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第24話・杏奈、容疑者になる?!

 秋の交通安全運動キャンペーンのイベントが開催される日になった。


「杏奈!遅れるぞ!」


ずっと日向にいる事を考えていたら、いつもより化粧に時間が掛かってしまい、遅刻ギリギリの時間だ。


「あっ!ちょっと待って!」

「何だよ!」

「消臭スプレー忘れた!」

「はぁ?何でそんな物がいるんだよ!」

「必須アイテムなのよ!」


消臭スプレーを鞄の中に投げ入れて、ダッシュでマンションを出た。




 会場に到着し、控えのテントに荷物を置き、消臭スプレーをテーブルに置いて風船コーナーへ向かった。

すると、係りの人達が集まって、深刻な顔を付き合わせている。


「おはようございます♪どうかされましたかぁ?」

「あっ、杏奈ちゃん、おはよう。風船が発注ミスか業者の手違いで……」


鑑識課の菖蒲さんが、風船の箱を見せてくれる。


って、全部長細いじゃない……


「これって、野球で飛ばすやつだよね……子供達に配れないから、どうしようかと……」


そっちなのね……普通は、バルーンアートって思うかと……


「私、簡単な犬とか花なら作れますよぉ~♪」

「えっ?杏奈ちゃん、そんな事出来るの?」

「はい、本当に簡単な物だけですが♪」

「ちょっと作ってみて!」


箱から1つ取り出して、ダックスフンドを作ってみる。アメリカでは、誕生日パーティーも派手なので、こうしたバルーンアートも作った経験がある。


まさかその時のスキルが、海を越えたこんな所で役に立つとは思わなかったわ……


「はい、完成ですっ♪」

「おお!」


完成したダックスフンドを見せると、風船コーナーの責任者が感心したように拍手をしてくれる。


「松浦さん、悪いけど、配る方では無くて、作る方へ回ってくれないかな?」

「大丈夫ですよぉ~♪」


ラッキー!ずっとテントの中に居られる♪

と、思ったのは、甘かった……


「お姉ちゃん!私、黄色のお花がいい♪」

「私はピンク!」

「かっこいい剣を作って!」


イベントが始まり、一緒に風船を配る予定だった総務課の森野先輩が、子供達のオーダーに右往左往している。

私の傍らでは、着ぐるみ交代要員のみんなが、風船に空気を入れながら私に手渡してくれた。


「松浦さん!さっきの青い犬は?」

「今、やってます!」


安請け合いするものでは無いわね……腕が疲れてきた……だけど、作れるのは、私1人……


「先輩!青い犬、出来ました♪」

「ありがとう!次はこのオーダーよ!」

「が、頑張ります……あはは……」


お嬢様笑顔、最後まで持つかしら……




 昼も過ぎた14時頃になり、菖蒲さんが、私が休憩していないとみんなに言ってくれて、やっと解放された。


「菖蒲さん、みんなに言って下さって、助かりましたぁ♪」

「どういたしまして♪しかし、杏奈ちゃんは、意外な特技があるんだね!」

「ふふ!犯人逮捕には役に立ちませんけどね♪」


休憩用テントへ入ろうとすると、中から話し声が聞こえてきた。


「今年は消臭スプレーがあるから、助かるよ!男の汗なんて臭いを嗅ぎたくないからな~!誰が持って来たんだろうな。」


お?早速活用されているのね♪と、嬉しく思った時、耳を疑う会話が飛び込んできた。


「あっ!それ、花音が持って来ましたぁ~♪」

「へぇ~、気が利くね!」

「そんな事無いですぅ♪」


えっと……私の記憶に間違い無ければ、私が持って来たわよね……

いや、きっと、滝沢さんも持って来ていたに違いない……うん、きっとそうだ……そう思っておこう……


「中へ入らないのか?」

「うわっ!」


後ろから声を掛けられ、びっくりして振り向くと、拓海が立っている。


「い、今、入るところよ!」

「……?そっか。」


そそくさと休憩用テントの中へ入ると、交通機動隊の一人が着ぐるみにスプレーをかけているところだった。

