08 なんでやねん
国王は副神官長の様子を見て溜め息を吐くと、またマルに視線を戻した。
「愛と美と豊穣を司る女神は、いつこの地を去ったのだ?」
「つい先程ですよ?愛と美と豊穣を司る女神がこの地を去ったから、恩恵を失って白い粉が降って来たって言ったじゃないですか?」
「それは、たまたまこのタイミングだったと言う事か?」
「タイミング?ああ、いえ、違います」
国王はマルの言葉の続きを待ったが、マルはそれを話の終わりかと思った。
「もう良いですね?」
「いや!待て待て!タイミングは何がどう違うんだ?」
「・・・どうって、部外者の私ではなく、後はそこの大神官長や副神官長に訊いたらどうですか?」
国王は大神官長と副神官長を振り返るが、その表情を見て、マルを振り向いた。
「頼む。マルの口から教えてくれ。この通りだ」
国王が頭を下げると、誓いの間が響めいた。
マルは溜め息を吐いて、バツとスーとサンの様子を窺った。
「後で手紙でも書いて送れば?」
「スーが書いてくれる?」
「イヤよ。自分で書きなさいよ」
「もう放っとけば良いんじゃないか?」
「でもサンさん?教会関係者はみんなしつこいから、付き纏われるかもよ?」
「それならちゃんと説明して、もう付き纏えない様に心を折ってやるべきだ」
「そうね、バツ。そうするね」
そう言ってマルはバツに微笑みを向ける。
マルは表情を消すと、国王に視線を戻した。
「私の魂の聖痕を通じて、信仰が」
マルは胸の前で両腕をクロスさせ、片手は親指と人差し指と中指を摺り合わせて薬指と小指は折り、もう一方は親指と人差し指で輪を作って他の指は伸ばした。
「お金の神に流れてしまった愛と美と豊穣を司る女神は、私から離れたがりました」
「離れたがる?」
「ええ」
「聖痕の所為で、愛と美と豊穣を司る女神とマルは、離れられなかったのか?」
「いえ。私が愛と美と豊穣を司る女神を放さなかったからです」
「放さなかった?そんな事が出来るのか?」
「ええ」
「それは聖痕とは関係なくか?」
「聖痕と、私が神々の巫女だからですね。神々の巫女は神々と会話する為に、神々を喚び出します。私は愛と美と豊穣を司る女神を信仰していませんが、聖痕の所為で愛と美と豊穣を司る女神と縁が結ばれていたので、愛と美と豊穣を司る女神を喚び出し続ける事で、逃がしませんでした」
「そんな力がマルにはあるのか?」
「神々の巫女ですから。それで、王太子と婚約するまではマレニリアである必要があったので、愛と美と豊穣を司る女神を捕まえて置きましたけど、婚約したので、愛と美と豊穣を司る女神を逃がしました」
「何故、愛と美と豊穣を司る女神はマルから逃げたがったのだ?」
「信仰が」
マルはまた胸の前で両腕をクロスして、手も先程と同じ様にする。
「お金の神に流れて、愛と美と豊穣を司る女神は神力を失い続けていましたから、一刻も早く私から逃げようとしていたんです」
マルは誓いの間の大きな扉を指差した。
「あの扉に穴が開いたのも、愛と美と豊穣を司る女神がこの誓いの間に逃げ込もうと足掻いた所為です。その後に壁や天井が白くなったのも同じで、私から逃げようと、愛と美と豊穣を司る女神が暴れたからです」
参列者達はしんと静まった。
誓いの間にマルの良く通る声が響く。
「それで、愛と美と豊穣を司る女神を逃がす時に、聖痕も剥がして、愛と美と豊穣を司る女神に着けて放したのです」
「それは、愛と美と豊穣を司る女神と縁を切る為にか?」
「と言うより、王太子が婚約したマレニリアをどこかに飛ばす為ですね」
「飛ばす?何故だ?」
「何故?」
「いや、だが、王太子だぞ?結婚すれば、マルはやがてはこの国の王妃だ」
「私にはバツがいます。その私を無理矢理洗礼してマレニリアの名を与え、そこの王太子と結婚させようとしたんですよ?都合良く愛と美と豊穣を司る女神が捕まえられたので、婚約するまでは我慢しましたけど、誰がそいつなんかと結婚したいと思いますか」
「そいつなんかだと?!」
ここまで呆然として黙って聞いていた王太子が、なんかと言われて腹を立て、顔を赤くして怒鳴る。
しかしマルは王太子を冷めた表情で見ていた。
「私がお前なんかと結婚する訳、ないだろう?」
「お前!誰に口をきいてるんだ!」
「お前だよ」
「お前!」
「私の父と母を殺したお前だ、王太子」
その言葉にマルとバツとスーとサン以外のその場にいた者達は、目を見開いた。
王太子が大きく息を吸い、マルを指差した。
「お前・・・魔獣なのか?」
「なんでやねん」




