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30 早起きは三文の徳とやら

 カージスは昨日まではごく普通の兵士の一人だった。

 朝はギリギリまで寝ているのが彼の常であった。


「起きろ!」

 よく響く男の声で目覚め、飛び起きる。

「お前、俺の目付だろう! 俺より早く起きんでどうする!」

「え……おはようございます」

 朝イチから大音声で一喝するのは、昨日異世界より召喚された男である。

 カージスはこの男の事を監視するように言い渡されていた。


「一体どうされたんですか」

「今から、城中を見て回る。さっさと支度を済ませて着いて来い!」

 なぜ、この男はカージスの上司のような態度でいるのだろうか。

 寝起きで回らない頭で疑問に思いつつ、命令されることに慣れているカージスはつい従ってしまう。



「この城に居る人に取り憑いた魔物を全部倒す」

 宣言されて、無理だろとカージスは思う。城には大量に人がいる。それらすべてを調べていくつもりだろうか。

「行くぞ!」

 カージスの意見など求めていないのか、早川はすぐに走り出してしまった。



「通り魔みたいだ……」

 早川の通った後に死体が転がっている。早川には魔物憑きの見分けが的確にわかるらしく、迷いなく且つ容赦なく倒していく。

 カージスは止めることもできず、かといって手助けするわけでもなく、ただついていくだけである。


「すいません!」

「なんだ?」

 呼び掛ければ足は止めないながらも、答えてくれる。

「なんで、こんな早朝からやるんです?」

「あいつらは昼より夜の方が活発に動く。真昼に活動できないわけではないが、夜の方が楽に動けるみたいだ。夜行性にとって早朝は俺らにとっての夕方みたいなもんだろう。一晩活動して疲れたところが今だ」

 一応理屈があったらしい。

 理屈には納得したが、心理的には納得しづらい。

 広がっている光景が惨状としか言えないのだ。



「何やってんだ!」

 ナルミスに見つかった。

「昨日あんな騒動起こして、白い目で見られて、何で今日こんなことができるんだ!」

「誰が何を言おうが、関係ない。俺のやることは魔物退治以外にない」

 非難されようが早川は全くぶれない。朝から元気だなこいつ、と思っている。


「お前も来いよ。俺が倒すときに側にいればお前らも強くなれるぞ」

「はあ?」

 強くなれるという単語に、カージスは興味を引かれた。

 ナルミスは怪訝そうに眉を寄せている。


「魔物を倒したときに、黒い靄みたいなものが爆散していくだろう。植物を手折ったときにも控えめに出るあれだ。これを浴びてると、どうも次に出合った魔物を倒しやすい。だから、今お前らが倒せない魔物でも、俺が倒してその靄を浴びてれば、お前らもその内に倒せるようになる」

「黒い靄?」

「お前にはいったい何が見えているんだ」

 言われて、早川はおやと思う。

 どうやら、彼らにはこの靄が見えていないらしい。

 情報の共有がしたいのに、話してもこれでは実感してもらえなさそうである。

 倒しにくい魔物と倒しやすい魔物とでは出てくる靄の色が違っていると言う話も、したところでわかってもらえなさそうだ。


「まあ、いいからついてこいよ」

 少し、説明が面倒になった。今はとにかく魔物退治である。



「なんだってこんな大量にやられてるんだ……」

「聖女召喚したからだろ。こちら側が切り札を用意したところを冷や水浴びせるようにぶっ叩けば、こちらの戦意は完全につぶれるわな」

 実際に来たのは聖女どころか男臭い田舎侍である。


「だからって、いつの間に」

「召喚の場でわざわざあいつが姿を見せて大暴れしてくれただろ。あいつの役割は陽動だ。騒ぎを起こしてる隙に、仕込みは静かに行うって寸法だな」

 ナルミスは悔しそうに顔を歪める。

 目の前の男がにやにやしながら言うので、この男に対して苛立ちをぶつけそうになる。

「そして、遠方に退治しに行ったところを本丸を攻め落とす。帰ってきた頃には既に城が乗っ取られている。どうだ? この最悪の展開。十分あり得るだろう。だから、今の内に芽は摘んでおいて、守りを固める」

 そうでないと安心して魔物退治などできない。無事に帰ってくる場所があって始めて、戦いに行けるのだ。



 すれ違おうとした侍女を切り伏せる。血などは吹き出ず、ただ崩れ落ちる。これまた、食べきれてないのか死体が残る。

 早川は構わずに進むが、その様を見てナルミスはため息を吐く。


「聖女の奇跡の力があれば、魔物だけを取り除けたのかもしれないのに……」

「何?」

 聞き捨てならんと、早川は聞き返す。


「回復の力で、傷などたちどころに癒したであろう」

「お前らが求めてた聖女ってのは、そんな力の持ち主なのか?」

 千佐にはそんな能力はない。持ってる力は、武器強化と言霊である。


「そうだ、癒しの力で奇跡を巻き起こすとされている」

「癒しの力ねえ」

「ちなみに、お前は傷を治したりする力を持ってたりするか?」

「持ってるわけなかろう」

 そうだよなーと、がっかりした様子でため息を吐く姿を見ながら、千佐が召喚されなくて正解だったなと改めて思う。


 期待を最高にあげた状態で招いた聖女が望んだ力を持ってないと知ったとき、どんな扱いを受けるだろうか。

 あのお人好し王子が側にいたならば迫害まではされないだろうが、影では何をされるかわからない。


黒い靄に関する描写は早川の時だけにして、クリフの時には描写してないはずですが、間違えて書いてるかもしれませんね

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