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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~  作者: 稲荷竜
十七章 アレクサンダーの生誕

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238話

「つまり色々あってアレクちゃんは一皮むけたってことだね!」



『銀の狐亭』――

 朝の食堂には色々な人が集まっていて、思い思いに食事をとっている。

 やはり豆料理の人気のなさは気になるものの、それ以外のアレク考案――というかアレクのいた世界産の料理はおおむね好評という感じだ。


 日常に帰ってきた。

 アレクにとって実に久しぶりの宿屋生活だけれど、不思議と懐かしさはない。


 久しぶりと言っても、そこまで経っていないからだろうか。

 それとも彼が――アレクサンダーが、極めてアレク的に行動をしていてくれたお陰で体がおどろいていないからだろうか。


 ともあれ穏やかな朝だ。

 でも――アレクはカウンター内部で、つい固まる。



「…………あの、なんで当たり前のような顔をしてここにいるんですか――姉さん」



 カウンター席にいたのは、魔族の女性だった。

 かなり年齢を重ねているはずだが――あまり変わっているようには見えない。


 純白の髪に、純白の肌。

 左右で色の違う瞳に――胸元の大きく開いたドレス。


 いたずらっぽいというか、確実になにか悪だくみをしているような笑顔まで、ほとんどたがわず、アレクがギルドマスターのところで世話になっていた時のままだ。

 ただ、髪を長くしているせいか、少々大人っぽく、年齢相応になっている気が、するような、しないような。


 アレクは思わず食堂にホーの姿を捜す。

 まだいないようだ。その事実に安堵すればいいのか、どうすればいいのか、わからない。


 なにせ彼女は、ホーの母親なのだ。

 アレクにとっては、姉さん――ヘンリエッタは、笑う。

 彼女でなければ再現しようもない、まさしくヘンリエッタ的な笑顔で。



「それはねえ――『真白なる夜』の明るく朗らかで有能な助手が、あたしだからです! ヨミちゃんに発見された『憑依術』の第一発見者は、あたしなのでしたー!」

「……」

「えー? 反応薄くなぁい? せっかくサプライズしようと思ってヨミちゃんにも黙っててもらったのに」

「いやもう、おどろきすぎてどう反応していいか……」



 アレクは困り果てていた。

 心の準備ができていないにもほどがあるのだ。


 こめかみに指を当て――

 質問をひねり出す。



「そもそも、なんで失踪を?」

「ちょっと不老不死になりたくて」

「………………」

「今『ダメだこいつ話通じない』って思わなかった!?」

「俺は昔から、姉さんに対してはいつでもそう思ってましたよ」

「うわあなんか距離感あるくない!? なにそのかしこまった口調は!? あたしとアレクちゃんの仲でしょ!?」

「ちょ、ちょっとやめてください。お客様が聞いているので、誤解を生むような発言は……」

「すごーい! 店主ぽーい!」

「店主ですが……」

「マスター、いつもの!」

「唐突に注文されても……あなた初来店でしょうが」



 相変わらずだ。

 この、会話をしているだけで生命力が奪われていく感じが懐かしい。


 アレクは息をつく。

 そして、



「……で、なんで不老不死になんかなろうと?」

「真面目な話するの? 朝から?」

「あの、話が進まないので……あなたに時節なんか関係ないでしょうし」

「あーあーあー! もう、わかったよ! アレクちゃんは大人になっちゃったんだなあ! 寂しいなあ!」

「姉さんも大人になってください」

「そう、それが問題なんだよ」

「なにがですか」

「あたしはもう大人じゃない」

「……年齢だけなら」

「体も大人でしょ!?」

「…………まあはい。それで?」

「昔は顔真っ赤にしてたのに、今は冷たい……うん、あのね、あたし――ドライアドと比べて寿命短いじゃない。魔族だし」

「……そうですね」

「このままだと――ママより早く死んじゃうじゃない」

「……そう、ですね」

「昔はね? あ、ホーができる前ね? 幼かりしあたしは、別に全然気にしてなかったんだけど――子供に先に死なれる親の気持ち考えちゃってさ。長生きしてあげたいなあ、ってそう思ったわけ」

