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第一部〜その出会いがすべて〜

この物語は短編の三部構成になります。

最初に間違えて『短編』で投稿してしまいました。

連載という形で再度投稿させていただきます。

評価してくださった方々には申し訳ない気持ちでいっぱいです。

こちらでも見て下さると幸いです。

最後までよろしくお願いします。


本日私は生まれ変わりました。

いや、これは生まれ変わったというよりは…


ビルとビルが並ぶ街。

その隙間から眩い太陽の光が変わるがわる彼女を照らす。

これから新しい生活を謳歌しようと意気込んでいた。

と、共にそわそわとしていた。


(高校生…女子高生ね!よしっ…今度こそ、と…友達を…作るっ!キャッキャキャッキャするんだ!)

と思いながら彼女は電車から降りた。


彼女はこれから高校生活という名の青春を堪能しようとしていた。


今年16歳となる彼女の名は、波賀菜蘭。

菜蘭の中学校生活は‘学校生活‘とは到底言えないものだった。

病弱だったために、ほぼ家や病院で過ごすことが多かった。

それにより友人という友人がほぼできなかった。

ましてや恋愛などの‘れ‘の字もなかった。


そんな彼女は中学生時代に新薬などを試したりして、集中的に治療を行ない、体力作りも頑張った。

そのおかげで、体調はかなり良くなっていた。

しかし、たまに精神的に不安になったりすると身体に出てくることもある。

こうして華の女子高生という勝手な妄想を膨らました生活に心躍らせいていたのだ。


(よしっ!体調万全!気分上々!)


菜蘭は気合いが入りすぎて、かなり早く家を出てしまったため、1時間も前に学校に到着してしまった。

何人かの生徒は部活で既に登校していた。

構内を少し探索しようとうろついていた菜蘭。

そして最上階のフロアに着いた。


その時ある物が目に入った。

それは廊下に無惨にばら撒かれた筆であった。

菜蘭はそれを手に取る。


(絵の具の筆?誰かが落と…し)


ふと横を見ると、教室らしき部屋の扉が開いていた。

そして奥に見えたのは鏡に映った白い髪の…

その瞬間菜蘭の意識が飛んだ。


次に菜蘭の目が覚めた時には暖かいベッドの上だった。

そのベッドは少し硬いのか、身体が少し痛かった。

ゆっくりと身体を起こす。

先程までの事をぼんやりしながらも思い出した。


『筆…学校…ん?あれっ!?ヤバいッ!今何時!?』


すると自身の身体に違和感があるのに気がついた。


(ん?何か…声が…身体が動きにくい…肘も膝も痛いし…昨日そんな激しい運動した…えっ…?手が…何でこんなにしわくちゃなの?)


菜蘭は身体を確かめるようにゆっくりと触った。


(それに皮膚が柔らかい…なんだろ?なんか…弾力が…)


ふと、美術室らしき部屋で見た最後の光景を思い出した。

そう、鏡に映った白い髪の…まさに今、目の前にいるのだ。

窓に映った自分の姿を見る菜蘭。

いや、これが自分なのかもわからなかった。

認識するのに時間を要した。

しかし、それはどう見ても自分なのだ。

菜蘭はさらに確信を得るために辺りを見回した。

するとすぐ側に小さなテーブルがあり、その上に手鏡が置いてあった。

それを手に取り確認する。


『これは…私っ!?えっ!?えぇぇ!?』


菜蘭は自分の顔をこれでもか!ってくらい触り倒した。


『あぁ…なんてこと…なんでこんなことに…』


それはもう15歳の少女の姿ではなく、見るからに老婆の姿であった。


『な…んで?どういうことっ!?それに、ここ…どこ?』


彼女がそう思うのも無理はない。

そこは、先程までいた学校のようなコンクリートで出来た建物ではなかったのだから。

その木で出来た小屋のような部屋は、自分以外の気配が感じられなかった。

その小屋の中には、ひとりでも暮らせるような物が一通り揃っていた。


すると、家の扉が叩くような音がした。

菜蘭は、椅子にかけてあったブランケットを手に取るとそれを頭の上から被った。 

そして、扉の前まで行くと恐る恐る扉を開いた。


『はい…』


『おはよう!サイラおばあちゃん!今日も持ってきたよ!お母さんが冷めないうちにって…ん?どうしたの!?具合でも悪いの!?』


そう言ってきたのは5、6歳であろうか?可愛らしい笑顔の少年であった。

手には何やら良い匂いのする籠を持っていた。

菜蘭のお腹の虫が小躍りしているのがわかった。

とりあえず業に従おうと籠を受け取ると、その少年を家に招き入れた。


(私のこと…知っている?)


