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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~  作者: 稲荷竜
六章 ヨミの回想録作成

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85話

「俺様気付いちゃったんだけど、ひょっとしてお前さん、俺様を殺そうとしてる?」



 ある日、『はいいろ』がたった今気付いた、というようにつぶやきました。

 それはいつもの酒場跡地での昼食中でした。

 アレクは『はいいろ』に椅子にされていました。

 紆余曲折、というか、アレクが『はいいろ』を襲撃して、軽くいなされて、上に乗られておさえこまれてたのです。


 そんな対応までしておきながら、『はいいろ』は今さら言いました。

 あんまりにも唐突だったので、その時のことをよく覚えています。


 アレクに聞きましたが、『あれは絶対俺を煽ってた』と思ったそうです。

 普通そう思うかもしれませんが、でも、私の見解は違います。

『はいいろ』は本当に、ある時初めてフッと気付いたんだと思います。

 だって、『殺されそうになる』という経験が、父には不足していましたから。


 でも、アレクの思いは、前述の通りです。

 彼は拳を握りしめ、地面を何度も殴りながら、力強く反応しました。



「最初からずっと、あんたを倒そうとしてるっつーの!」

「はっはあ。なぁんだ、そうだったのか。そういうことは早く言えよなあ。そしたらそれなりの対応をしたのに。いやあ、すまんすまん。あんまりにも弱いんで、じゃれてるだけかと思ったぞ」

「刃物振りかざしてじゃれる人がどこにいるんだよ! だいたい、毎回『殺す』って言ってるだろ!?」

「そうだよ? だから、じゃれつかれてるのかと思って」

「なんでだ!」

「そりゃあお前さん、『殺す』だなんて、本当に殺したい相手に言うわけねえだろ。言うより先に実際殺しちゃえばいいだけの話だし。『殺す』ってわざわざ言うってことは、『僕はあなたを殺せません』っていう宣言も同じだろ?」

「……」

「というかお前さん、なんで俺様を殺そうとしてるの? 仕事?」

「…………理由は、いくつかある。名の知れた悪党を倒して世の中をよくしようとか。それで有名な暗殺者のあんたに、まずはアタリをつけて……」

「お前さんのギャグは笑いどころが難しいなあ」

「ギャグじゃねーよ! 俺は、魔王を倒さなきゃいけなかったんだけど、でもこの世界には魔王なんていないから、それで……」

「ふーん。まあ理由は人それぞれだなあ。大丈夫? 薬切れてない?」

「俺は正気だ!」

「んっんー……正気かあ。正気だとなおさら悲しいなあ。だってお前さん、俺様に手も足も出なくて椅子にされてるじゃん。それで俺様を殺そうとしてるの? え、マジで? おじさん同情で涙出そう。やめろよそういう悲しい話。歳のせいか涙もろくなってきてて」

「同情するんなら、俺の上からどけよ!」

「よしわかった」

「どいてくれるのか」

「お前さんを、俺様が鍛えてやる」

「……は?」

「うん、いい考えだ。俺様誰かに『はいいろ』を継がせないといけなかったんだけど、なにせ暗殺者じゃん? 修業って『死ぬ寸前まで追い詰める。死ぬほど必死にさせて、死んだら次の人』みたいなのなんだよね」

「…………」

「俺様が『はいいろ』を継ぐ時も、同じ修業してた仲間がバッタバッタ死んでやんの。八人いたのに俺様しか残らなかった。死にすぎじゃね? ウケるー」

「……う、うけねーよ」

「その点お前さんなら安心だ。なんせ死んでも死なないからな。よし決定。はい決定。俺様、これからお前さんを『はいいろ』にするため修業をつけまーす」

「ちょ、ちょ、ちょっと待て! 待てって! 俺は、あんたを殺そうとしてるんだぞ!? その俺に修業をつけて強くしたら、あんた、死ぬだろ!?」

「はっはあ。だから安心なんじゃないか。だって暗殺者の修業のしめくくりは師匠を殺すことだからなあ」

「……」

「一番死ぬのが修業中で、次に死ぬのが修業のしめくくりで師匠を殺す時なんだよなあ。その点お前さんは修業中に死んでも死なないし、修業の最後に情で刃が鈍ることもない。……ないだろ? ないよな?」

「…………そ、それは、もちろん、だけど」

「というわけでお前さんに修業をつけます。目指せ次代の『はいいろ』! いやあ、よかったよかった。このままだと自分の子供を『はいいろ』にしなきゃいけないとこだったんだよ。お前さんマジ救世主。崇め奉るわー。マジ奉りー」

「……」

「誰だって自分の子供を死ぬかもしれない目に遭わせたくはないからね」

「…………」

「お前さんは俺様の子供を救ったんだ。誇っていいぞ。……ああ、そういや、俺様の子供をまだ紹介してなかったな。ヨミ、俺のケツの下にいるコレにごあいさつなさい」

「その前にどけよ!」



『はいいろ』はどきません。

 思い返すと、やけに楽しそうな父の様子ばかり浮かびます。


 たぶん、父にとって、何度も本気で襲撃してくるアレクは、『活きの良い遊び相手』ぐらいの認識だったのでしょう。

 よくも悪くも、『輝く灰色の狐団』には、父とこういうかかわりかたをする人は、いませんでした。


 犯罪者クラン。

 そう聞いた時、人は、冒険者以上に扱いにくい荒くれ者どもが集う、非常に乱暴で退廃的な集団を連想するのかもしれません。

 でも、『輝く灰色の狐団』は、そういったイメージとは違う場所でした。


 弱者の集い、とでも言えばいいのでしょうか。

 後から思えば、孤児院に近い集合体だったようにも感じます。


 犯罪者を集める、ではなく、犯罪以外での食いつなぎ方をできない弱者を保護する、というような活動理念だったのではないかと、今の私には思えます。

 だからクランメンバーはだいたい高名な『はいいろ』の庇護下に入っている者ばかりで、その空間において『はいいろ』というのは逆らったり挑んだりする相手ではありませんでした。


