最終話「余白――まだ書かれていない一行」
円卓に、原稿が並んでいた。
誰かが書いたもの。
誰かが読んだもの。
誰かの問いから生まれたもの。
そして――
まだ、何も書かれていないものもあった。
雇い主が、原稿の束を眺めて言った。
「……足りないな」
博士が眼鏡を上げる。
「何が、ですか」
「完成が」
しばらく、誰も答えなかった。
カノジョが、原稿の一枚を手に取る。
そして、小さく笑った。
「完成しなくていいのよ」
雇い主が、彼女を見る。
「どうして?」
「余白があるから、次が書けるもの」
カノジョは、原稿を円卓に戻した。
「全部埋めてしまったら、もう誰も入れないでしょう?」
誰も、反対しなかった。
円卓の上には、たくさんの言葉がある。
問いも。
答えも。
記憶も。
誰かの残した熱も。
それでも――
まだ一枚、白紙が残っている。
誰のものでもない。
誰かが、次に書くための一枚。
円卓の中央で、白紙だけが静かに残っていた。
雇い主が、それを見て言った。
「……誰が書くんだろうな」
カノジョは答えなかった。
ただ、白紙を見つめていた。
その余白は、まだ空いている。
だから――
物語は、まだ終われない。
――完――
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