そう思い、自分の事を聞いてみようと思った。


その少年の名前はルイクと言うらしい。

最近移住してきたという老婆、つまり今の菜蘭を気遣って、ご両親共々面倒を見てくれているのだそう。


(なんて心優しい家族なの…)


そして、菜蘭の現在の姿は本当に先程の通りだった。

自分のことをサイラと名乗り73歳だと言っていたらしい。

独り身で移民として何故かここに最近住み始めたとのこと。それがどこまで本当なのかは自分でも定かではない。

ここに来た時、腰に剣を持っていたので最初は村人達は警戒したが、護身用だと本人が言っていたので信じたとか。

何よりこの老婆に剣は触れないだろうと思い、皆警戒心を解いたのだそう。


ここは国の外れにある小さな村だという。

そののどかな自然を活かし、放牧を生業としている。


『ありがとう…最近少し記憶が曖昧でね…また色々教えてくれるかい?』


菜蘭は認知症気味の老婆を装った。


『そっか…うん!いいよ!いつでも聞いて!ちなみに僕の家はあそこに見える大きな木の側にあるからね!』


ルイクは屈託のない笑顔でそう返事すると家へと帰っていった。

笑顔で見送る菜羅。

笑顔のまま固まる菜羅。


『…………』


(なんてこったい!!!)


『どうしようどうしよう!ここは私のいたあの街、いや国でも世界でもない!!しかも…青春も活きのいい人生も全て吹っ飛ばして老後生活に入ってるなんて!!……私の…青…春…ヤバい…咳が…ん?あれ?そういえばこの身体で目覚めてから一回も咳が出てないっ!!苦しくないっ!いつも不安になったりすると出るはずなんだけど…田舎だから?空気が美味しいから!?』


(うーむ、でもまだわかんないわよね…たまたまかもしれないし…)


不安要素はまだ残っていたので、彼女はあることを試そうと外に出た。


そこには大きく広がった一面の草原があった。

空気を思いっきり吸い込む。

そして彼女は左の足を大きく引くと、おもむろに走り出した。

身体は動きにくく、息も切れやすい。

これはやはり老化のためであろう。

しかし、以前のような咳が出ることはなかった。

それを目撃していた村人達は不安と不思議な面持ちで見ていた。


『サイラさーーんっ!一体どうしたんじゃ!?』

『転ぶといけないけん!』

『やめなはれー!』


村の皆が心配してそう声を掛けてくれる。

菜蘭はそんな事より、自分体調が良くなっている事に喜びを感じていたため笑顔でその方に手を振った。


それから…

1ヶ月ほど経った。

彼女自身、この村に来てわかったこともあった。

菜蘭はこの村でサイラばぁと呼ばれていた。

サイラは当然のことどこにいく当てもなく、この村に留まっていた。

いやむしろ、村人達の優しさを受けて、のんびりと暮らしていた。


(あぁ…15歳から一気に70代まで行ったから、青春も何も飛ばしちゃった人生になっちゃったけど…いや、これが私の青春なのかも)


彼女なりにこの状況を何とか飲み込もうとしていた。


『それに何だか前より健康になった気分!最高にのんびりライフだわぁ〜』

と言いながら背伸びをするサイラ。


こうして彼女はこの生活に満足し始めていた。


(あぁ、でも本当に暇になった…)


サイラは堕落した生活にならないよう、自分なりに色々してみようと模索していた。

たまに、ルイクの放牧の様子を見に行ったり…いや、暇なのでほぼ毎日だが。

さらに今では日課になりつつある毎朝のジョギング。

しかしサイラには気になっている事がひとつあった。

それはここに彼女が来た時に持ってたという剣だ。

自分が何のために持っていたのかがわからず、未だ触れられずにいた。

観察したところ、装飾がとても丁寧に作られていたのはわかった。


そしてある日。

サイラが家の中でお茶を淹れていると、外から誰かがもめている声が聞こえてきた。

ところどころ怒声も聞こえる。

サイラは気になって窓の外を覗いた。


(人が何人かいるな…よく見えないけど…)