『はいいろ』の人柄に少してきとうなところがあるので、厳しい雰囲気ではなかったです。

 けれどみんな、『はいいろ』に対して、どこか遠慮や不可侵なところがあった気がします。

 間違った空気だとは、思いません。

 クランマスターはある程度恐れられたり、一目置かれたりしないといけないと、私は思っています。


 でも、その結果として、『はいいろ』は遊び相手に事欠いていたのでしょう。

 そこに来たアレクは、いいおもちゃでした。

 傍目に見て、本当におもちゃでしかなかったのが、後に妻になる私としては、悲しいところです。



 さて、その後に妻になる私はと言えば、当時、アレクにみじんも興味がありませんでした。

 彼のことは、一山いくらの変人、という程度の認識です。

 そんな相手にあいさつをしろと言われました。

 しない理由も思いつかなかったので、父の尻に敷かれているアレクにあいさつをします。




「……ヨミです。はじめまして」




 これは今から思えば、かなりの皮肉に聞こえるあいさつだったと思います。

 なぜって、すでにアレクが『輝く灰色の狐団』に来てから、数日が経っているのです。

 だというのに『はじめまして』とは、『今までお前のことは認識さえしていなかった』と捉えられてしまうのではないでしょうか。


 実際にほとんど認識していなかったのが、救いのない話です。

 当時の私は本当に、一つをのぞいてあらゆることへの興味が欠如していました。


 当時のアレクは、私からの言葉に、かなり不機嫌になったと思います。

 でも、まだ幼い子供でしかなかった私に対して怒るのは、大人げないと思ったのでしょう。

 彼は目つきだけ悪くして、私へは反応しませんでした。



「……それで、おっさん、修業ってなにするんだよ」

「あらゆるモノの殺し方を教えるから、全部覚えろ」

「……具体的には」

「手順その一。俺様が見本を見せます」

「……」

「手順その二。お前さんが真似をします」

「……」

「以上です」

「はあ!? いやいやいやいや! ぶん投げすぎだろ!? 見た程度でできたら苦労しねーよ!」

「そりゃあそうだなあ。だから、できるまで繰り返す。あ、俺様が殺すもんは基本的に生き物だから、殺せない場合、反撃されるからな」

「わかるよ! だから無理だって言ってんだろ!」

「まずは野生動物、次にダンジョンのモンスター、最後が俺様というようにどんどん難易度が上がっていきます。なお相手を殺せないとこっちが死にます。ちなみに、俺様が殺せと言ったモノを殺すまでは飯抜きで睡眠抜きね」

「…………無理だろ、どう考えても」

「大丈夫大丈夫。八人中一人は生き残る程度の修業だから。お前さんはどう見たって死ぬ七人の側だけど、死んでも生き返るだろ? あ、それとも回数制限とか『殺したと思ったか? 残念、幻だ』みたいなのか?」

「……」

「なんにせよ、やらせるけどな」

「…………」

「だからまあ、お前さんが殺されても生きてることに、種とか仕掛けとかあるなら、早めに明かしておいた方が賢明だぞ。俺様遠慮無くやるから。種と仕掛けの説明をしてくれたら考慮したうえで遠慮無くやるから」

「………………」

「つらかったら逃げてもいいぞ。その程度のヤツだったと思うから」

「……わかった。やる」

「え? 逃げる?」

「やるって言ってるんだよ! いいか、俺に修業をつけること、後悔しろ。明日にもあんたを殺してやる」

「おお、俺様も愛してる」

「なんの話だ!」

「いや、だからさあ。『殺してやる』なんてわざわざ言うってことは、言った相手を絶対に殺さない決意表明みたいなもんなんだよ。『愛してる』も同然ってこと」

「……」

「本気で殺そうと思ってるんなら、いちいち『殺してやる』なんて言うなよ。黙ってれ。お前さんはどうにも、理想とか目的とかが高尚なだけで、決意も覚悟も足りてないなあ。まあ、一番足りないのは実力だがな」

「……くそ」

「実力は上げてやるよ。ふた月ぐらいでな。逆に言うとふた月以上かけるつもりだとお前さんの精神がもたない。詰めこむぞ。俺様が昔そうされたようにな」

「やってやる」

「結構。いい意気だ。お前さんが俺様をどう思ってるかは知らんが、俺様は、お前さんみたいなはねっかえりは結構好きだぜ。『殺してやりたい』ぐらいな」

「……気持ち悪いからやめろ」

「はっはあ! 結構! さっそく一つ学んだようだなあ」



『はいいろ』は、楽しそうでした。

 私の思い出の中の父は、いつだって軽薄そうなニヤニヤ笑いを浮かべています。

 それでも、この時期の父は、私の知る中で一番楽しそうに見えました。

 子供みたいな父がますます子供に思える、そんな期間です。


 その日を境に、父とアレクはどこかにふらりと出かけて、しばらく帰ってきませんでした。

 私が彼らを次に見たのは、一週間ほど経ったころです。

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