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第五十六話 お宝の匂いがする!

「……穴ね」


 突如として、パックリと口を開けた穴。

 一体どこに通じているのだろう?

 すぐさま覗き込んで見ると、整然と積まれた石組が目に飛び込んでくる。

 私が掘っていた地面の下には、どうやら石で造られた地下通路があったようだ。

 その天井が一部崩落していたところを、たまたま掘り抜いてしまったらしい。


「何かしらねこれ。第一階層の通路みたいなもんかしら……?」

『もしかして、第四階層に続いているのです?』

「いいえ、それはないわね。このダンジョンが、そんなにあっさり下の階層へ行かせてくれるとは思えないわ。でも……お宝とか眠ってるかも!」


 ダンジョンの隠し部屋と言えば、やはりお宝が付きもの。

 今まで、このダンジョンじゃ宝に巡り合えては居ないけど……三度目の正直ってこともある。

 ダメだった分だけ、すっごいお宝を見つけてやるわよッ!!

 土をドンドンと押しのけて、入口を広げていく。

 やがて十分に身体が抜ける大きさになったところで、ぴょんっと下に降り立った。


「こういう時だけは、不死族って便利よね」


 通路の中には一切光源が無く、完全に闇へと沈んでしまっていた。

 だけど今の私は死蝕鬼、闇の住人である。

 血走った紅の瞳は、明るい外とさほど変わらぬ視界を提供してくれる。


『魔物の気配は、まったくしないのですよー』

「静かなもんね。お宝部屋には守護者が居たりするけど……そういう感じもしないわ」


 もしかしたら、守護者の代わりに罠が仕掛けられているのかも。

 とっさにそう思った私は、手を伸ばすと床や壁を恐る恐る叩いてみた。

 ……よし、ひとまず今いる場所の周辺は安全そうだ。

 少し進んでは、叩く。

 また少し進んでは、叩く。

 まさに石橋を叩いて渡るの要領だ。


「お! ちょうどいいものがあるじゃない!」


 ある程度歩いたところで、床に長い棒が落ちていた。

 ラッキー、杖にするのにぴったりだ!

 すぐさま拾い上げてみると、意外なほど重い。

 手にずっしりとくる感触に、体重の軽い私はたまらずバランスを崩しそうになった。


「おっとッ! これ、鉄でできてるわね! 何で鉄のかたまりなんかが床に……? いや、これは……」


 完全に錆びてしまっていたから気づかなかったけど、棒の先端は少し尖っていた。

 細く削り出されたその形状は、薄い刃のようだ。

 これ……もしかしなくても、槍だ。

 金属製の槍である。

 何でそんなものが、地面に落ちているのだろう?

 疑問に思いながらも、ひとまず先に進む。


 さらにしばらく行くと、通路の両脇にいくつかの部屋が現れた。

 扉は既に壊れてしまっていて、いずれの部屋も通路から中が丸見えとなっている。

 ゆっくりと手前の部屋を覗き込んでみれば、壊れたベッドが三つ並んでいた。

 さらに、部屋の端にはいま私が手にしているような槍や剣が何本か立てかけられている。

 錆で真っ赤になった鎧の姿も見えた。


「ここはどうやら、兵隊さんの詰め所かしらね? なるほど、何となくわかってきたわ」

『どういうことなのです?』

「この場所は、ダンジョンを生み出した奴が造ったものじゃないってこと。ダンジョンに兵隊の詰め所なんて、要らないはずだから。おそらくこれは町の住民が造ったものだわ」

『なるほどー! でも、何で地下にこんなものを? これぐらい地上に作ればいいと思うのですよー』

「地下の方が見つかりにくいでしょ? たぶん、この町は地下にでも逃げ込みたくなるようなヤバい連中と戦ってたのよ。上にあった石碑からして、おそらくお相手は魔族かしらね」


 そう言うと、さらに隣の部屋を調べる。

 たちまち、壁に張り出された地図と大きな机が目についた。

 どうやらここは、幹部が集まって軍議をするための場所だったようだ。

 壊れてしまってはいるものの、調度の類も他の部屋より少しばかり豪華である。


「へえ、昔の地図か……」


 保存の魔法が掛けられていたのだろう。

 かろうじてだが読み取れる地図には、町の全景と周囲に広がる森が描き出されていた。

 ここまではおおよそ、私が把握しているこの町やその周囲の地形と同じである。

 しかし、地図の端には今はないはずの湖や山脈が描かれていた。

 さらにその先には、海らしきものも見える。

 これは明らかに、ダンジョンの中ではなく地上の風景だ。

 やはりこの町は――地上から、ダンジョンの中へと移されたらしい。

 それも、町だけでなく周囲の大地ごとだ。


「ねえ精霊さん、この文字読める? 町の名前っぽいんだけど!」

『もちろんですよー! えっと……オルドレンって書いてあるのです!』

「オルドレン? どこかで聞いたことあるわ。えーっと、何だったかなあ……!」


 頭を手で抱えると、うんうんと唸り始める。

 確かに、オルドレンという名前はどこかで聞いたことがあるのだ。

 でもそれが、一体どこだったのかなかなか思い出せない。

 いったい何だったか……!

 お肉の筋が歯と歯の間に挟まっちゃったみたいな感じで、じれったくってしょうがない!

 ええっと、ええっと……!

 頭をぶるぶると震わせながら、記憶の棚を開いていく。

 そしてようやく――


「思い出したッ! オルドレンって、伝説に出てくる職人の町よ! 鍛冶屋グラン・エルビスの居るところ!」

『グラン・エルビス? 誰なのです、それ?』

「鍛冶の神とか言われてる人よ。鍛冶屋に行けば、だいたい祀られてるわ」

『ほえー、凄い人なのですねえ! この廃墟が、そんな人が居る町だったなんて予想外なのです!』

「私だってそんなこと思わなかったわよ! そういえば、オルドレンは『一夜にして消えた』って言われてたけど……まさかダンジョンの中に閉じ込められてたなんてね。でも、これは面白いことになってきたわ……!」


 軽く眼元を歪めると、ニイッと笑みを浮かべる。

 宝物部屋ではなかったけれど、今回はおそらくそれ以上の収穫だ。

 この街が伝説のオルドレンなら、きっとまだあるはずなのだ。

 下手な宝物庫などとは比べ物にならないほどの、超強力な武具の数々が……!

 オリハルコンなんて半永久的に朽ちないって言うし、絶対にまだ何か残っているに違いない!


「捜すわよ、武器を! 防具をッ!!」

「……残念だが、そういったものはもう残されてはいないぞ」

「誰ッ!?」


 いきなり響いてきた、耳慣れない声。

 それに慌てて振り向くと、そこには――


「デュラハンッ!!」


 いつぞやの女デュラハンが立っていたのだった。


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