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第9話 継承戦







「もう一度聞く。継承戦ってのは何なんだ?」


 話を元に戻し、レオンから継承戦のことを聞き出す。奴隷人生かかってるしな。

 まだお姫様と呼ばれたことをすねている。変なとこで意地っ張りなやつだ。

 格上の頭が上がらない姉の前でガツンと言っちまえる度胸は認めたい。

 レオンは気を取り直すようにコホンッと小さく咳払いをして答える。


「継承戦とはグラナダイト王国の王位継承戦のことです」


「王位?」


「文字通りです、継承戦に勝った人をこの国の王様にするんです」


 ってことは強ければ誰でもなれるのかな。

 しかし、そんな簡単に王様って決めてもいいのだろうか……

 いや、純粋な戦闘力を比べるわけでもないだろう。

 そんなことを考えているとレオンが補足してくれた。


「参加は王族以外には不可能です、それに強さだけを競うものではありません……たぶん」


「たぶん?」


「詳しいことは王位継承戦の直前になって初めて参加する人たちに伝えられるんです」


 噂程度には流れているって感じか。

 多分、落選した王族にも口止めされているのだろう。

 対策を練らせないため……とかだろうか。

 

「過去にも継承戦ってのはあったのか?」


「はい、ありましたよ。詳しいことはまだ分かりませんが、基本的には王に相応しい者がなるらしく。

 明晰な頭脳や国の旗頭となる力、派閥が大きい方が有利とかなんとか」


「まずいな……」


「え? な、なにがですか?」


 思わず漏れた心の声にレオンが敏感に反応する。

 不安そうに瞳を揺らす。妙な所で弱気なやつだ。

 言わないでおくことも一瞬考えたが、事実は事実として認識させなくてはいけない。

 俺ははっきりとレオンに伝える。


「レオン、お前の頭じゃ知能面では絶望的だと思う。

 この時点で俺たちが出来るのは力を示すことだな。

 それに派閥つったって、お前後ろ盾ないだろ」


「師匠!? 私すごい馬鹿にされてませんか!?」


 心外だとばかりにレオンは目を見開いた。尻尾がピーンと逆立ってる。

 ぷんすか怒るレオンを諭すように俺は優しく頭を撫でてやる。

 どこまでも優しく。我が子を教え導く母親のように俺は微笑んだ。


「レオン……お前は馬鹿なんだよ。アホの子なんだよ」


「良い笑顔で何言ってるんですかっ!?」


「だけど、レオン。王様に必要な……

 まあ俺も詳しいわけじゃないけど簡単な政治とかの知識はあるのか?

 帝王学とか学んだことがあるのか?」


「………」


 変な汗を流しながら目を逸らすレオン。こっちを向けこの野郎。

 耳と尻尾はへにょってなっていた。


「何か自信なくなってきました……」


 しまった。凹ませてしまった。ちょっと意地悪が過ぎたのかもしれん。

 無謀なくせに意外と落ち込みやすいんだよな、こいつ。

 しかしこのままではいけない。下を向いちゃ上に這い上がれねえ。

 自信過剰も良くないが、なさすぎも良くない。

 感情の切り替えというものを覚えさせないといけない。


「レオン、拳を握って上に突き上げろ。利き手だぞ」


「ん? こうですか?」


 小首を傾げながらレオンは言われた通りにした。

 右手を突き出し、きょとんとした表情。

 そしてもう一つ。


「うおぉおおお!!! って叫べ」


「う、うおー?」


 小首を傾げながらレオンは口を開いた。

 が、駄目だ。こんなんじゃダメだ。


「違う! こうだ!」


「きゃっ!?」


 レオンの手首を掴んでさらに上へと持って行く。

 俺がお前を引っ張ってやる。そんな気持ちでだ。

 年頃の娘らしく、可愛い声を出したレオンに構うことなく俺は叫んだ。


「うおおおおおおおおっ!! だ、分かったか?」


「う、うおー! あの、師匠? これって何の意味が」


 俺もちょっと恥ずかしくなってきた。冷静につっこみ入れられると恥ずかしい。

 でも今更止めるのも余計に恥ずかしい。

 気持ちを誤魔化すために俺は大きく声を出した。


「うおおおおおおおおっ!!」


「うおおおーっ!」


 俺とレオンの声が周囲に響く。

 外で何やってるんだ俺たちは……

 けどこういうのは気にしたら負けだ。

 とにかく、感情を吐き出せ! 現実を忘れて、今このときだけは覚悟を決める。


「良し! いいぞ! もう一回だ! うおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


「う、うおおおおおおおーーっ!!」


 よしきた! 乗ってきたぁ!


「レオン! お前には誰にも負けねえ物がある!

 諦めねえ心、愚直な勇気、そしていつだって萎えないケモミミだ!」


「そ、そうなんですか?」


 ちょっと戸惑うレオンを前に俺はもう一度叫んだ。

 そして宣言してやる。


「そうなんだよ! レオン! お前はやればできる子だ!

 吠えろ! めっちゃ吠えろ! この世界にお前の覚悟を響かせろ!」


「は、はい! うおおおおおおーーーーっ!!」


「いいぞ! なんかいいぞ! なんか、やれる気がする!」


 レオンの元気が明らかに戻ってきた。

 なんて単純な奴なんだ。だが、悪くない。単純にも利点がある。


「師匠! 私なんだか出来る気がしてきました!」


「そうか! よしいいぞ! もう一度だ! 獅子のように吠えろぉおおおお!!」


「うおおおおーーーーっ!!」


 完全に元に戻ったレオン。その笑顔はとってもスッキリしている。

 耳と尻尾もピン! と天を向いて完全復活。

 先程までのどん詰まりの表情が嘘みたいだ。

 アホの子で良かった。うん、ぐちぐち悩むような奴じゃ偉くなれねえ。

 いや、良くはないけど。頭の方もなんとかしないとな。


 しかし、ほんとにどうするかな……策を考えねば。

 とりあえず、武器とトレーニングメニューを決めるとしよう。







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