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第五十四話 女騎士さんは苦労が絶えない!(※ほぼ別視点)

この話では初めての三人称です。

ですが、次回からはシースの一人称に戻りますので、ご安心を。

「で、侵入者は居たの?」


 第三階層の北東に聳える、黒き異形の城。

 その最上階に位置する玉座の間に、気だるげな少女の声が響いた。

 微かながらも苛立ちを感じさせる響きに、御前に控える女騎士はすぐさま肩を低くする。


「申し訳ございません。ドラゴンが着陸した痕跡は確認できたのですが、その後の侵入者の足取りについては分かりませんでした。森の一部を焼き払い、自らの痕跡を消したようです」

「なかなか知恵の回る奴だね。ここに来てすぐにそんなことをするなんて。火龍の奴が、僕の存在を教えたのかな?」

「私には、そこまでのことは」

「ま、君に聞いてもしょうがないか。とりあえず、今後も侵入者の捜索を続けて。で、見つけたらすぐに僕へ報告すること」

「はッ!」


 胸に手を当てると、「存在しない頭部」の代わりに深々と首を下げる女騎士。

 全身を持って忠誠を示された少女は、肘掛けに寄りかかりながら浅くうなずいた。

 閉じられていた足がおもむろに組まれ、はらりと黒のフリルが揺れる。


「……しかし、侵入者ってどんな子だろうね? 出来れば、前の子みたいな感じだといいな」

「前の子と申しますと?」

「勇者だよ。あれは、戦っててゾクゾクするぐらいだったね。気の強そうな顔も抜群だったけど、特に身体がさ。押し倒してしゃぶりついとけばよかったって、何度思ったことか。分かる? 剣を振るうたびに、鎧の胸元がドンって弾むんだよね」


 白い頬を桜色に染めながら、熱の籠った口調で語る少女。

 ――また、悪い癖が出て来たか。

 女騎士は自らの主の性癖を思い出すと、悟られぬ程度に顔を歪める。


「……思い出したら、ちょっと我慢できなくなってきちゃった。今からメイドを呼ぶけど、せっかくだし君も一緒にどう?」

「私は、仕事がございますので。お相手は致しかねます」


 主の視線に危険を感じた女騎士は、素早く身を引いた。

 その明らかに警戒した態度に、少女は不満げにため息をつく


「まったく、君はいつも堅いねえ……。まあいいよ、その分はメイドたちに穴埋めしてもらうから」

「では、失礼いたします!」


 こうして女騎士が少女に背を向けると、入れ替わるようにしてメイドたちが姿を現した。

 丈の長いスカートと露出のほとんどない黒の上着に身を包んだ彼女たちは、一見して楚々とした印象だ。

 だがその胸元はみな大きな果実を抱えたように膨らんでいて、上着にはっきりとしわが浮き出ている。

 ――よくもまあ、これだけ大きな者ばかりを選りすぐって掻き集めたものだ。

 彼女たちの姿を横目で見た女騎士は、その統一感に呆れを通り越して感心してしまった。

 主である少女の胸のふくらみに対する並々ならぬ執念を、肌で感じられる。


「……ふう」


 外に出て扉を閉じたところで、女騎士は盛大にため息をついた。

 彼女はそのままよろよろと近くの壁に寄りかかると、大げさな仕草で天を仰ぐ。


「このままでは、いよいよ私の身も危ないぞ……! 早く侵入者を見つけなければな。タナトス様のお眼鏡にかなう娘だと良いのだが……。いや、そもそも男の可能性もあるのか……?」


 屈強な男の姿を想像して、歯ぎしりをする女騎士。

 ここまでたどり着くための道のりは、長く険しい。

 女よりは男が来る可能性の方がよほど高かった。

 しかしそれでは――喰われてしまう!

 身も心も美味しく!


「ああ、頭が痛いぞ! くそ、こういう時は肉のやけ食いをするに限るんだがなッ……!」


 そうは思ってみたものの、第三階層において新鮮な肉は貴重品である。

 どんな環境でも住み着くと言われるゴブリンどもすら、ここには寄り付かないのだ。

 タナトスの側近である女騎士でも、腐肉以外を調達してくるのはかなり難しい。

 年に数回、タナトスのおこぼれに預かるぐらいだ。


「待てよ。そういえば、ずいぶん上質な肉を持っていた死蝕鬼が居たな……」


 ドラゴンが飛んで来た日に出会った、少し様子のおかしかった死蝕鬼のことを思い出す。

 急いでいたために不問に処したが、あの魔族からは肉の良い匂いがした。

 かなり強い魔力を持つ肉のようだったから、おそらくまだ腐ってはいないだろう。

 この際だから、何かしら理由をつけて没収してしまうのが良いかもしれない。

 女騎士はポンッと手を叩く。


「そうだな、ひとまずはあの肉を食べてから考えよう! それがいいッ!」


 ――すぐにでもあの死蝕鬼を捜さねば、せっかくの肉が腐ってしまう!

 こうして女騎士は、結論を棚上げにすると肉を求めて城を出るのだった――。


 ―――○●○――


「うーん、これはやっちゃったかな……?」


 クリスタル・スケルトンたちが潜む、滅びた町の入口付近にて。

 目の前に現れた強大な敵に、私は顔を蒼くした。

 何をどうしたらこうなったのか、自分でもよくわからない。

 ただ、目の前にいるこいつがヤバいと言うことだけは分かる。

 肌が渇いて、ピリピリとするのだ。


「ウオオオンッ!!」

「ちッ……! 合体したらでっかくなるって、どこぞの巨大ゴーレムかッ!?」


 深い穴の縁から手を伸ばし、こちらに向かって這いあがってくる巨大な骨。

 その骨格の大きさは、この町で一番デッカイ建物すら超えるだろうか。

 手のひらだけで、私の身体を包み込めるかもしれない。

 ついさっきまで、ただのクリスタル・スケルトンでしか無かったはずのそれに、たまらず絶叫する。


「落とし穴の何がいけなかったって言うのよーッ!!」


 渾身の落とし穴作戦。

 その思わぬ失敗に、べそをかかずにはいられない。

 何で、何で穴の中で巨大化しちゃうのよーーッ!!!!

 そんなのアリかーッ!!


 半泣きになりながら、走り出す。

 その後を、巨人と化したスケルトンがのしのしと追いかけてくるのだった――。


設定を盛っていくうちに、タナトス様がえらく倒錯的なキャラクターになってしまった……!

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