そう思い、ずっと触れられずにいた剣をじっと見た。


(一応ね、護身用だしね)


そしてその剣を手に取り外へと出た。


少し離れたところから見ていた村人に近寄るサイラ。


『何があったんだい?』


『サイラ婆さん!?それが王宮から来たという衛兵が、何か探しているというんだけど…そんな物はこの村に無いって村長が言ったら急に怒り始めて…てか、何その剣!?ダメだよっ!危ないから家の中にいて!さぁ!』


サイラは村人に促されたながら踵を返そうとした。


しかし、その瞬間さらに大きな怒声が聞こえた。

振り向くと、衛兵は腰にある剣を抜き始めたのだ。

サイラの頭は考える前に、その痩せ細っている身体が動き始めていた。


辺りが息を呑む。


それと同時に硬いものが当たったような大きな音が響いた。

サイラは持ってきた剣で、その振りかざされた剣を受け止めたのだ。


その場にいた全員が目を見張った。

この上なく大きな目で。

老婆とは思えぬその一振りが、村長を守ったのだ。

鍛え上げられたその身体から、振り下ろされた剣に立ち向かっていた。


『貴様…』


すると遠くの方で、蹄の音がする。


『おろせ。やりすぎだ』


そういうのは、馬から見下ろす青年だった。

それが誰だかはサイラには全く見当も付かなかった。

すると、その衛兵は即座に剣を下ろし、その言葉を放った青年の前でひざまづいた。

その衛兵だけではない。

その場にいた、衛兵や村人達までもだ。

サイラだけは何が何だかわからずに、剣を持ったまま立ち尽くしている。

だが、その青年が高貴な方だということはサイラにもわかった。


『すまなかったな。怪我はないか?』


青年にそう言われ、サイラは返事をした。


『はい。大丈夫です。えぇと…あなた様は?』


サイラのその言葉を聞いた衛兵は即座に反応した。


『女!何を言っている!?この方はこの国の第二王子であるリーグス様であらせられるぞ!?ひかえろ!』


サイラは、無言のままひざまづいた。


(この国に王子とかおるんかい…その事実にビックリだわ)


『よい。この村に例の物はなかったのか?』


『はい…おそらく、その村の長が言うには…ですが』

と疑いの目をこちらに向けながら衛兵は言う。


『長が言うのであれば、そうなのであろう。時間が惜しい。戻るぞ』


リーグスは何かが気になったような目でサイラをチラッと見たが視線をすぐに戻した。

そして、リーグス王子を筆頭に衛兵達はその場から離れていった。


(あの老婆…兵の剣を止めていたな…何者だ?それにしても…あの剣…どこかで…)


その姿が見えなくなったと同時に村人がサイラに駆け寄ってくる。


『サイラ婆っ!何故あんな無茶なことを!?』

『大丈夫?危ないところだったわね!?でもすごいわ?あの兵を相手に剣を受け止めるなんて』

『怪我はないか!?驚いたよ!』

『おばあちゃん!どこかで剣を習ってたの!?かっこよかっ…』


色んな声が飛び交う中、ルイクの言葉を遮ってサイラは言った。


『あ、え、い、いや…すまないねぇ驚かせてしまって…今日はもう遅いからうちへ帰るよ』


そう、この中で1番驚いていたのはサイラ自身であった。


(なに…今の…身体が勝手に動いた…兵の動きもクリアに見えてた…)

と言って自分の両手とその剣をまじまじと見つめた。


翌朝、目覚めるとサイラはその剣が気になった。


(昨日初めてこの剣にちゃんと触ったけど…まさか本当に使うことになるとは思わなかったな…てか私剣なんて今まで触ったことも無かったのに…)


一度触ればもう怖くはなく、今度はちゃんと隅々まで見ようと思った。

剣を手に取り、鞘から抜く。

昨日とは違い、明るい太陽の光でよく見えた。


『綺麗…本物…だよね?』


そして、剣を鞘に戻そうと思った時、今度は鞘が気になった。


(ん?なんか…)


