33 ディスられ魔導師は耐久中
「殿下は魔物を祓うことはできるが、直接討ち滅ぼすような力はお持ちでない」
早川は歩みを進めつつ、説明をする。
「言うなれば、守り専門の聖女だな。魔物を城から退けた後は、殿下に被害が及ばぬようにこの城の防衛を固めねばな」
エイミーの能力で守りを強化できれば、今回のような轍は二度と踏まずに済むだろうと早川は予想した。
「何で城が狙われたんですかね」
カージスは自分が勤めている間にこんなことが起こったことが解せない。
自分の代で平和が終わるなど、望んでいなかった。こんなことが起こると予想ができるのなら城勤めの兵士など目指さなかった。
「敵対してるなら城は落とすだろ」
身も蓋もない物言いである。
「例えば、良さそうな土地を見つける。城を築こうとする。そこに、鹿や猪がいる。狩れば食料になる。なら、城を築く前に狩るだろう」
「その話の鹿や猪は俺らですか?」
「あいつらにとっての食料だろ?」
この男の言葉選びは、露悪的だ。わざとなのだろうか。
「そして、全部狩ってしまうよりも飼いやすいのは残しておいて家畜化した方が後々の生活が楽だ。それをする広い土地もある」
「……家畜?」
カージスは急に末恐ろしくなった。
「支配者層を倒す。反抗してくる個体も殺す。残るのは、命令をされることになれている無抵抗な弱い個体だ。わかったか?だから支配者の居城が攻められる」
狙われているのは貴族ばかりだと言うクリフォードの話から建てた仮説である。
「まあ、ただの仮説だ。こんな人間的なことを考えてるかどうかは、わからん。どうせ魔物だしな。理解しようとするだけ無駄よ。ただ打ち倒すしかあるまいて」
わざわざ姿を似せてきている辺り、こちらを学習しようとする意欲はあるらしい。
だが、それもこれも食べるためである。
「お前に聞きたい。お前は何を望んでるんだ」
ナルミスが早川に問う。
「望み?」
言われて首を傾げる。
召喚をした側がそれを言うのかと思った。
魔物討伐を願って呼び出しておいて、わざわざ望みを聞いてくるとはどう言うことだろうか。
「魔物討伐の暁には、王から望むものを賜るだろう」
「ははあ、褒賞の話か」
確かに戦と言えば功を上げることだ。功を上げれば褒賞が貰える。
しかし、この地は元来早川の住む土地ではない。
知行地をもらっても統治はできないだろうし、金をもらっても世界を跨いでは使えない。
刀など貰っても、こちらの世界の品は早川の好みに合致しない。
欲しいものがない。考えてみれば、難題だった。
「難しいな」
正直に思いを漏らす。名案があるのなら教えて欲しいくらいだ。
「まさか姫の身を欲しがったりはしないよな」
「はあ?」
勇者と一国の姫が結ばれるのは物語の定番の型である。しかし、そんな知識は早川にはない。
ナルミスはやたらと親密な早川とエイミーに対してもしやと思い、不安に駆られて聞いたのだった。
クリフォード不在の隙にその妹が得体の知れない男に奪われるなどあってはならないと、クリフォードへの友情のため生じた義侠心がそうさせたのだ。
「エイミー殿下はおいくつだ?まだ子供だろう」
「17歳だ」
「子供じゃないか」
婚姻するのにおかしい歳ではないが、早川の相手としては歳が離れすぎている。
「お前はいくつだ?」
「26だ」
「その年齢差でエイミー殿下を対象にするのはまずいぞ」
「まずいっすね」
早川の発言にカージスも乗っかる。
「俺の話じゃない!こっちはほんの子供の頃から知ってるんだぞ!」
「なおのことまずいな」
早川は自分自身も妹に対しておかしな執着を持っているくせに、そんなことは忘れて非難する。
「だから、違う!」
ナルミスの訴えは空しく響いた。
「おや、これはナルミス殿」
彼らの前に現れた男達がナルミスを呼び止める。ナルミスと服装が似ている。魔導師か、と早川は推測する。
「こんな朝早くから城の見回りですか」
「此度の失点、取り返すには何でもする必要がありますな」
「しかし、こんなことで取り返せるとも思いませんが」
「そうそう、城の中にすでに魔物が出て被害も広がっているとか。せっかくのがんばりも空しくなりましたな」
その城の中に転がってる死体を作った犯人は目の前の男ですよ、とカージスは内心思っている。恐ろしくて口には出せない。
魔導師達は何やらナルミスに対して思うところがありそうな言い振りである。
「これが我が身に起こったことならと思うとぞっとしますよ。我が国の王子を行方不明にしてしまうなど、考えるだに恐ろしい」
「私なら、城に出てこれなくなりますね。どうやって償えばいいものやら」
クリフォードの行方不明の責任がナルミスに押し付けられているらしい。気の毒な話である。
男達は見たところ、魔物がついてるわけではない。早川は無視して足を進めた。
「何でお前の責任になってるんだ?」
「召喚の儀の際、王子の身を守るための魔方陣を書いたのが俺だ」
なるほど、と頷く。
ということは、ナルミスより早川の方が力が強かったと言うわけである。
「お前には関係ない話だ」
「そうだな」
関係ないわけがない。
だが、それを正直に明かすほど早川はお人好しではない。
「おや、ナルミス殿」
また魔導師が現れた。面倒くさいと思わされる。
「第一王子の右腕たるあなたがこんなところで何をしてるんです。クリフォード王子を探さなくていいんですか」
当てもなくどこへ探しに行けと言うのか。明らかに嫌みである。
「こうなってしまっては、クリフォード王子の王位継承も危うくなりましたな。その状況を他ならぬあなたが作ってしまうとは」
カージスは善良な男なので、端で聞いているだけでもその嫌みの数々が不愉快だった。意を決して早川に助けを求める。
「早川殿、先程エイミー殿下を助けたように、ナルミス殿を助けてあげて下さいよ」
言うと、すごく良い笑顔が返ってきた。
「こいつは煽り耐性が弱そうだから、このまま言わせとこうぜ」
「ええ……」
「若い内の苦労は買ってでもしろと言うだろう? これはナルミスが強くなるために必要な試練だ」
カージスは嬉しそうにしている早川の人格を疑う。
「で、何でこんなに方々に恨みを買ってるんだ、こいつ」
「……ナルミス殿はこの国随一の魔導師なんですけど、ご実家をなくされて天涯孤独の身の上なんです。つまり、後ろ楯がないんですよ。にも関わらず、クリフォード王子の第一の側近なんです」
「おお!つまりお家再興がこいつの肩にかかっていると!」
事情を知ると、早川はより一層嬉しそうに目を輝かせた。
人の不幸を喜ぶ質か、とカージスはげんなりする。
「いいねえ、そういう話は大好きだ。熱い筋書きを見せてくれたら、もっと楽しい」
「面白がらないでくださいよー……」
早川は別に正義漢というわけではないらしい。
カージスはなんだか残念に思えた。
「おや、ナルミス殿」
また魔導師が現れた。同じような声かけにカージスはうんざりする。
不意に、早川が動いた。
一刀両断に切りつける。目撃者は多数。当然、大騒ぎになる。
「あっ、面倒くせ!逃げるぞ!」
「もうちょっと、考えて行動してくださいよ!」
ナルミスの首根っこをつかみ、早川は走り出す。
その後を続きながら、カージスは嘆いた。




