39 言い訳と心配性と
「ちょっと話をまとめてきました」
清六が縁側に来て座る。広げて見せるのは簡易の地図だ。
「この辺りが早川領で、この辺に別所領。ふじ様のご実家がこの辺りです」
早川領の西に別所領、ふじの実家は早川領より北東にある。
「どうも、魔物の目撃情報は東側に多いですね。西側の目撃情報は別所領以外無いです」
「東側に何があるんだ?」
「京です」
都と聞いて、今まで全くこの国の中心地がどこかを意識してなかったことに気づいた。
目の前の問題ばかりに目が向いて、全体を見る目が失われているのを感じる。
「魔物が人を食うなら、人の多いところの近くにいるのが当たり前ですよね。見ての通り早川領は田舎です。ここより西も同じく田舎。東側に固まってるのは当然かと」
「なるほど」
「田舎に流れ着いてるやつは縄張り争いに破れたんですかね。縄張りと言う意識があるのかどうかは知りませんが」
「京は近いのか?」
クリフォードの言葉に、清六はちょっとだけにやっと笑った。
「通正様が三泊以上は駄目だと言ったでしょう。あれは三日もあれば京に着いてしまうからですよ」
「ああ……」
「つまり、通正様は京に行かせたくないわけです。あの通りの心配性な方ですから」
清六が笑った意味がわかった。通正の心配は理解できるが、それを通しきることはできない。
「いずれは京に行かなければいけないよなあ」
「ええ。この辺りにいる雑魚を倒したら絶対に目指すべきですね」
黙って地図を覗き込んでた千佐が地図に書き込まれた丸を指差す。
「義姉上の実家近くに複数目撃情報がある?」
「そうですね。一回倒しきるごとに帰って来いなんて言われてましたが、そんな効率の悪いことできません。今後、関所を越えないといけないところもあるでしょうし、一々帰ってると金がもったいない」
発言からして清六は合理主義者である。
「いいのか?」
「あなたは早川家の郎党というわけでもないのだから、通正様に従わなきゃいけない道理なんて無いんですよ」
清六の言葉に千佐がうんうんと頷いている。
「だから、今から適当な言い訳を考えといてください」
そして課される新たな問題。
「ええ……言い訳かー。言い訳……」
「全部聞いたわ」
真剣に考え出したところで、すぐ後ろの襖が開いた。
「通正様、気配を消すのがお上手ですねぇー」
「白々しいわ馬鹿者。お前からそそのかしおって」
笑って媚びる清六に通正が詰め寄る。通正が千佐を見て長いため息を吐いた。
「千佐を連れていかないのならこんな心配をすることもないのだ……」
翌日、ふじの実家近くに向けて出発する。
「こっちの方が栄えてるの?」
「いやー田舎ですけどね。丹波や但馬方面に行く街道が近くにありますね」
街道があると言うことは人通りがそれなりにありそうだ。
道中に川があったので、別所領での出来事を思い出して中を見る。
「!?」
浮かんだ尻が流れていく光景に、声も無く驚く。
「あー、身ぐるみはがされてますね。盗賊にやられたんでしょう」
それを見て清六も千佐も平然としている。
「命が軽い……」
クリフォードは通正の心配が過剰とは思えなくなった。
盗賊の被害者を目撃すれば、盗賊そのものに出会うのも必然と言える。
「不殺なんて意味がないからやめてください」
囲まれているが、清六は冷静に対処する。
目潰しで撹乱した後、最短の動きで盗賊を殺していく。
清六が使うのは打刀よりも刃渡りが短く反りもない真っ直ぐの刀である。切りつけるよりも刺殺に向いている。
「ここで殺さないと他に被害者が増えるだけです」
清六の言ってることはよくわかる。クリフォードも不殺の信念があるわけではない。
ただその覚悟が全くできてなかっただけの話だ。
自国にいた頃も誰かが盗賊の被害に逢い、それを討伐して処刑はされていたのだ。
直接手を下したことがないだけで、同じように血は流れていた。
盗賊の一人が千佐を捕らえようと動く。千佐は構えていた懐刀で盗賊の指を切りつけて逃げる。千佐の方がよっぽど覚悟が決まっている。
結局、盗賊は清六が一人ですべて倒した。
「ごめん」
「まあ、私はこういう雑事をやるためについてきてますから。クリフ様はご自分のなすべき事をされればいいです」
情けなさで頭が痛い。
千佐「覚悟?」
清六「千佐様はそんなこと微塵も考えてませんよ(お猿だから……)」