カコン…


鞘の先端部分が横に逸れて外れたのだ。


『げっ!壊れた!?やだ、外れちゃったよ!』


コロン…


しかし、その瞬間その外れたの部分から何かが出てきたのだ。

それを拾い上げるサイラ。


『なんだ?ペン…ダント?』


中から出てきたのは、エメラルド色に光る宝石の付いた首飾りだった。

サイラはそれを手に持つと太陽の光にそっとかざした。


『なんて…綺麗なの。ちょっとだけ』

と言いながらサイラはそのペンダントを首にかけた。


その瞬間、身体中が熱くなり、何だか目の前がハッキリと見えるようになった。

身体の異変を感じ取ったサイラは、すぐ様鏡でその姿を確認した。

すると、目の前には以前の自分と同じ年齢の女性がいたのだ。

つまり、15歳ほどの姿になっていたのだ。


『えっ!?えっ!?どういうこと!?若くなってる…でも…誰っ!?誰よ!?』


そう、目の前にいたのは以前とは似つかない顔の自分だった。

自分かもわからないほどの、美少女であった。


(あらやだ、美少女…なんか…すいません…それにしても、このペンダントをした途端若返った?てことは…)


そのペンダントを一度外してみることにした。

すると予想通り、元の老婆に戻ったのだ。


(これ…呪いを解くようなペンダントなの?てか、私…呪いにかかってたの!?)


すると、扉から誰かがノックするような音が聞こえた。

サイラは即座にその首飾りを元の鞘に閉まった。


外に出るとそこには、いつもの食料籠を持ったルイクが立っていた。


『おはよう!今日も搾りたての牛乳とサンドイッチを持って来たよ!今日は僕も一緒に食べようと思って、たくさん持って来たんだ』


そのいつもと変わらない眩しい笑顔にホッとするサイラ。


『おはよう。今日もありがとね。中に入って一緒に食べようか』


サイラはルイクを家の中へと案内し、朝食を一緒に食べ始めた。


『ねぇねぇ、昨日のことなんだけど…おばあちゃんってとっても強いんだね!すごいやっ!僕びっくりしちゃった』


曇りなき眼で見つめてくるルイク。

それに対して少し気まずそうに応えるサイラ。


『あ、うん…驚かせてすまなかったねぇ』


『うぅん、僕もあんなふうに強くなれるかな?僕ね、将来はこの国で1番強い剣士になるんだ!そして、皆を守れるようになって、父さんと母さんを安心させるんだ!あ!もちろんおばあちゃんの事もだよ?へへへ』


きゅうーんっ!


心臓が心地よく握り潰された。

サイラはルイクが可愛くてしょうがなかった。

そして昨日の出来事について聞いてみた。


『ねぇ…昨日は何でこんな街の外れにある村なんかに衛兵様達は来たんだい?』


『お母さん達が言うには、何かを探しに来たみたいだよ?』


『そうか…その何かっていうのは一体何なんだろうね?』


『うん…多分村長のおじいちゃんなら知ってると思うんだけど…』


(村長か。聞いたら教えてくれるかな?)


そう思いながらも、2人は朝食を平らげた。


ルイクは両親の手伝いがあるということで、家へと帰って行った。

ルイクが家に入るまで見送るサイラ。


すると、横から老人が近寄ってきた。


『村長さん。おはようございます』


『サイラ殿。昨日はわしを助けてくれて礼を言う。少し話したいのだが、中に入っても?』


そう言われ、サイラは快く返事をし村長を招き入れた。

先程ルイクからもらった牛乳が残っていたため、温めて村長に差し出した。


『いや、わしは結構だ。牛乳が少し苦手でな。それより、昨日、衛兵に立ち向かうなんぞ驚いた。怪我はなかったかの?』


『はい、何ともないです。それより、村長さんもご無事で?』


『あぁ、大事ない。昨日助けてもらった時に使った…その剣なのじゃが、それは一体どこで?』

と言いながら村長は近くに置いてあったサイラの剣を見た。


『ん?あ、この剣はですね…ちょっと記憶が曖昧で…あ!あぁぁでも、物騒な物ですが普段は護身用に持ち歩いてるだけなので!危ない事には使っておりませんよ!?』


慌ててそう説明するサイラ。


『大丈夫じゃ。わかっておる』


そう言って微笑む村長。

サイラも微笑み返して聞いた。


『村長さん。衛兵達は一体何を探していたんですか?』


『よくわからないのじゃが、短剣だそうだ』


『短剣…?』


『其方のは長いので違いそうじゃな。それにしても、サイラ殿?この国の第二継承者であるリーグス殿下を知らなかったそうな?』


『あ、すいません…ちょっと記憶が…この国の殿下は何名いるんですか?』


サイラはボケたふりをして聞いた。


『お主…まぁよい…この国の殿下は…第一継承者であるモルデン殿下。それと昨日会ったリーグス殿下が第二継承者である。あとこれは…流石に覚えとるとは思うが、フォーブス国王陛下がこの国を統一しているんじゃが…』


