表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石になった元婚約者のお世話係になりました  作者: ななこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/83

石牢

 ゴダール魔爵に捕らえられて、教会地下の牢に入れられた。床も壁も石造り。石マニアじゃないんだけど。


 小さな明かり取りの窓と備え付けられているのは粗末な堅いベッドのみ。冷たい床に座るよりははるかにいい。でも横になるにはちょっと抵抗がある。トイレはどうしたらいいんだろう。もしや隅に置いてある壺が…。乙女にそんな真似できない。


 どのくらい時間がたったかわからない。夜になったら真っ暗だろうな。怖いし、寒いし、お腹も空いてきた。もうここで終わりなのかしら。こんなところで死ぬくらいなら、あの高級菓子店のマーブルケーキを食べておけば良かった。ついポケットから取り出した石を握ってしまう。


 靴音がして、ゆらゆらと灯が見えた。この匂いは…。


 牢の前で聖歌隊の衣装を身に纏ったマリエッタが薄笑いを浮かべる。蝋燭の灯に照らされて、顔に不自然な影を作る。すごく怖いです。


「ごきげんよう。居心地はいかがかしら? あなた、魔獣使いなんですって? 家族にも隠していたなんて、何を企んでいたの?」


 家族は今、父しかいません。それに自分でも知らないことは隠せないわ。睨み付けてやった。


「怖い、怖い。その気色悪い金目が大嫌いだった。それであの化け物達をおびき寄せるのかしら。それが何の役にたつの? 見世物にでもするつもり?」


 神話に出てくる魔獣は誇り高く、気高い存在。それを見世物ですって? お爺様の話を一緒に聞いてたはずなのに。この子はいつから魔獣をそんな風に見ていたんだろうか。


「お爺様だけじゃない。お父様まで実の娘よりもあんたを特別扱い。私が先に目をつけていたラウル様も横取りされて本当に邪魔。罰としてここで死ぬまでその穢れた血を神に捧げるのね」


 罰って何よ。もしかして本当は自分が金目に生まれたかったの? 従姉妹って血がつながってるんだよね。マリエッタちゃんも穢れているのな~。


「何笑っているの? 頭おかしいんじゃない!」


 人ってここまで追い込まれると、逆に冷静になれるみたい。現実逃避ってやつかな。マリエッタには見えないだろうけどノアの気配を感じる。それだけで勇気が出る。


「石を渡しなさい。いまさら出てこられても困るの。子どもを産んだらラウル様の財産は全部いただく。その代わりに跡継ぎとして伯爵家にあげるわ。あのクソばばあから養育費をふんだくるのもいいけど、赤ん坊も面倒事も嫌いだからいいわ」


「ラウルを愛しているんじゃないの?」


「他に好きな人ができたの。ああ、子どもなら本当にラウル様の子よ。執務室の奥の寝室でうっかりうたた寝しちゃったの。そうしたら暗闇の中で飢えた獣みたいに激しく求められたわ」


 うっかりじゃないだろう! 石を投げつけてやった。


「今度は特別な魔術をかけてもらったの。猫に破かれたものよりも数段強力よ」


 蝋燭を床に置くと、マリエッタが赤い布で石を擦りだした。古代文字は何と書かれているのだろう。布から漂う臭いと安い香水が混ざって、鼻がもげそうだ。


「はい。お返しするわ」


 赤い布の中で石は砂となって、目の前でさらさらと床に落とされた。ポロポロと涙が零れる。


「泣いてるの? いい気味だわ。これで私は愛しい人に先立たれた可哀想な身重の婚約者。元婚約者を結婚式に呼べなくて残念だったわ」


 マリエッタは赤い布をひらひらと振りながら去って行った。


 強力な呪いをかけられたあの赤い布を使えばどうなるのかはわからない。涙はそれを知っていて言わなかった事への詫びなのか。それとも血のつながった従妹への情だったのか。


 暗闇の中そっとノアを呼んだ。黒い影が私を優しく包み込む。


「温かい。今夜は一緒にいてね」


 ***


 翌日、墓守りが食事を運んでくれた。水とパン一個だけど。ノアと半分こにしよう。


「ありがとう。あなたを何と呼べばいいかしら。確かに動きはゆっくりね。ラルゴはどうかしら」


「…ゴ」


「そうよ。ラ・ル・ゴ。昨日の墓穴は無事かな?」


 身振リを交えて聞いてみた。真似て頷くから、わかったみたいだ。


 ラウルは幼獣を埋めた穴の中に隠した。マリエッタに渡した石が偽物とばれなくて良かった。あの子は石に直接触った事もないし、いちいち確認なんてしない。


「獣臭いと思ったらお前か。何しに来た? さっさと仕事に戻れ!」


「神父様ですか? ずいぶんと酷い扱いをなさるのね。ここは教会じゃなかったかしら」


「魔獣は人ではない。それよりもご自身の心配をされた方がいい。今日から金目の乙女に仕事をしてもらう。こっちへ来い」


 押し込まれた部屋には机と椅子。刺繍がされた赤い布を渡され、古代文字を書けと言われる。


「読むことはどうにかできますが、書いたことはありません」


「お前の伯父もそう言っていたが、命が惜しくなったのか大人しく書いていたよ」


 できないと言うと頬を叩かれた。伯父様はここに囚われていたのね。姿が見えないけど別の部屋かしら。


「あれはもういない。意味はわかるな? これからはお前が魔法のハンカチを仕上げるんだ」


「何と書けば?」


「『服従』だ。書き終わったら上からお前の血を一滴垂らしておけ。いいな」


「わかりました。気が散るので、一人にしてください。鍵は閉めていただいて結構ですよ」


「物わかりが良くて助かる。あの馬鹿娘より扱いやすいな」


 扉がしまり、鍵がかけられる。


 気弱だったけど優しかった伯父様。お助けすることはできなかったのかしら。机に突っ伏し泣いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