「……なるほど」

「でもさ、あの不老不死はだめだね。っていうか――あたしは不老不死なんかいらなかったんだよ。だってさ、ホーよりは先に死にたいもん。だから、シロちゃんと黒アレクちゃんと一緒に、死ねる不老不死……不老長寿? 延命術? を、開発中なわけよ」

「黒アレクって……」

「なによお!? 黒い鎧のアレクちゃんで黒アレクでしょ!?」

「……事情はわかったんですが、でもなんで急に不老不死を目指そうと思ったので?」

「だってアレクちゃんがいたじゃない。嫌でも『死』を意識するよ」

「……なぜ?」

「そういうとこは相変わらずなのね」

「どういうことかわかりませんけど――まあ、無理しても生きられませんから」



 人は急には変われない。

 最初は『主人公らしい行動』ということで――主人公というか、プレイヤーらしい行動ということでやってきたが、今ではもう板についている。


 劇的なことはなにもない。

 ただ、流れの中で、自分そのものが変質していっただけだ。



「でさー。あたしって意外と天才じゃない」

「そうですね、意外と」

「昔っからあんま目立たないように行動してたから……ほら、魔族の娘いると知れると色々言われる時期もあったしね? だからママに迷惑かけないように基本一人で部屋で遊んでた時期もあって、そういう時やってたから、魔法理論の構築とか得意なのよ」