サイラは何度も深く頷いた。

まるでそれは知ってますよと言うふうに。


『兎に角、昨日はたまたま助かったものの無茶はあまりしない事をお勧めするぞ?ふふ。ではわしはそろそろお暇いたすかな。邪魔したの』


そう笑って言う村長は、サイラの家を後にした。


(それにしても何故その短剣を探してたんだろ?とんでもなく高価なものとか?)


サイラは村長を見送りながら思い、自身の剣を見た。


そしてそれから数日が経ったある日、サイラは例のごとく暇を持て余していた。

今日は森の中を散策して、木の実を見つけようと意気込んでいた。

迷わないようにちゃんと、木に目印をつけていく。

すると、その森には相応しくない何かを感じた。


(ん?何だろ?何か…聞こえる)


その音を辿って森の中を歩いた。

どんどん大きくなるその音が’声‘だと気づいたのは、木の上にぶら下がっている籠を見つけた時だった。


(まさか…!)


それは少し手を伸ばせば届きそうな位置にあった。


籠の中を覗き込むと、金色の美しい髪に碧い瞳の赤ん坊がこちらを見ていた。


『嘘でしょ…あ、あかっ!赤ちゃんっ!?何でこんな所に!?』


サイラは辺りを見回す。

もちろん誰もいない。

数歩先には横道が見えるが何の気配もしない。


(可愛い…え?いつからいたんだろう?こんな所にいたら死んじゃう!)


そうして、サイラはその赤ん坊を丁寧に丁寧に家へと連れて帰った。


顔に少し汚れがついていたので、身体を拭ってあげようと思い、赤ん坊を持ち上げた。

すると、隠れて見えなかったある物が見えた。

赤ん坊の背中に短剣が敷かれていたのだ。


『ん?これって…この子の?』


サイラはその短剣が気にはなったが、とりあえず赤ん坊を綺麗にしてあげようと思った。


その身体に巻かれているお包みを外す。


『あにゃにゃにゃにゃかわいこちゃん!泣かなくて良い子だねぇ。今綺麗にしてあげるからねぇ』

と言い、温かいお湯で身体を拭ってあげた。

赤ん坊は大人しくしていた。

ひと通り綺麗にしてあげると、今度は牛乳を温めた。

その間に先程の短剣を眺めているとサイラは何かに気がついた。


(ん?この短剣…あれ?まさか…)


そう思いながら、鞘の先端をずらしてみた。

すると、サイラの剣と同じようにコロンと中から首飾りが出てきたのだ。


しかし、よく見ると少し違う部分があった。

その付いている石の色は赤だったのだ。

その首飾りを手に取り、サイラは思った。


(大きさは同じだけど…私の剣のペンダントはエメラルド色。これは綺麗な赤の…ん?てことは…この子のなのかな?)


そしてゆっくりとその赤ちゃんにペンダントをかけた。


するとサイラは思考が停止した。

その目の前には先程の赤子ではなく、目を見張るほど美しい青年がいたのだ。

赤子と同じ黄金に輝くその髪色。

そして青く美しいその瞳に目を奪われた。


『え…!?え!?えっ!?』


サイラは思いっきりたじろいだ。


『もど…った…?元の身体に戻った!!そなたか!?そなたは一体何をっ!?』

と言いながら、その青年はサイラの両肩を強く揺さぶった。

しかしサイラはその姿に顔が真っ赤になって言う。


『あぁぁぁぁあ、えぇぇえっと!!ちょっ!ちょっと!落ち着いてっ!そのっ!その…その前に…何か着て…全てがあらわになってる…からっ!』


サイラの眼球が定まらないまま、近くにあったブランケットをその青年に被せた。

そう、その青年は赤子のお包みより遥かに身体が大きかったため、服を着てない状態だった。


(裸っ!見ちまった!うーん、うちには男性用の服がないからな…ルイクに言ってお父さんのお古かなんかもらうか…)


