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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~  作者: 稲荷竜
十七章 アレクサンダーの生誕

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235/249

235話

 情報量にめまいを起こす。

 彼はかぶりを振りながら、上体を起こし、自分の体を見下ろす。


 漆黒の鎧。

 指先や肘など、角の多い鋭いデザインの――鋼のヒトガタ。


 不死身の、体。

 初めて得た――誰と共有することもない、自分だけの、体。



「……」



 彼は拳を握りしめる。

 肉体の――体の機能は十全だった。


 視界はハッキリしている。

 ドーム状の空間、宝石のように輝くツタが天井からぶらさがり、そこここには光の粒子が舞っているのが見える。

 なんという幻想的なことか――


 しかし、触覚。

 触れた地面はたしかに岩のような硬い感触で、冷たくて、痛いぐらいに現実味のある地面だと彼は思った。


 嗅覚。

 潮の香り。

 この洞窟には海風がかすかに吹き込んでいるのだろう。鼻孔を撫でる独特なにおいを表現する術を、彼は持たなかった。

 ただ――いいにおいではないな、と思う。

 だからこそ彼は、感じた潮の香りを愛しく思った。



「成功だね」



 聴覚がヨミの声を捉える。

 声の方を向けば、金色の狐獣人がいた。


 彼女はしゃがみこんで、アレクに――生身の方のアレクサンダーに、膝枕している。

 魂が抜けた影響で倒れこみでもしたのだろう。


 アレクは――まだ、目覚めてはいない様子だった。

 このまま眠られていても困る。


 アレクサンダーは立ち上がる。

 鎧と化した体は気遣いなく動いても、音を立てなかった。


 それは鍛冶神と呼ばれたダヴィッドの技術ゆえだろう。

 間違いなく最高の体。

 そこに先ほどまでの、すなわちアレクと体を共有していた時と同じステータスやスキルがあるのを、彼はたしかに閲覧し、確認した。


 まさしく無敵の気分だ。

 もっとも、たとえ無敵でなくても――赤子のように脆弱であっても、彼がとる行動には一切の変化がないけれど。



「起きろよ、アレクさん」



 漆黒の鎧は語りかける。

 反応はない。――だから、言葉を続ける。



「いつまで寝てるつもりだ。いつまで――引きこもってるつもりだ」



 ピクリ、とアレクの指先が動く。

 彼は思い出しながら、続ける。



「起きろよ。あんたも、わかってるだろ? あんたは俺に、言わなきゃいけないことがあるはずだ。無言のまま責任をとったみたいに引き下がるんじゃなくって、きちんと、面と向かって言わなきゃいけないこと、あるだろ」



 アレクのまぶたが動く。

 アレクサンダーの言葉は、止まらない。



「あんたがどう思ってるか、俺には聞く権利がある。だから起きろ。アレクさん。起きて――俺に精一杯の、みっともない言い訳をしろ!」



 感情を抑えきれなかった叫びが、洞窟内にこだました。

 ほんの少しの、静寂があった。

 そして――



「……言い訳は、したくなかったな」



 かすかな声だった。

 目覚めたてだとしても、あまりに弱々しい声。


 注目が集まる中――

 アレクが、上体を起こす。



「というかむしろ、言い訳のしようもないと思う。俺は――たぶん、あなたが俺に言おうとしていることに対して、なにも言えないよ。アレクサンダーさん」



 その静かな、あきらめたような声音に――

 アレクサンダーと呼ばれた漆黒の鎧は、憤った。



「いや、言い訳のしようもなくても、言い訳をしてもらう。みっともなくたって、あがいてもらわなきゃ、いよいよ俺は、あんたを許せない」

「……」

「だから――聞かせてくれよ」



 漆黒の鎧が、アレクへ近付いていく。

 そして、口のない顔で、述べる。



「産まれたての俺の体に異世界から憑依して、俺の人生を奪ったあんたは、どんな気分なのか聞かせてくれ」



 その言葉を受けて――

 ヨミが、アレクを見た。


 アレクは否定しない。

 無言のまま、彼の主張を――本来アレクサンダーとして産まれ、アレクサンダーとして過ごすはずだったのは、今、漆黒の鎧を体としている彼なのだと、認めた。

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