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05-07 王道隆     

「まさか、アンタみてぇのからお呼ばれするなんてよ! 俺様も捨てたもんじゃねぇな!」

 がははと笑い、隣の副官の肩をばしばし叩く王道隆おうどうりゅう。副官もおんなじように乗っちゃきたが、いかんせんその顔つきゃぎこちねェ。

 っが、そいつにゃ気付かねェフリをする。

「おう、話にゃ聞いてんぜ。うちゃ略奪ご法度、お前にさんにゃちいと息苦しいかもしんねえがよ。期待してっからな」

 寄奴きどがそう返すと、ほんのわずかな間じゃあったが、王道隆、何言われてんのかよくわかんねェ、みてェなツラになった。

 っが、すぐに笑顔になる。

「ま、堅っ苦しいこたいいやな。任しときな、五斗米道クソども、ごまんとブチ殺してやっからよ」

「ああ」

 寄奴ァ王道隆にいくらかの銭を包んで渡す。重さを確かめてホクホク顔になると、副官の首根っこを踏んづかまえて「やったろうぜ、なぁ!」って言いながら、持ち場に引き返してく。

 そこに、孫季高そんきこうが近付きすぎねェで、けど奴らを見失わねェようにくっついてった。

「ものは使いよう、ってか」

 寄奴の斜め後ろ、ちょい高けェとこから割れ鐘みてェな声が降ってきた。

 孟龍符もうりゅうふだ。

 振り返んねェまんまで、寄奴ァ言う。

「手筈はいいな? 機を逃しちまっや元も子もねえからな」

「あいよ、ってまぁそんなん、どうせ丘進きゅうしんがうまいことやんだろ」

「そう願うぜ」

 寄奴ァ馬に乗ると、あてがわれた千からの兵に向け、進発を命令した。


 さきの会稽かいけい襲撃からすりゃ、一年とすこし。

 撃退できたからったって、五斗米道ごとべいどうどもを弱らせたわけじゃあ、ねェ。むしろ奴らァ、晋軍に負けたのを肥やしにして、より手の込んだ戦いを挑んできやがった。

 迎え撃つべきゃ、劉牢之りゅうろうし将軍に会稽を任された謝琰しゃえん将軍……だったが、ご本人が何せ、手下どもをまるで顧みようとしねェ。なんでその性分をまんまと突かれて、部下に殺された。

 なんだかんだで、あのひとも凡将のたぐいじゃなかった、たァ思う。っが、足元がおろそかになりすぎちまってた。

 大将がいなくなっちまった会稽ァ、あっちゅう間に奴らの手に落ちた。そんで奴らァ、会稽を足がかりに、あちこちの村々を攻め落として回った。

 呉興ごこうも、そんな町の一つだ。

 うっすらとした朝もやの向こうで、死んじまったみてェに静まり返る町を見る。

「道隆、お前は正面から行け。丘進、龍符、長民ちょうみんで逃げ道を塞ぐ。なんなら、お前らだけで終わらしてくれても構わねえ」

「任せとけよ、将軍どの」

 王道隆ァ、拱手もしようたァしねェ。

 いちおう寄奴のこた立てちゃいるが、ふるまいからして、すぐにでも寄奴を抜かそう、アゴで使ったろう、って思ってたんだろう。

 実際ンとこ、奴と、その手下どもァけっこうな手練じゃあった。つっても、そいつァ訓練で身につけてったもんじゃねェ。実戦のなかで、王道隆がエサとムチとで、叩き上げてったシロモン。やらなきゃやられる――ただし、やられんなァ王道隆に、だが。

「龍符の下につければ面白そうだな」

 飛び出してく王道隆隊を見送りながら、虞丘進ぐきゅうしんが言った。

「いるかもだぜ、目端効くやつも」

「そう願いたいものだ」

 言い残して、虞丘進ァ王道隆の後ろにつけた。

 そいつを見届けてから、寄奴ァ残った奴らに向き直る。

「っし、気張れよお前ら! あいつらを、盛大に出迎えんぞ!」

 それこそ盛大に、おう、って声が上がった。


 新顔組み込んで、いきなしまともな連携なんざ取れるわきゃねェ。だから王道隆をつっぱしらせて、やつが作ったほつれを、虞丘進が孟龍符、諸葛長民に号令出して、縫い合わす。そいつが呉興攻めの見立て。言うなりゃ奴のことも、敵として見てたわけだ。

 呉興の様子が見えやすくなるよう、寄奴ァ突貫で組ませた櫓に登る。杖代わりにしてんなァ、寄奴向けにこしらえさせた長刀。

 半端なデカさの刀じゃ、寄奴ァすぐにブチ折っちまう。だから寄奴ァ、これまでずっと戦場に転がってる得物でも戦えるようにしてきた。っが、将軍さまにまでなってんのに、いつまでもそんなみみっちいことしてるわけにもいかねェ。なんで、そう簡単にゃ折れねェ得物をあつらえてもらったんだ。

 お日さんが南にかかる頃にゃ、おおよその片がついた。やや沈んだツラの虞丘進、その後ろに、ほくほくヅラの王道隆が続く。

「おう、将軍! わりぃな、少し逃しちまった!」

 言うほど悪びれちゃねェ。むしろ食い足んねェ、ってツラしてやがる。

 虞丘進が、櫓のふもとで兜を脱ぐ。

「済まん、劉裕りゅうゆう。奴の武、いささか見誤っていた」

 言うと、虞丘進ァうつむく。

「そうか」

 顔にゃあ出さねェ。そんかし寄奴ァ、いちど拳を握る。爪が肌を食い破って、血がにじみ出ちまうくれェに、強く。

「もともと無茶だったんだ、誰も殺させんな、なんてよ。お前が背負うな。責めは、己が負う」

 寄奴ァ激しねェようにしながら、虞丘進に言った。いくぶんふ抜けた拱手のあと、虞丘進も撤収する。

「……さて」

 寄奴ァいちど、長刀をきつく握る。

 孫季高から、木片が飛んできた。

 刻まれた符号を読み解きゃ、呉興の人口と、たったいま「王道隆に」殺されたやつの数が現れる。五、六千の民のうち、十人と、少し。「そんだけで済んだ」って言っちまうのは簡単だ。が、そこに甘えりゃ、鈍っちまいかねねェ。戦えねェ奴らを守りきれなかった、その、痛みに対して。

 孟龍符、諸葛長民が、おんなじくれェで戻ってきた。長民ァむしろ感心したみてェなそぶりで言う。

「王道隆、ありゃ強ええな。調子づかしたら面倒くせえぞ」

 そんだけを言い捨てると、さっさと割り当てられてた天幕に戻ってった。

 言葉を聞き、受け止め、噛み砕く。

 それから、大きく息を吐く。

「龍符、丘進に伝えろ。気にゃあ病むな、そんかし、調べ上げろ。己らが、どいつを守りきれなかったか」

 孟龍符ァ返事の代わりに、口元を捻じ曲げた。拱手のあと、虞丘進の天幕に向かう。

 そいつを見送ってから、寄奴ァ改めて命令を下す。

「全軍に伝えろ。戦ってな、初戦次第で勢いが違ってくる。なら呉興の民にとっても、俺らにとっても、この勝ちを軽んじるわけにゃいかねえ。臨時の褒賞を出すから、一息つき次第、本営前に集まれ、と」

 寄奴ァ、いちど歯噛みした――この上なく、強く。

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