そして、拓海と一緒にテントへ入ってきた私に不機嫌な顔を向ける滝沢さん……


確認できる限り消臭スプレーは一本……しかも、今朝まで私の部屋にあったものよね……

私も裏表がある方だとは思うけど、滝沢さんには負けるわ……


「えっと……お弁当を頂きに来たのですが、何処にありますかねぇ……」

「杏奈さん、まだ食べていないのですか?さっき、残したら勿体無いって、広報課の方が全部食べていましたよ。」

「嘘っ……」


説明してくれた拓海の言葉に、気が遠くなる……そうは言っても、無いものは無いわよね……


「……ま、まぁ、いいダイエットだと思って、お茶だけ頂くわ……」

「オバサンは大変ね~!ダイエットしないといけないものね~♪」


すかさず聞こえてくる滝沢さんの声に、みんな苦笑いだ。


今朝、情報番組を見る余裕が無かったけど、誕生月占い、絶対に最下位だわ……

しかも、みんなが気遣う視線が余計に突き刺さる……冷たい目線には対抗出来るけど、同情的な目線は逆に耐えきれない……


「す、水分だけ取れば、問題無いわ。悪いけど、ペットボトルを多目に貰うわね。」


クーラーボックスからお茶を二本抜き取り、休憩用テントから出て、再びバルーンアート作りに没頭した。




 そして、イベントが終わって、テントに戻った時だ。


「無い……無い……」


何かを探している滝沢さんに気付いた森野先輩が、声を掛けた。


「滝沢さん、どうかしたの?」

「私のお財布が無くて……」

「えっ?誰かの鞄に間違えて入れたとか……」

「そんな筈は……」


滝沢さんの視線が、私へ移る。


「松浦さんでしょ!私のお財布を盗ったのは!」


……はっ?!


「ちょっと待って!どうしてそうなるの?」

「だったらあなたの鞄を見せてみなさいよ!」


滝沢さんがバッ!と私の鞄を奪い取り、いきなりテーブルの上に中身をぶちまける。


「何をする……」


言葉が止まった。私の鞄の中に、見覚えの無い財布が入っていたからだ。


「あったぁ~♪私の財布よ!やっぱりこの女が盗ったのよ!」


明らかに、あなたの仕業でしょ……私の顔を見るなり、速攻で名指ししたし……


「私はこのテントへは、一度しか入っていないわ。その時、滝沢さんも居たわよね?」

「トイレに行く振りをすれば、戻れるわよね!」


滝沢さん……いちいち煩いわよ……

と思っていたら、森野先輩が私をフォローしてくれた。


「でも、松浦さんは、ずっと風船を作っていたわよ。お手洗いも短時間だったわ。」


森野先輩!ありがとうございますぅ~♪


「短時間でも盗るのは可能よね!お金まで減っているわ!この女の財布を調べれば分かる事よ!」


滝沢……そろそろキレてもいいかしら……メラメラと燃えてくるものを抑えきれない……

再起不能になるまで、徹底的に潰して差し上げましょう……


「そこまで言うのであれば……」


自分の財布の中身を見る為に、手を伸ばそうとすると、拓海にガシッ!と腕を掴まれた。


「触るな!」

「えっ?」


一瞬で仮面笑顔に戻った拓海が、にこやかに菖蒲さんへ話し掛ける。


「菖蒲さん、指紋採取って出来ますか?」

「イベントで使った、簡単な物なら道具はあるよ。」

「では、杏奈さんと滝沢さんの財布を調べて頂けませんか?杏奈さんの無罪を証明したいので。」


その言葉を聞いた滝沢さんが、噛みついてくる。


「今、物証があがったじゃない!そこまでしなくても、犯人は確定でしょ?!」

「僕は、杏奈さんが犯人では無いと思うからです。滝沢さんと杏奈さんの財布から共通して出てくる指紋があれば、犯人が特定できる筈です。」

「鶴崎さんは、この女に騙されているのよ!裏では何をやっているか分からない女よ!」

「誰にでも多少の裏表はあるでしょう。ですが、杏奈さんはあなたと違って、嘘をつきません。」


そして、拓海はおもむろに消臭スプレーを掴んで、パッ!と私に投げて寄越した。


「うわわっ!」


落とす寸前で何とかキャッチ!


