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09 王太子の偉業の証人

「俺が殺した魔獣を両親に持つなら、お前も魔獣だろうが!」

「私の両親は人間だ。私の両親は、愛と美と豊穣を司る女神の信徒に冤罪を着せられて国を追われ、この国の外れの村で、神々の信徒である事を隠して暮らしていたんだ」

「外れの村?」

「そうだ。お前が魔獣を(おび)き寄せる為に、村人を魔獣の餌にした、あの村だ」


 マルの言葉にまた、バツとスーとサン以外の、その場にいた者達は目を見開いた。


「お前!嘘だ!」

「本当だ。私はあの村の生き残りだよ」

「四人も生き残っている筈がない!」

「あの村で暮らしていたのは私だけだ。この三人は別の場所で暮らしている」

「待て」


 国王が話を止める。


「村人を魔獣の餌にしたと言うのは本当か?」

「違います父上!こいつが嘘を言っているんだ!衛兵!こいつを殺せ!」


 近衛兵が剣を構えるのを「待て!」と国王が止めた。


「マル」

「父上!」


 国王の言葉を遮った王太子を国王は睨み付けた。


「マルが言う事が嘘かどうかは、私が判断する」

「父上!私を信じてくれないのですか?!」

「今日ここまでの状況に於いて、マルが嘘を言ったとは断言出来ん。それどころかマルは逐一、事実を述べている様に私には思える」

「父上!」

「それに、これからマルが言う事が嘘だと言うなら、そんなに必死に止める事はないであろう?」

「こいつは神の力を使って、父上を洗脳しているのです!」

「たわけた事を」

「たわけてなどおりません!」

「私が洗脳されているのなら、お前を捕らえるなり、この場で廃嫡するなり、既にしておるだろう」

「それは!それはこいつの手口なのです!」

「マル達は先程から、ここから去ろうとしているのを私が引き留めていたのだ。私を洗脳しているなら、とっくに何かをさせていただろう」

「しかし!」

「これ以上邪魔をすると、お前も拘束させるぞ」


 参列者達の前で、国王の命令で拘束されるのはさすがに立場が悪くなると判断した王太子は、口を閉じ、この場をなんとか出来ないか考える事にした。


 話が途切れたので、マルが口を開く。


「帰りたいの分かってるなら、帰りますね」

「いや、だから、待ってくれ、頼むから」

「・・・じゃあ、村で起こった事を話せば良いですか?」

「ああ、頼む」


 マルはやれやれと言う風に肩を竦め、はあと息を吐くのに合わせて肩を下げた。


「王太子達は村に来ると、村人達を次々に捕まえて、男の人の事は縄で縛りました。逃げた人も家族が人質にされて、結局全員捕まりました。男の人達は馬に繋がれてから、魔獣が棲む森に連れて行かれました」

「嘘だ!」

「おい」


 声を上げた王太子を捕らえる様に、国王が近衛兵に命令する。王太子は大神官長と同じ様に、口に布が詰められた上に猿轡を噛まされ、動けない様に縛られた。


「マル、続けてくれ」

「とは言っても後は、お(なか)を刺されて血を垂れ流す男の人達を馬で引き摺って戻って来て、魔獣を村に(おび)き寄せて、村人を次々と餌として与えて、満腹で動きが鈍くなった所を弓矢で何頭か倒して、終わりです」

「何頭か?」

「ええ。魔獣は半分以上、逃げましたから」

「・・・マルの両親も餌にされて死んだのか?」

「いえ。殺されて餌ですね。村が王太子に襲われた時、抵抗した父は兵士に押さえられ、動けなくされた所を王太子に首を切られて死にました。最後は確かに餌です」


 参列者達から小さな悲鳴が上がる。

 王太子は体を捻りながらむーむーと唸った。


「私は男の子の様な格好をしていたので、魔獣の群れに投げ入れられそうになり、それを母が助けようとして兵士に抱き付いたら、(うし)ろから王太子に首を切られて死にました。母も最後は餌でした」


 小さい悲鳴がまた、参列者達から上がっていた。


「それで結局、私は魔獣の群れに投げ入れられたんですけれど、タイミングがズレたので、魔獣が他の男の子に群がっている間に木に登る事が出来ました」

「女の子なら助かったのか?」

「女の子でも幼い子は投げ入れられてました。幼い子達はどこまで飛ばせるか、兵士達が賭けてましたね。結局、王太子が賭けに勝ってましたけど」

「飛ばせるって、子供を投げてか?」

「ええ」

「幼くない子は?」

「女性とか少女とかは、その場では別の所に連れて行かれました。それ以外のおばさんとかお婆さんとかは、やはりその場で魔獣の餌です」

「その、連れて行かれた女性達は、助かったのか?」


 そう訊きながら、そうあって欲しいと思いながらも国王は、そんな筈はないのだろうと感じていた。

 マルは首を左右に振る。


「魔獣を適当に殺して逃がした後に、村の中から悲鳴が聞こえてました。その後、魔獣の死骸を取りに兵士が出て来た時に、魔獣に食い散らかされた村人達の死体に、女性達の死体を混ぜていました」

「そんな・・・」

「もしかしたら殺されなかった女性がいたかも知れませんが、分かりません」

「マル以外に助かった者は見当たらなかったのか?」

「ええ。私と同じ様に木に登って魔獣から逃げた人もいましたけれど、兵士に見付かって、みんな矢で()殺されました」

「マルだけ、見付からなかったのか」

「ええ。後から神々の哀愍を授かっていた事に気付きましたけど、もしかしたらそのお陰で私は殺されなかったのかも知れません」

「神々の哀愍?恩恵の様なものか?」

「愛と美と豊穣を司る女神の恩恵とは異なりますけれど、神々に与えて頂くと言う意味でしたら同じですね」

「そうか・・・それがなければマルもその時に、命を落としていたのかも知れんのだな」


 国王の言葉にマルは肯定も否定もせず、ただ目を伏せた。

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