「……まあ、独学で無詠唱魔法と魔法同時発動を編み出してますからね」

「だから不老不死の理論ぐらい一週間ぐらいで編み出せるかと思ったんだよねえ」

「…………」

「そしたら何年か、かかっちゃった」



 てへ、と舌を出す。

 アレクはつい、言ってしまう。



「親としての自覚を持ってください。俺が言えたことでもないかもしれませんが……」

「ちっがーう! そこは『おいけっきょく編み出せてねーじゃねーか!』って突っこむところでしょ!? そういうガチなトーンやめてよ! 現実に引き戻されるから!」

「地に足をつけた方がよろしいかと」

「いやでも、久々すぎて緊張のあまり正気のままじゃホーに会えないし! だからあたし、今、一生懸命高めてるとこなの! こう、ほら! 気分的なアレを!」

「姉さんに正気……?」

「え、なにその疑問……?」

「……いえ、まあ、なるほど、そうか、こういう気持ちでお客様は俺に接してたんだな」

「ちょっとちょっとすごい気になるまじやめて」

「あ、ホーはまだ寝てますから、襲撃するなら今ですよ」

「襲撃!?」

「昔は寝てるホーに『襲撃!』とか叫びながら覆い被さってませんでした?」

「昔は赤ちゃんだったじゃん! 今のホーにやったら普通に『ママ気持ち悪い』って言われるでしょー!?」

「どうでしょう、試してみては? セーブしてから」

「あたし返り討ちに遭うの!?」

「今のホーは強いですから。まあ――あなたなら二秒で挽肉でしょうね」

「うわあ、あたし、なまったのかなあ……研究ばっかしてたからなあ……たしかに二の腕とかもう切り落したいぐらいプルンプルンしてる……」

「……なんだか俺まで悲しくなるのでやめてください」



 沈んだ空気が漂う。

 宿泊客たちのキャッキャッヒソヒソという声を聞きながら――



「ねえ、アレクちゃん、ホーはどんな子になった?」



 ヘンリエッタが、言う。

 アレクは考えて――



「あなたを二秒で肉塊にできるような……」

「そうじゃないよ! 性能じゃなくて性格のことだよ! わかってよ!」

「まあ、冗談をさしおいて言うと――」

「アレクちゃんが冗談を言えるだと……?」

「強い子になってますよ」

「……性能じゃなくて、だよね?」

「ええ。自分で目標を見出して、自分で行動できるような――自分の見出した道を命懸けで歩めるような、強い子です」

「そっか。あたしみたいにいい加減な子にならなくってよかった」

「あなたもあなたで、強い人だと思いますよ。冷静で冷酷で、そのくせ明るくて、騒がしくて行動力があって。俺はたぶん、あなたの強さにかなり打ちのめされていました」

「褒めてる――のかなあ?」

「どうでしょう。褒めているというか、そんなレベルは通り越して、賛美しているのかもしれません。……俺がかかわる人は、みんな強かった。『はいいろ』と『狐』はもちろん、ロレッタさんも、モリーンさんも、先ほど述べた通りホーも、強い」

「……性能の話、じゃないんだね」

「ええ。俺の目では見えない強さを、みんな持っていて――それは、俺にはないものだった。うらやましくて、彼女たちみたいにならなきゃいけないと思って、なれなくて……色々と迷惑をかけてしまいましたよ」

「大丈夫? おっぱい吸う?」

「あの、奧に妻がいるので」

「妻といえば思い出すねえ。昔ほら、ヨミちゃんの裸を初めて見た時の、アレクちゃんのリアクションがさあ……」

「俺の話はおいておいて」

「ヨミちゃんの話だよ。けっきょく、責任とったんだ」

「……ああ、そういえば、そうとも言えるのかな?」

「いやでもさあ、こう言うのもどうかって気もするんだけど――」

「なんでしょう?」

「……ヨミちゃん、成長してなくない?」

「…………身長とか伸びてますよ、ちゃんと」

「でもあれ絶対まだ成人してないって。連れ歩いてたらやばいって、絶対」

「やばくは……やばくはないと、いいなあ……」

「ヨミちゃんには巨乳の因子を感じたんだけどなあ……」

「なんですかその超感覚」

「あたしは人を見ただけでその人の家系が巨乳か貧乳か、ハゲかフサフサかわかる能力があるんだよ」

「俺は?」

「男性の価値は髪じゃないよ」

「俺は!?」

「あー、アレクちゃんで遊ぶのやっぱ楽しいなあ」



 ヘンリエッタはケラケラ笑う。

 それから――



「じゃ、行ってくる」

「……ああ、ホーを襲撃しに?」

「そうそう。起きてくるまで待とうと思ったんだけど、なんか待ってる時間のジリジリがやっぱ嫌いで。っていうかあの子お寝坊さんすぎない?」

「昨日は遅くまで働いていたようなので」

「そうなの? でもあたしが久々に会うのに起きてこないのひどくない?」

「……あなた、ホーになんにも言ってないでしょ?」

「言ってないけどさあ!」

「じゃあ無茶言うなよ」

「お、ちょっとずつ昔のアレクちゃんに戻ってきたね? あたしと再婚する?」

「勝手に俺をバツイチにしないでください」

「ばついち?」

「……俺の世界の言葉なのか。離婚歴のある人、みたいな意味ですけど」

「そっかー。んー……じゃあ行く!」

「興味ない話には本当に興味ないよな……えっと、お気を付けて。……あ、セーブはしてくださいね」

「二秒で肉塊って本当の話なの!?」

「ホーが本気で危機感を覚えればそういう悲しい再会もありうるかと」

「うわあ……マジなトーンだ……わかった、わかったよ。じゃあセーブしていくよ。やだなあ気が重いなあどうやってホーを口説き落としてママとの再会についてきてもらおうかなあ」

「まだクーさんにあいさつしてないのか……」

「なんにも言わずに出て言ったからね? 超怖いじゃん?」

「なんでそんなヘラヘラできるんだ……とにかく、どうぞ、セーブを」

「はーい。……はーいっていうか、マジのマジのマジマジなんだね……」



 アレクがカウンター横にセーブポイントを出す。

 ヘンリエッタは沈んだ声で『セーブします』と言ってから、客室の方へと向かった。

 その背中を見送り――



「……まあ、そう簡単には変わらないよな」



 少しだけ、安堵の息を漏らした。

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