「杏奈さん、そのスプレー、お返ししておきますね。」

「あ、ありがとう……」


交通機動隊の人が、不思議そうに拓海へ尋ねている。


「それって、滝沢さんが持って来たって言ってたよな……何で松浦さんの物だって鶴崎が知っているんだ?」


疑問に思うのは、そこなの?他にも突っ込み所はあるわよね……


「だって、今朝、杏奈さんが鞄……」


ちょ、ちょっと~!それ言ったら、一緒に住んでいるのがバレるじゃないっ!


「……鞄から出しているのを、見ましたから。」


拓海は、余裕の笑みを浮かべている。


わざと私を焦らせる言い方をしたわね……


思わず睨み付けそうになるのを、ぐっと我慢する。


「では、菖蒲さん、指紋の採取をお願いします。」


拓海の言葉に菖蒲さんが財布を受け取ろうとすると、滝沢さんは泣きながら財布を抱き締めて離さない。


「どうして!どうしてみんな、こんな女の肩を持つのよ!被害者は私なのよ~!」


どうせならもっと上手くやりなさいよ……短絡的過ぎて、誰もフォロー出来ないじゃない……

私が潰す必要も無かったわね……


「菖蒲さん、私の財布は預けておきますので、滝沢さんの指紋がついているお金は、滝沢さんに返して頂けませんかぁ?」

「分かった。必ず杏奈ちゃんの冤罪を晴らすよ!」

「お願いしま~す♪」


お嬢様笑顔で、菖蒲さんにお願いをして、テントを出た。




 「はぁ……お財布が無いから、何も買えないわ……お腹が空き過ぎて、作る元気も無いわ……」

「どうせ、まともに作っていないだろ?」


帰り道、思わず漏らした呟きに、拓海が腹黒い笑みを浮かべている。


「大学の頃は、ほとんど自炊だったわよ。今は食材を買っても、帳場が立てば無駄になるでしょ。」

「まぁな。でも、杏奈の手料理、食べてみたいな……」

「高くつくわよ~♪」

「そりゃ、かなりのフルコースなんだろうな。」


そういえば、さっきのお礼を言って無かったわね……


「さっきはありがとうね。」

「ん?滝沢さんの件?」

「そうよ。」

「まぁ、滝沢さんにもお灸が必要だと思ったし、俺にまとわり付く事も無くなるしな。」

「久しぶりにモテて気分良かったでしょ♪」

「あいつらは、キャリアの肩書きしか見て無いさ。それに、おまじないのお礼も兼ねてるしな。」

「おまじない?」

「ん……何でも無い……」

「……?そう。」


まぁ、肩書きしか見られていないって言うのも、分かる気がするわ……みんな腹黒を知らないしね……


「そういえば杏奈、公安スカウトの話しはどうするんだ?」

「すっかり忘れていたわ……でも、行かないと思う。」

「どうしてだ?」

「私は両親の事故を調べる為に、警察へ入ったのよ。出世の野望も無いし、人の役に立ちたいとか、助けたいという正義感も、他の人よりは少ないと思うわ。」

「でも、捜査は好きだろ?謎解きみたいで。」

「まぁね。」

「だから、目の前の事件より、未然に防ぐ公安の方が向いていると思うけどな……」

「拓海は……」

「何だ?」


あれ?私、一瞬、私と離れて寂しく無いのかって、聞こうとした……

な、何故?!いや……彼女さんが亡くなったからって、すぐに乗り換えるような男は、考えられないわ……


「何でも無い……お腹が空き過ぎて、頭が回らないわ。」

「心配しなくても、お金なら貸してやるよ。トイチでな。」

「……完全に違法ね。グレーゾーンを飛び越えて、真っ黒じゃない。」

「何なら身体で払ってくれてもいいけど♪」

「その口、二度と聞けないようにして欲しいの?また、股ドンでもしましょうか?」

「……遠慮しとくよ。」




 後日、菖蒲さんからお財布を返して貰った。滝沢さんの指紋がついていたのは、二万円、そのお札から私の指紋は検出されなかったとの事だ。

私の財布からは、滝沢さんの指紋が綺麗に採れたらしい……


そして、その日は突然訪れた。パパとママの事故が解決する日が……




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