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3話 原住民、全裸投石。 

 俺の名前はリュウ。22歳。王国の弱小騎士団の下っ端だ。


 基本的に戦いが下手な俺の任務は街の警備。だが魔物達で手一杯な人類に争い事はあまり無く、あの日も俺は街の人達に弱いだの騎士の恥だの言われながらただただ暇な街の警備をやるはずだったのだ。


 ただ突然王様から手紙が届いた。内容は異世界からやって来た勇者様のサポートをして欲しいというもの。俺は震えたね。これは街の人達を見返すチャンスだって。勇者様が一緒なら俺だって活躍できるかもしれないって。


 ちなみに俺の想像してた勇者様は優しさを感じる表情と強さを秘めた瞳を併せ持つセイントなお兄さんだ。二人旅の間に剣の使い方なんかを教えて貰ったり、魔法を教えて貰ったり。いや、もしかしたら女の子かもしれない! じゃあラブラブ二人旅じゃんか! 等と期待していたのだが……、


 実際に召喚されたのは1000人の原住民、グンマーの民! 返せ、俺の夢を返せ!!


 「リュウ、次の禁忌の塔とやらはあとどのくらいだ? 魔物も出てこなくて皆退屈している」


 1001人で次の目標である禁忌の塔を目指して海岸を行軍していると彼らのリーダー、ウガガラが声をかけてきた。ちなみに今は俺とウガガラが軍の先頭を歩いている。


 「そうですね、ここから海沿いに歩いて2時間ほどです。あと魔物は皆さんの強さを本能的に察知しているのでしょう、しばらくは出てこないと思いますよ」


 俺は手に持った地図を見て答えた。


 「むぅ、では休憩にしないか? 戦いの前に準備をしておきたい」


 「準備ですか? ひのきのぼうは全員分作りましたよね。そのせいで宵闇の森が無くなりましたけど……」


 そう、勇者を名乗るだけあってグンマーの民は強かった。でら強かった。魔王軍を見るや全員が凄まじいスピードで突撃し、俺が駆けつけた頃には幹部、エビルデュラハンは既に事切れていたのだ。


 ちなみに奴が着ていた黄金の鎧は今、俺が身につけている。豚に真珠もいい所だが少しだけ鼻が高い。


 「遠距離攻撃の道具を採取したい。攻略対象が塔ならば地の利が物を言うだろうからな」


 「なるほど、いくらグンマーの民でも接近できなければ意味は無いですもんね」


 「そういう事だ」


 「分かりました、では1時間休憩を取ります。魔王軍幹部との戦いが始まったら余裕は無いので今のうちにトイレとか済ませといて下さい」


 俺が後ろのグンマーの民に言うと、そいつがまた後ろのグンマーの民に伝える。1000人もいるのだ。一番後ろまで伝わるのにも少し時間がかかる。


 ◇◆◇


 さて、休憩は終わって行軍を続けているうちに岬にある禁忌の塔に着いた。その見た目は黒と灰色で彩られた巨大な円柱だ。頂上までは150メートルはあるだろう。入口は両開きの門が1つ、門番は既に瞬殺したのでこれから攻略するところだ。


 今回は森の時みたいに大人数では入れない。選りすぐりの戦士達を派遣するべきだろう。だが、俺も街の人に見直されたいという気持ちはある。黄金の鎧もあるし少しは役に立てるはずだ。


 「では行きましょう、ウガガラさん。塔は狭いので入れて10人です。腕に自信がある人……は全員か。とにかくこの中でも特に強い人は俺に付いてきてください」


 「……」


 「あの、ウガガラさん?」


 ウガガラは俺の言葉に耳も貸さず、ただジッと塔の頂上に目を向けている。他のグンマーの戦士もそれに倣ってか、ジッと上を見ている。


 「リュウ」


 「は、はい!」


 ウガガラが俺の名前を呼ぶ。恐ろしい気迫だ。

 

 「魔王軍の幹部とやらは、この塔のどこにいるのだ?」


 「恐らく頂上の部屋かと」

  

