いが寛いでってくれ。ーー親父、客人だ。何か出してやってくれ」
家の中には年配の男性が一人いた。
「んあ? ……らっしゃい」
寝ぼけていたのか、目を瞬かせながらモゴモゴと不明瞭にしゃべる。
「俺はちょっと仕事の道具を片付けてくる。後で湯を沸かすから、それで体を拭うといい。女の子は奥の部屋を使ってくれ。衝立もあるから」
炭焼きは親切な男だった。こんな殺伐とした世界で奇特な人間もいるもんだとクリフォードは思う。
「ありあわせのもんで悪いがね」
「ありがとうございます」
炭焼きの父親が皿を持ってくる。
「これは?」
「イナゴを炒めたやつだ」
千佐と清六の顔から表情が消えた。
彼らは飢えに苦しんでいた頃に食べたことがあった。逆に言えば、それ以外で積極的に食べたいわけではない。
「へー。いただきます」
クリフォードは特に疑問にも思わず手をつける。
「え、あっ、ちょっ」
清六は慌てて止めようとするが、もう食べている。
「え? 食べたらまずかった?」
「不味くはないでしょう」
「はい。癖はないですね」
止める清六に対し聞き返すと、炭焼きの父が話しかけてくる。
見た目の割に、味は香ばしくて塩が振ってあり食べやすい。
清六は観念して自分も手をつける。千佐は暗い顔をしている。
「こういう珍味もあるんだが、ひとつ呼ばれてくれるかい」
「はあ」
卵の殻を半分割ったものが出てくる。中は孵化する前の雛がいる。
「どう食べるんですか?」
「匙ですくってください」
「へー」
「いやいやいやいや!」
清六はより一層慌てる。千佐はさすがにこれは手がつけられなかった。
「このアホ親父!客人に何出してんだ!」
「親に向かってアホとは、なんだ!」
戻ってきた炭焼きが父親と格闘を始めてしまった。
「貴重なものだったんだろうか」
「いやいや……」
平然と完食してしまったクリフォードに、清六は力無く首を振る。
「別に残したっていいんですよ? 違う世界にこられて、口に合わない食べ物だってあったでしょう?」
清六は夜寝る前に、クリフォードに進言する。
思えば、クリフォードが食事を残すところを見たことがない。彼が存外気を使う性格なのはわかっていたので、その気遣いは無用だと伝えたかった。
クリフォードは首をかしげる。
「この世界の食べ物は結構美味しいけど。味はしっかりついてるし、温かいし」
美味しいの基準がずいぶん低いんじゃないかと清六と千佐は思う。
クリフォードの自国にいた頃の食事は毒味されたあとに出されるので、大体が冷めてしまっていた。
それゆえ、温かい料理が無条件に美味しいものに思えている。
「あの鳥の雛の、美味しかったんですか?」
千佐が尋ねる。
「いや、そんなに……」
「じゃあ、何で食べたんですか!」
清六はキレ気味に言った。
この人にもっといいものを食べさせないといけない。千佐と清六は改めてそう思った。




