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石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


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特製クッキーはいかがですか

 そろそろ他家を訪問してもギリギリ許される時間。我が家の前に王家紋章入りの馬車が止まった。警備の方も大勢いらして、物々しい雰囲気に道行く方々が何事かと足を止め、ご近所の方もカーテンのすき間からのぞき見ている。


 ぼろ屋敷でも当家は今でも貴族の端くれなんですのよ。長らく門番もいないからか、昔は男爵家だったのにくらいの扱い。最近はご近所づきあいもない。でも殿下の来訪で門の前にゴミを捨てるような人はいなくなるわね。掃除の手間が省けて助かります。


 エドガー様はかなりお急ぎでいらしたのか、髪が少しはねている。優雅さに欠けた所作で馬車から降りると、従者の方を押しのけノッカーを叩かれた。扉を開けるのは私。お迎えする家令もメイドもいない。


「エドガー様。またもやご心配をおかけして申し訳ございませんでした」


「ノエル! 無事で良かった。早く王宮に帰ろう」


 知らせを聞いて飛んできたという。マークス様は時間を見計らって知らせくれた。そうでなければ真夜中だろうがお迎が来ていたはずだもの。


 まだ玄関の扉は開いているのに抱きしめられた。大勢の方に見られて大丈夫かしら。それにすごく 恥ずかしいです。この方の行動にいつも戸惑ってしまうけど、嬉しさがこみ上げる。ポンポンと背中を叩いて離してもらった。


「急ぎ支度して参りますので、お待ちいただく間にお茶はいかがですか? エドガー様に召し上がっていただきたくてクッキーを焼きましたの」


 ありったけの砂糖とバターを使った特製クッキー。二枚重ねて間にジャムを挟んでみた。お口に合うかしら。


「その魅力的な誘いは断れない」


 またもや抱きしめられたが、先に従者の方が扉を閉めてくれた。あとでクッキーの包みをお渡ししましょう。


 応接室にお通しすると、隣に座ってと言われる。お茶とクッキーはアメリに頼んだ。傷が治るまで完全にはしまえない尻尾をスカートに下にどうにか隠している。


「僕の方こそ君を守リきれず申し訳ない。何が起きたか教えて欲しい」


「エドガー様。もしやお休みにもならず探してくださったのですか? お顔の色が優れません。少し甘い物を召し上がってください」


 君は優しいなとクッキーを一枚食べてくれた。ごめんなさい。あなた様からもお聞きしたいことがあります。


「私はどこか知らない廃村に転移しました。お心当たりはありますか?」


「たぶんゴダールの育った村だ。魔獣に襲われた後は誰も寄りつかなくなったと聞いている」


 実際に確かめに行った事はないが場所は保護区に近いという。


「偽神父にマリエッタと一緒に閉じ込められ、危うい所をマークス様に助けていただいたのですが、エドガー様の指示ですか?」


「違う。あいつは単独行動している。実はよく知らないんだ。ゴダールの指示で君の元へ石を届けに行ったのは知っている。最初は奴の仕業かと南に移して見張っていたが、石のことは本気で気にかけているようだし、赤い布の捜査にも自ら名乗り出て協力してくれている。ゴダールの部下でもなさそうだし…余計な事まで話してしまったかな」


「どうぞ何でもお話ください。信用されているようで嬉しいです。もう一枚いかがですか」


 美味しいと残った2枚も食べてくれた。愛情込めて作った甲斐がありました。


「ノエルを疑うなんてしてないよ。でも危険な事に飛び込んでいきそうだから心配なだけ」


 じっと見つめられて、つい聞きたいことを忘れそうになる。ダメダメ。流されてはいけない。


「保護区はクリスタ様が管理なさってますよね」


「なぜ知っている? あれは極秘だ。オーエン伯の領地は牧畜となっているはずだけど」


 確かに牧畜業としての実績も収入も花嫁修業中に帳簿を拝見しました。領地には未開拓の土地が多くあると聞いた。たぶんそこにあるのだろう。あとでアメリにも詳しく聞き取りしなくちゃ。


「最後に。ラウル様の仕事部屋に何を探しにいらしたのですか?」


 口をもごもごさせて青くなっているが、お口が勝手に動く。


「『神話』は実はもう一冊あって、後から書き足されたものがあるんだ。それをラウルが隠し持ってるかと探しに行ったんだけど…。なぜ僕だとわかったのかな」


「エドガー様が私を訪ねて初めて仕事部屋にいらした時に、綺麗に片付いていると仰いました。荒らされたことを知っていたとしか思えません。それには何が書かれているのでしょうか」


 頭を抱えて呻くエドガー様も可愛いです。でも逃がしません。今日は話していただきます。


「あれには、魔獣達の頂点に君臨する絶対的な王の存在が書かれているらしい。王宮にある神話にメモ書きが挟まれていた。それを知っているのは僕だけ。父上も兄上も本は読まないからね」


 歴代の王族が知っていたかどうかはわからない。部下が勝手に部屋を荒らしたことは詫びると頭を下げられたが、それはラウルへどうぞ。私はもう婚約者でもなんでもありません。


 エドガー様は魔獣と仲良くしたいと言っていた。それは本心なのだろう。そして今お聞きした新しい情報は金目の乙女を役目から解放したいと。お役目とは? もう特製『秘密』『話す』印字入りクッキーは品切れ。次の機会としましょう。


「なぜペラペラと余計な事まで。ノエルの顔を見たら気が緩んだのかな」


「光栄ですわ」


 ふふ。古代文字をこっそりジャムの下に隠してみました。書くのは時間がかかるし難しい。それなら写し取るのはどうかしらと閃いた。


 売れ残りの古代文字の本から『写す』を見つけ出して覚え、あとは使いたい文字を指でたどりながら唱えてみた。完全に一致する文字が石に現れた時は自分は天才かと思ったわ。失敗しても石なら洗い流せる。


 魔法陣を描くときも役立ちそうね。リシャール様に何かと交換に教えてあげよう。

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