 「なぜ分かる?」


 「大体そういうもんなんですよ。幹部とかボスとかって」


 「むぅ、頂上にいては真っ先に戦場に出向けないと思うのだがなぁ」


 王や貴族などの高貴な人が安全のため後方にいるのは普通だ。族長が率先して突撃しているグンマーの民がおかしいのだと思う。


 「まぁ本当に頂上かは分かりませんがこの塔にいるのはほぼ間違いなく確定です」


 「ふむ、では塔に入る必要は無いだろう」


 「は?」


 俺の口から気の抜けたような声が出る。塔に入る必要が無い? この人は何を言ってるんだろう。まさかさっき手に入れた遠距離攻撃手段で塔を攻撃するわけでもないだろうし、


 「何を惚けた顔をしている。投石で塔ごと破壊すればいいだろう」


 さっき手に入れた遠距離攻撃手段で塔を攻撃するようです。そういえば休憩の時に皆で石を拾ったり岩を削ったりしてたっけ……。


 「でもこの塔結構硬そうですよ? 投石で何とかなりますかね……」


 「やってみなければ分からないだろう。皆、一旦離れるぞ」


 言ってウガガラは俺と他のグンマー族を塔から離れるように指示した。


 ウガガラ自身も塔から距離をとり、腰に巻いていた草製のパンツを脱いで全裸になった。ウガガラのウガガラが露わになる。


 「ちょっ、何やってんすか!?」


 「こいつを投石機にする。紐が無いので服を使うしかない」


 言ってウガガラはパンツを解体し、草を振り回すスリングタイプの投石機の形状に作り替える。作業はすぐ終わり、拳大の石をセットする。


 あのパンツはもう履けないだろう。


 「よし、手始めにまずは1発……!」


 ウガガラが投石機を頭の上で振り回し始める。アレは振り回せばその速度に応じて発射された時の勢いも強まる原始的な投石機だ。弓や魔法が普及した今は完全に廃れたので俺も見るのは初めてだ。


 ヒュンヒュン、と石とが空を切る音が、徐々にブォンブォンと荒れ狂う嵐のような音に変わる。そしてウガガラは塔をじっくりと見据えて、


 「ぬぅぇえいッ!!」


 石を打ち出した。目を見張る速度で放たれたソレは真っ直ぐ塔へ向かい、凄まじい爆裂音を上げて砕け散った。石が激突したところはやはり無傷、凄まじい威力ではあったがやはり石ではこれくらいが限界なのだろう。


 だが、ウガガラの表情は予想とは反対の物だった。


 「ふふっ、少しヒビが入った。後20発も打ち込めば穴を開けられるはずだ」


 「え、本当ですか!?」


 目を細めて塔を見るが、ヒビのようなものは見えない。というか俺には見れないのだ。彼らは視力も規格外らしい。


 「でもあと20発も打ち込む頃には塔から幹部が出てくると思いますよ?」


 今の一撃は何かのトラブルと見逃してくれたとしても次は無いかもしれない。


 禁忌の塔の幹部の姿を見たものは誰もいない。故にどんな化物が出てくるのか分からないのだ。律儀に20発も撃つ余裕は無いだろう。


 「リュウ、君は1つ忘れている。我々は1人じゃない!!」


 「はっ!? まさか!!」


 俺がすぐさま後ろを振り向くと、残りのグンマーの民全員がパンツを下ろして全裸になっていた。ナニコレ珍コ百景だ。

 

 そして、その全員がウガガラがやったようにパンツを解体して投石機に加工する。


 「確かに私1人では時間はかかるだろう。だが我々1000人が絶えず石を連射すればあの塔はどうなるかな?」


 ウガガラがドヤ顔を決める。同時に俺の後ろからヒュンヒュンと石を回す音が聞こえてくる。その音は徐々に太い物に変わって、


 一斉に放たれる。


 一撃一撃が世界レベルの攻撃力の石。それらが塔に向けて放たれた。ウガガラもそれに加勢する。1000人は意図してか攻撃のペースをずらしているようで、休むこと無く、絶え間なく塔に石が放たれ続ける。


 まず数秒で塔に穴が開き、そこから無数の石が塔に侵入する。1分ほど最上階に叩き込んだら、彼らはその次に塔を満遍なく攻撃した。塔に潜んでいた魔物達も何事かと顔を出したがその瞬間に石の雨を喰らって蜂の巣になっていた。


 まぁ、一方的な虐殺だった。


 ◇◆◇


 あれから1時間。石が無くなった彼らは攻撃を停止した。禁忌の塔は無数の瓦礫と魔物の死体を残して姿を消していた。


 「その、肩とか痛くないんですか?」


 1時間全力で石を投げ続けていたウガガラに問う。というか彼の投石に耐えられたあの草は何の草なんだろう。


 「なに、こんなのグンマー大ヒツジの狩猟に比べたら楽勝だ。リュウ、次はどこだ?」


 なんとグンマーの民は誰1人として息も切らしていなかった。今回も犠牲無く勝利してしまったようだ。一応ヒーラーの俺の立場が無い。


 さて、魔王軍3幹部も2体倒した。いや、1体は死体も確認していないがさすがに倒しただろう。残るは最後の幹部と魔王のみ。


 人間の生活圏にやって来ていた幹部は今までの2体だけだったので最後の幹部は恐らく魔王の側にいるのだろう。じゃあ行く場所は1つだ。


 「次は魔王城です。国を出て今日で3日、長い旅でしたが終わりが近づいてきました」


 「そうか。魔王とやらが私達の闘争本能を満足させてくれるほどの実力者ならばいいのだが」


 ちなみにグンマーの民は強敵と戦うことを楽しみにしているようだ。ちなみに今までの幹部戦では満足いっていないらしい。とんでもない人達だ。


 まぁ、何はともあれ旅も終盤、願う必要があるのかは分からないがこの度が無事に終わる事を切に願う。

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