温めていた牛乳は沸騰寸前だった。

火を止めながら青年に言った。


『少しここで待ってて。服、借りてくるから』


サイラは青年を少しばかりの間、留守番をさせて、ルイクの家に行った。

そして、すぐに戻るとその手に持っていた服を青年に渡した。

ルイクの父の着なくなった服を頂戴してきたのだ。


『とりあえずこれを着て!』


その服を差し出された青年は、すぐに着替えた。


『改めて助けてくれたことに礼を言う…其方、名は何という?』


(なんでこいつこんなに偉そうなんだ?)


『サイラ…あなたは?』


『リィールだ。ここはどこだ?それに…これは一体どういうことなんだ?』


『いやいやいや!それはこっちが聞きたい!何であなたは赤ん坊の姿だったの!?』


動揺したサイラの質問に、リィールはゆっくりと口を開いた。


『…この呪いかも分からぬ事が起こったのは1ヶ月ほど前だった。誰かが…その短剣を俺に渡して来た。それを受け取った途端…赤子へと姿が変わってしまったんだ。そして、この事を国中に知られる前に、周りの者が調査をしたりしてたんだが…数日前馬車で移動中に何者かに襲撃され、爆風で飛ばされた。幸い木に引っかかった所をサイラに助けてもらったと言うわけだ』


その経緯をリィールから聞いたサイラは何か引っ掛かりを感じた。


(この人貴族か何か?それに1ヶ月前って…私がこの世界に来たのと同じ頃ね)


『襲撃って…そんな狙わられる身なの?それにその剣を渡してきた誰かって?』


しかしリィールは横に首を振った。

何か事情があるのだろうと思い、サイラは少し俯いたが、今度は自身がここまで経緯を説明をした。


『なるほど…それで、この短剣に入ってたペンダントを俺につけたところ、この姿に戻ったってことか…』


そのリィールの言葉にサイラが頷いて聞いた。


『それでリィールは帰るお家はあるの?』


『あぁ』


『どこ?近いの?近いなら送ろうか?』


『…王宮だ。少し距離はあるが、迎えを寄越せば…それにはまずここを知らせないと…』


『そう…王宮……んぇっ!?城!?あのお城に住んでるのっ!?待って待って待ってっ!?それってま、まさか…』


(やはりこの姿だと気づかれにくいか…)


そう思い、リィールは自分の身分を名乗った。


『…俺はこの国の第三の継承者であるリィールだ』


『第三王子?三人目の…王子様?えぇーまたまたぁー!だってこの国には…』


サイラは信じられなかった。

以前聞いていた話とは違かったのだから。


(ん?何を言っているんだ?)


リィールは首を傾げた。


『いや本当だ。サイラも先程目に入ったと思うが…ここに証がちゃんとある』

と言って王子は臀部を見せようとした。


『えっ!?いやっ!!ちょっと待って!』


(そんなものあったかな?いやでも、ここはちゃんと確かめないと…本当に三番目の王子がいるなら…あぁでも心の準備が…)


サイラは手で顔を覆いながら恐る恐るその証を見た。 


(何かの紋様かな…見たところで私この国のこと知らないからよくわからな…)


