↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/246

君の横顔

#ヘキライ 第68回お題「横顔」

君の横顔


 ねえこっち向いて。手で、目の前の横顔を軽くつつく。仰いだ横顔は、毛足の長い羽毛に覆われ、クチバシもほとんど見えない。

 にんげんの子どもなんて拾って、と、ずいぶん仲間に悪く言われたようだけれども、彼は子どもを放棄しなかった。

 約束だからね。君のお父さんから、君のことを頼まれていた。

 彼は子どもに、そう説明していた。

 もう、何年も。

 あるとき、子どもは横顔に話しかけた。

「ねえ、父さんを食べたって、本当?」

 森で小鳥たちが歌っていたのを、何度か聞いた。それを、ついに問いかけたのだ。

 そうだよ、と、彼は答えた。

 君のお父さんは、にんげんにしてはたくさんの「祝福」を持っていた。魔法使いだった。君と旅をしていて、私と出会った。

 彼は言葉を続けた。

 何年かに一度、この森で出会うくらいの、知り合い。あるとき、君のお父さんは、何かに追いかけられていた。あまり良くないものだったから、ここへたどり着くまでに、ずいぶんと傷ついていた。私の力では、命を押しとどめられるほどのことはできなかった。君のお父さんは私に言ったよ、どうかすべての災いから、この子を守ってやってほしいと。私には、私の種族のことしか分からないから、にんげんのようには育てられないと答えた。君のお父さんは、それでいいと言った。そうして、どうか証拠を残さぬよう、体を食べてくれと言った。

 彼は天を仰いで、ぼそぼそと話した。

 真実がいずこにあるか、子どもは知らない。

 考え、考え、声を出した。

「では、私は森の外に出たら、何かに追われるの?」

 いいや。これだけにんげんの匂いのしないもの、気づくことはないだろう。もしかして、外へ出て行きたいかい?

 子どもが身をすくませていると、彼は洞窟の奥から、何かを引きずり出してきた。小さな、布の袋。

 これは君のお父さんが持っていた。ひとかけらも残すなと言われたけれど、これだけは、何だか、食べ残した。

 何も書かれていない小さな帳面、木の棒がいくつか、それしか入っていなかった。

 子どもは袋を手にして、目の前の横顔にしがみついた。

 彼は笑った。

 行ってきたいのなら、行っておいで。私の寿命は長いから、君が帰りたいときはいつでもここにいる。


 子どもは数日後には外へ出かけた。あの横顔に見守られた歳月が、胸の中にまだ、あたたかく残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。