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32 守りの聖女2

「姫様、お一人で出歩かないでくださいと申したはずです」

 エイミーを探していた侍女達が彼らの前に現れた。

「ごめんなさい」

 エイミーは叱られてシュンとする。


「また、癇癪を起こしてないでしょうね」

「王族がむやみやたらに感情のまま位の低いものを打擲するなど、恥ずかしい行いですよ」

 侍女達はさんざんにエイミーを責め立てる。

エイミーの行動に意味があるとわかっていなければその責めの感情を抱くのも当然しょうがない。

だが、早川はエイミーの行動の真相を知っている。服を握りひたすらに耐えるエイミーが気の毒である。


「殿下の平手打ちは聖なる力の分配である」

 早川は侍女達に真実を教えることにした。


「この城は、現在魔物に攻め込まれている。人間に取り憑いて、その姿を乗っ取ろうとしているのだ。それを防ぐ力をお持ちなのが、このエイミー殿下である」

 朗々と告げられた言葉に、侍女達はその意味がすぐにはわからず目を瞬かせる。


「殿下の手より放たれた聖なる力は、その身に入ると穢れを打ち祓い魔の物を寄せなくなるのだ」

 合間に、見上げてくるエイミーを見遣る。

不安げな顔に笑いかける。頼もしげに映ればいいが、悪どいようにも見えるような不敵さが勝手に出てしまう。


「殿下に触れられた者は、その僥倖をありがたく思え」

 上から見下ろすように、強く言い渡す。その様に彼らは圧倒された。


「わ、私」

 エイミーが口を開く。

「怖い雰囲気が城の中を漂っていて、気配のおかしな人がどんどん増えてきて、だから、ずっと怖かったの」

 声を震わせながらも、言葉を紡いでいく。

「クリフ兄様も魔物討伐から帰ってくると、怖い雰囲気がまとわりついてて、つい突き飛ばしてしまったの……本当は労りたかったし、その後も謝りたかったのに……クリフ兄様……」

「第一王子はご健勝ですよ」

 子をあやす気持ちでいるのだが、エイミーが哀艶な雰囲気を持つためにじわじわと庇護欲と征服欲が沸いてくる。


「紫の上……」

 その幼さの残る美しさが何とも危うい。

 彼女は、王族に生まれて良かったのだ。臣下の家に産まれていれば、傾国の美女となっていたであろう。

 さすがに、エイミーほどの年齢の少女に早川は傾いたりはしない。歳が離れすぎている。


「この城に巣食う魔物は、この私がすべて取り除きます。今晩からは殿下が心安く眠れるようになることを保証しますよ」

 早川が宣言すると、エイミーはようやくほのぼのと笑った。


「さあ、この者達にも殿下の聖なる力をお与えください」

「え?」

 早川はエイミーの前に、カージスを引っ張り出した。戸惑うエイミーに笑顔を返す。

「殿下のために粉骨砕身する戦士です。是非にも殿下のお慈悲を賜りますよう」

「どうすればいいの……」

「いつもされてたようにすればいいんですよ。景気よくバシッと」

「えぅ……」

 いつもの行いと言われて、エイミーは再び目を潤ませる。決して望んでやっていたことではないのだ。


「さあ、殿下。なにも気に病む必要はないのです」

 純朴な少女に、人を打つことを強要する。傍目には悪い大人でしかない。

 しかも、さも善行であるかのように吹き込む。

 カージスは蚊帳の外にいたはずなのに、唐突にエイミーの前に出されて思考が追い付かない。


「お前、殿下に何を教え込む気だ!?」

 ナルミスははっと我に返り、早川の行いを非難する。

「殿下、この男の言うことなど無視していいんですよ!」

「殿下、外野が何を言おうとも、真義を通すのです」

 ナルミスと早川、両方から口々言われて、エイミーは混乱してあわあわおどおどと目を回す。

 カージスは、話に入れないのでただエイミーを見つめていた。そのあわてふためく様が、とても可愛らしくて見飽きることがなかった。


「ご、ごめんなさい!」

 エイミーは叫び、腕を振るった。スパン!といい音が鳴る。

「ぶふっ」

 見惚れていたカージスは不意打ちに叩かれたので、変な声を漏らす。

 音の割りに大した痛みはなかった。エイミーは非力である。


「さあ、殿下に礼を言うんだ」

「あ、ありがとうございます……?」

 早川に促されるまま、礼を口にする。

 一体これは何なんだろう、カージスの思考は追い付かない。

「もう少し、でかい声で」

「ありがとうございます!」

「いい加減にしろ!」

 おかしな展開にナルミスが声を上げて抵抗する。


「殿下、よく頑張りましたね」

「……手が痛いの」

「ああ、これは気づきませんで、申し訳ありません……」

 エイミーの訴えに早川は恭しく手を取り、さする。

 一体、何を見せられているのか?

 初対面とは思えないほど二人の距離が近い。


「お前は、本当に……」

 ナルミスが心底苛立たしげに、低い声を漏らす。カージスはその声に怖じ気づく。冷や汗が背中を伝った。


「では、こうしましょう。握手はどうですか。それならば、殿下の手も痛みません」

 早川の提案に、エイミーはパアッと表情を明るくさせる。

 早川はナルミスの腕をつかむと、エイミーに差し出す。


「お前!」

「ナルミス」

 抗議の声を出そうとしたところに、エイミーが笑いかけながらナルミスの手を握った。


「う、あっ!?」

 ナルミスはエイミーの力をはっきりと認識した。と同時に、エイミーの清らかな笑顔をまっすぐ向けられて、心が高揚する。

「な、な……」

 言葉がうまく出てこない。


「お前ら、女に免疫無さすぎるだろう……」

 早川はその様子に呆れたように呟く。

 顔は悪くないはずなのに、こんな初な反応をするとは、と意外に思った。

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