ウインウイン
「馬鹿どもがせっかく千載一遇のチャンスだったのに……。まさかダークマターのエネルギー充填がそんな仕組みになっていたとは……。つくづくヒューマンタイプは面白え」
男は血のついた指先を舐めながらそう呟いた。来夢の知りたい事を知っている、そんな雰囲気である。
「お前何者だ?何か知っているのか、この俺の形態のことを」
「自分の事もご存じなかったのか?よく変身トリガーが分かったな。俺の名はt-f26。この星の『人間』じゃない。もっと言うと人間という生命体でもない。本来はグレイ型に属する生命体だ」
「グレイ型?」
「この星には確認されている異星人のタイプのうち4つが既に降り立っている。文明の発達段階においてもこの地球よりも遙かに進んでいる。中には侵略という手段に打って出ようという輩もたくさんあるのさ。ただし、文明が発展しているからといってその格差は様々。殆どの惑星はこの地球を侵略しても住む事が出来ない。適応環境にないからだ。ここまでは分かるか?」
「人類を滅ぼすのは簡単だがするだけのメリットがないって事か?お前はどうなんだ、メリットがないなら滅ぼさず何のためにここへ来た」
「文明が発達したとして例えば蟻がゾウを倒すのにどのくらいの労力が必要だ?若しくはお前たちのジャンケンなる遊びのルール。グーはパーに勝てない、みたいな得手不得手のタイプが存在していた場合はどうだ。我々にとって造作もないことがお前らにはとんでもない苦労で、お前たちにとって当たり前の事が我々にとっては苦手であるという事実もこの世には存在している。回りくどい言い方をすればそんなとこだ。それならば友好的にお互いウインウインとなる方策をと言うのが我々の考えだ」
「だったらなんでソイツら殺した。人間のふりして」
ウインウイン音を立てながら来夢は問いかける。
「ふり?俺はここにはいない。レプティアンと違って変身出来ないからな。ついでに言うと言葉も喋れねえ。念波で話しかけている。これ、マメな」
「レプティアン?いない?」
「レプティアンすら知らねえのか。話にならないな。それだけの力を手にして。誰だ?お前にその『処置』を施した輩は」
「オヤジだ。だがもうこの世にはいない」
来夢のその言葉を聞いたt-f26は顎を撫でながら何か思案しているようだった。
その時、路地に通行人が入ってきた。
「危ない!」
来夢は叫んで通行人をくい止めようした。
が、次の瞬間、通行人の身体をすり抜け来夢が転倒する。
「邪魔にならないように次元空間を弄ってある。必要以上の危害を加えるつもりはない。安心しろ。――とは言え、何も知らないお前とこれ以上問答していても仕方ない。お前はお前の事実を探れ。そうすれば俺もお前に俺達の知る最大限の事実を語ろう。アブダクションするのは造作もないが面倒だ。既にお前は政府の監視対象になっているようだからな。注意はしておく」
消えていくt-f26。途中人の姿から元の姿へと変貌する。大きな頭、目玉が顔の大半を占める、そして灰色の全身。
「どうやってコンタクトとれって言うんだ?」
残された来夢が呟く。頭に念波が届く。
(念じろ、そうすりゃ現れる)
来夢が辺りを見回す。t-f26の姿はもうない。栞は怯えた様子で座り込んでいる。首を飛ばされた男たちも血飛沫さえも跡形もなく消えていた。
「ケガはないか」
来夢は栞に肩を貸し立ち上がらせた。時計の針は1分も進んでいなかった。




