35 魔導師のブチギレに分析と破壊を添えて
「もう逃げていいよね!?」
「そちらには行かせませんので、見ててもらえますか」
逃げ腰のセオドアに対し、逃げるなと催促する。大将格に当たる人間にはどっしりと構えていてもらいたい。
さて、どう倒すか。魔物はセオドアの光を受けて、じりじりと後退している。
わざわざ出てきておいて笑わせおると鼻を鳴らす。
ふい、と横を通ってナルミスが前に出た。
おや、と思って横目で見たが顔は髪で隠れて表情が読み取れなかった。
「どいつもこいつもいい加減にしろーーーー!」
叫び声と同時に、巨大な水柱が現れて魔物を包んだ。
「おお!」
派手に放たれた魔法に、水魔法を初めて見た早川は感動する。しかし、水の中では魔物は蠢いており、効果がないことを示していた。
「水には耐性があるな」
呟くと、ナルミスが舌打ちをする。
それと共に、水柱が消えた。次いで現れた複数の火球が魔物を殴る。
「火も効いてない!?」
「いや……」
カージスが嘆いたが、早川は違うと感じた。
先程得た水を使って、火を防御しているように見える。わざわざ防御していることから考えて、恐らく火は弱点の一つだ。
物理攻撃は効く。なので、水で攻撃するには大量に用意して圧をかければ物理攻撃と同じように使える。
つまり、殴った方がよっぽど早い。わざわざ魔法で水を用意するのは効率が悪いといえた。
「火は使えそうだ。後は、何があるんだ?」
今後のためにも魔法の種類が知りたかった。それぞれどんな効果があるのか見てみたい。
ふわりと風が巻き起こった。そこからの急な突風。つむじ風が魔物を拘束する。
「おおー、すげえ」
拘束された魔物の体が風による切断で徐々に千切れていく。
「鎌鼬か」
感心していると、衝撃で窓がひび割れた。
「おいおい、やばいなこれ」
「壊さないで……」
セオドアが小声で嘆く。
明らかに屋内空間で使うのには向いてない魔法である。
息をするのも苦しいぐらいの風圧があったところで、完全に窓が割れ切ったことにより外からの空気が一気に流入する。
「ああああああ!」
「こいつバカ!本当バカ!」
強風がさらに加速し、体を支えるので精一杯になる。
早川は思わずなじった。
彼らの背後でも悲鳴が上がっている。被害は大きそうだ。
「おいコラ、ナルミス!」
呼び掛けるが、返事はない。
「戦うのが嫌だ? 向いてない? それで人には戦わせといて安全なところに逃げといて、ちゃっかり王位はいただくだと? そんな不条理が許されてたまるかーーーー!」
叫び声と共に巨大な氷塊が現れて、魔物を横殴りにする。
その勢いのままに壁に激突すると、壁は崩壊して魔物は外に弾き出された。
「……いやいや」
ぽっかりと空いた穴から外を見ながら、呆れが呟きとなって出る。
しかし、本人には届かない。
ナルミスの叫びはわからなくもないが、セオドアを責めるのも間違っている気がする。
大体、クリフォードはあの生真面目そうな性格からして自ら進んで戦いに挑んでいる。誰かに言われてやらされてるわけではない。
「ずいぶん嫌われちゃったなあー」
セオドアは間延びした声で言い、然程嘆いてないように聞こえる。
「何か原因はあるんですか?」
「積み重ねってやつかなー。習い事とか兄上達と一緒にやると、兄上は僕にこうした方がいいとか教えてくれるんだよね。で、その教えのお陰で兄上よりも早く習得できたりするわけ。兄上はそれ見て喜んでくれるんだけど、ナルミスは横で怒ってるんだよ。兄上が苦労して覚えたことを、いいとこ取りしてるように見えるから」
「なるほど」
「失敗した上で成功体験を積んでる兄上の方が芯は強いんだけどね」
「それで優秀でいることをやめたんですか? 兄より優秀になってはいけないと?」
早川の言葉に、セオドアは見上げてくる。そこに表情はない。
「別にナルミスのせいではないよ」
「では、兄より優秀だともてはやしてくる佞臣のせいですか」
笑いながら問うが、答えはなかった。
「他の誰より権力に遠い私だから聞けることだと思うんですが、セオドア殿下。王になりたいですか」
声を落とし、顔を近づけて聞いた。
視線を逸らされた。セオドアは外を見ながら呟く。
「兄上は必ず帰ってくると信じてる。僕は誰より兄上が強いと知ってるんだ」
「そうですか」
直接的な答えではなかったが、否定の言葉だった。
「……それで、何でお前は泣いてんの?」
カージスがぐすぐすと涙している。
その様子が訳がわからなくて、早川は引く。
「だっ、だって王子達の不仲説が嘘だってことがわかったんですよっ! 本当に、良かったと思ったんです……」
善良な男カージスはどろどろの愛憎劇より、心を和ます幸福な話の方が好きだった。
誰が広めたのかもわからない王子達の骨肉の争い話に心底嫌気がさしていたので、それが嘘だとわかり、心から安堵したのだった。
「そういう噂があるのか」
クリフォード行方不明以前から流されたことは明白である。
それはつまり、王家に骨肉の争いが起こってほしい誰かが流した噂といえる。
セオドアが望まなくとも、彼を王に押し上げようとする一派は必ず出てくると予想していたが、その一派はクリフォード健在の頃からすでに存在していたことがわかる。
面白いと思い、浮かべた笑みは早川を酷薄に見せた。本人は無自覚である。
庭園に投げ出された魔物は、動きも緩慢になり明らかに弱っていた。
ナルミスは攻撃を緩めず氷のつぶてをぶつけ続ける。国随一の魔導師だけあって、多彩な魔法攻撃を見せる。
「水には強い。光と火には弱い。乾燥はどうだろうか。温度変化は……」
早川は魔物の弱点を分析していく。
外側を覆う体を得ると、ある程度光に耐えれるようである。
体が傘の役割を果たすのだろう。体を得るには獲物の肉体を完全に食べきる必要がある。
そして、多くの獲物の肉体を食べたやつほど強い体を手に入れる。
「水に強いの? じゃあ、水魔法は使えないね。水魔法適性者が一番多いんだけどな」
「あいつら成長前には水の中を泳いでたりするんですよ」
「えっ」
早川の発言にセオドアは絶句する。
「それ、うっかり飲み水に入ってたらやばくない?」
「でも、わざわざ生水なんて飲まんでしょ?」
「飲むこともありますよ……だって、うちの国は水がきれいなことで有名なんです。透明度の高い湧き水があちこちにありますんで」
「何ぃ!?」
カージスの言葉に今度は早川が絶句した。
「水源を探る必要があるな」
「生水は飲まない様にってふれを出すよ」
「お願いしますよ」
何となく今後の方針が決まった。
「これでとどめだーーー!」
決着がつきそうである。一方的に攻撃をし続けたわりには、中々しぶとかった。
集合するとそれだけ倒しづらくなるのだろう。
現れた巨大な氷の杭が魔物を完全に刺し貫く。衝撃に耐えられず、魔物は砕け散った。
「おおおおお!」
早川達は喝采した。
氷の杭の勢いは収まらず、そのまま庭園の噴水を破壊した。
「うわあ……」
せっかくの勝利に酔う暇もなく、辺りは水浸しになり、文字通り冷や水を浴びることとなってしまった。
窓割れたところ、空想科学的に正しいかどうかわかりません