その瞬間、家のドアが突然開いた。

ルイクだ。


『ごごごごめんなさい!お取り込み中だったよね!』


顔が真っ赤になったルイクはそう言って扉を閉めた。

すぐさまサイラが扉を開けて弁明した。

動揺しすぎて口調が混乱している。


『ち、違うの!この人、怪我をしてたらしくて…そう!薬!薬をね!塗ってあげてたの!』


すると、少し落ち着いたルイクが聞いてきた。


『そ…うなんだ…あのお兄さんは誰?』


『え?ん?あぁ…王子様?なぁんて…へへ』


サイラは冗談のつもりで言ったのだが、ルイクは真面目に聞いてきた。


『えっ!?じゃあ身体のどこかにこの国の紋様とかあったの!?』


『何でそれを!?』


『ん?だって有名な話だよね?この国の人達なら皆知ってるよ?あ!おばあちゃん!また忘れちゃったんでしょうぉ?最近物忘れが多いねぇ?』


『あ…そ、そうなんだよ。すまないねぇ!そうだったそうだった!ちなみにその模様って鳥のようなやつだったかな?』

『そうだよ!鳥が羽ばたいている絵!あ、これ!』


ルイクが見つけたそれは、リィールが赤子の姿で包まれていたお包みだった。

そこについていたマークは、まさに先程の臀部にか書かれていたものと同じものだったのだ。


『でもこんな所に王子様なんているわけないっかー。あっ!これ!今日の夕方にでも食べてってお母さんが!僕、この後お父さん達と街の方へ行くからまたね!』


そう言って、ルイクはすぐに家へと戻って行った。


ルイクを見送るサイラ。

思考をぐるぐると走らせながら、後ろを振り向けずにいた。


すると、耳元で美しい声が聞こえた。


『これで証明できたかな?』


サイラは驚き後退りした。

とりあえず家の中で状況をもう一度整理しようとした。


『この身体に記された証は王族か、その妻になるものにしか見せられない…状況が状況であったので今回は其方に見せたというわけだが…其方は既に将来を添い遂げた者がいるのでは?』


(え?この人まさか従順にその決まり事を守ろうとしているのか?)


『あ、いえいえいえ!先程見たものは決して口外致しません!それに…わたくし目は…その…』


サイラが口籠もると、リィールはその美しい眼を向けて優しく微笑んだ。


『ん?何だ?申してみよ』


(どうしよう…言うべきか黙っとくか…でも証拠もあるし…)


そう思い、サイラは意を決して言おうとしたその時。


『あのっ…ぼごっご…』


『し…静かに…』


その大きな手がサイラの口を覆ったのだ。

二人はしゃがんで窓の外をそっと見た。

馬に乗った衛兵らしき集団が足早に通り過ぎていった。

それを見届けると、リィールはその手を緩めて言った。


『行ったか…』


『あの方達は…?確かこの間もこの村に来てました。ある物を探しているとか?確か…短け…』


『あぁ、俺だな…』


(ん?俺?短剣じゃなかったっけ?あれ?本当に認知症かな?)


そう思ったサイラだが、リィールの言葉に耳を傾けた。


『赤ん坊になった俺を世間に知られたくない…と表向きには言ってるが、本来は事故死か何かで俺を暗殺しようと目論んでいる。この間の爆発が良い例だ』


『あ、暗殺!!?誰が!?そんな残酷なこと!あんな可愛い赤ちゃんを!』


『可愛い…?それはまだわからないが、おそらく……ところで、先程何か言おうとしなかったか?』


リィールは一瞬何か考えるようにしたが、話を戻した。


『それは…とりあえず後でまたお話しします!それと…今までのご無礼をお許しください。殿下とは知らず…あ、いえ、この歳で記憶が乏しくなってきている所存で…』


『それは構わん。気にするな。助けてもらった恩の方がずっと強い。それと今回の事は他言無用で頼む。其方にも迷惑をかけるかもしれんのでな』


リィールは優しい微笑みをかける。


『ありがたきお言葉痛み入ります。もちろんでございます。リィール殿下!この場所を知らせてお迎えを呼びましょう!どうすれば…』


サイラが真っ直ぐに眼を向けてそう言うと、リィールも真剣に応えた。


『そうだな。方法はある。そのためには、其方の協力が必要なのだが…』


『はい!何なりと!それではわたくしは一体何をすればよろしいでしょうか?』


『イノにこの場所をどうにか知らせたいのだが…』


『イノ?』


『あぁ…俺の従者でな…あの爆発の時に途中で逸れた。街外れに小さな食堂を営んでいる店がある。そこの店主であるヤグリというものにこれを届けてくれないか?』


『これを…ですか?』


それはリィールの臀部に描かれていた紋様が記されているお包みだった。


『わかりました。他に何か事付けはなどはございますか?』


『ない。あ、いや…ロキアをよこして欲しいと伝えてくれ』


『わかりました。ロキアさんですね!』


『あ、あぁ。よろしく頼む』


そうして、サイラはその布を持って、街外れにある食堂へと向かった。

ここまで読んで頂きありがとうございました。

何かお気付きの点がございましたら、コメントの方でよろしくお願いします。

他にも短編や長編作品(毎日更新)しておりますので、そちらも宜しかったら読んでいただけると幸いです。

大変恐縮ですが、評価等をして頂けると嬉しいです。

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