第五話 知った事かっ!
第五話 知った事かっ!
鼠谷達は、地下に在る牢屋へ入牢させられてから、雑魚寝をして居た。
「やれやれ。特異点を見付ける前に、俺達が、ヤバいじゃないか」と、豚崎が、ぼやいた。
「その前に、黄兎の奴が、来てくれるさ」と、鼠谷は、落ち着き払って言った。黄兎が、“時間跳躍”で、来てくれると思っているからだ。
「当てになるんですかねぇ?」と、比手元が、溜め息を吐いた。
「そうだぜ。“ラノベ”みたいに、意のままに来てくれるとは、限らないんだぜ」と、豚崎も、補足した。
「確かに、そうだが。ゲロッピーが、“時間干渉”して、ひょっこり、送り込んで来るんじゃないのか?」と、鼠谷は、しれっと言った。手頃な時間に、寄越してくれると思っているからだ。
「やれやれ。いつ頃、現れてくれるのやら…」と、豚崎が、ぶっきらぼうに、ぼやいた。
「豚崎先輩。そんなに腐らないで下さい」と、比手元が、宥めた。
「ところで、今、何時だよ?」と、豚崎が、尋ねた。
「スマホが有りませんので、何とも…」と、比手元が、口籠った。
「ちっ! 仕事を忘れようと思って、ホテルのロッカーに置いて来たのは、失敗だったな」と、豚崎が、渋い顔をした。
「仕方無いだろう。こんな事になるとは、思って居なかったんだからな」と、鼠谷は、落ち着き払って言った。そして、「“休暇を楽しむんだ”って、お前が、真っ先に、ロッカーへ入れていただろ?」と、指摘した。こういう事になるとは、“想定外”なので、自分も、豚崎の考えに乗っかった口だからだ。
「でも、八〇年前ですと、スマホの時間も、当てにならないでしょうね」と、比手元が、溜め息を吐いた。
「確かに、八〇年前だと、スマホの電波は、飛んで居ないだろうな。それに、電波も、“アナログ”だろうから、内臓機能以外は、使い物にならないだろうな」と、鼠谷も、同調した。発信基地自体が、存在して居ないからだ。
「ちっ! この時代では、俺達は、“無力”なんだな…」と、豚崎が、嘆いた。
「そうだな」と、鼠谷も、相槌を打った。何も出来ない事を、痛感させられたからだ。
「先輩達。そんなに、悲観しないで下さいよ。余計に、惨めな気持ちになっちゃいますよ…」と、比手元が、しんみりとなった。
そこへ、不規則な足音が、近付いている事に、気が付いた。
その瞬間、「一先ず、“寝た振り”をしよう」と、鼠谷は、促した。何者か判らないので、やり過ごそうと思ったからだ。
間も無く、足音が、近くで聞こえなくなるなり、「うぃ〜。さあて、どいつから、聴取しようかなぁ〜?」と、典然の嫌らしい声がして来た。そして、「豚野郎! でてこいやあ!」と、怒鳴った。
豚崎が、寝た振りをして、無視をした。
「おい! そこの鼠みたいな前歯の奴! 豚野郎を、起こしやがれ!」と、典然が、指図した。
鼠谷も、同様に、反応しなかった。豚崎を売るような真似はしたくないからだ。
「ちっ! 生意気に、お寝んねかよ! 数日前の“敵国”被れの子供共は、軽く殴っただけで、逝っちまったからなぁ〜」と、典然が、ぼやいた。
「い、イカれてるぜ…」と、豚崎が、震える声で、呟いた。
「ん? 何か、話し声がしたぞ!」と、典然が、口にした。そして、まさか、“狸寝入り”をしているんじゃないだろうな?」と、訝しがった。
間も無く、鉄格子の扉の施錠の外れる音がした。
その瞬間、豚崎が起きるなり、「俺だって、大人しく殺られる気なんて無いぞ!」と、立ち上がった。
少し後れて、「豚崎、未来が変わっちまうかも知れないぞ!」と、鼠谷も、飛び起きた。過去の時代なら、豚崎の行動次第で、自分達の時代に、何かしらの影響が、出るかも知れないからだ。
「やはり、お前ら、寝た振りをして居たか! 連帯責任で、全員、鉄拳制裁の刑だな」と、典然が、満面の笑みを浮かべた。
「そんな、足元がふらついて居るってのに、やれんのかよっ!」と、豚崎が、挑発した。
「やってやらあっ!!」と、典然が、激昂した。そして、「一発で、仕留めてやるぜ!」と、右の拳を繰り出した。
「殺られてたまるか!」と、豚崎も、右肩から突進した。
間も無く、両者が激突した。
程無くして、ま「うわっ!」と、典然が、跳ね返されて、牢屋の外へ、後ろ向きに、転がり出た。
「どうだ!」と、豚崎が、気を吐いた。
そこへ、「僕の出番は、無かったですね…」と、黄兎が、苦笑した。
「いや。来てくれただけでも、助かるぜ」と、鼠谷は、口にした。安否確認が、出来るからだ。そして、「典然が、起きない内に、外へ出よう」と、提言した。気が付かれると、面倒臭いからだ。
「豚崎先輩、流石ですね」と、比手元が、称賛した。
「へ、俺の体当たりは、“へなちょこパンチ”になんて、負けないからな」と、豚崎が、誇らしげに言った。
「まあ、お前の“十八番”だからな」と、鼠谷も、口添えした。豚崎の体当たりは、典然の体格では、止められないからだ。そして、「俺達の時代に、影響が出なければ良いんだがな…」と、表情を曇らせた。これが、“特異点”の“引き金”になるかも知れないからだ。
「知るかよっ! 俺は、黙って殴られるのが、嫌だったんだよ!」と、豚崎が、鼻息を荒くした。
「そうだな。やっちまった事は、仕方が無い。これ以上、ここに居ても、騒動に巻き込まれるだけだからな」と、鼠谷は、溜め息を吐いた。やってしまった事を、受け入れるだけだからだ。
「早く、逃げちゃいましょう。誰かが、来る前に!」と、比手元が、急かした。
「でも、何処へ行くんだい? この時代では、僕達は、目立つんだろう?」と、黄兎が、指摘した。
「確かに。何処へ向かえば良いのかは、聞いていないな」と、鼠谷も、頷いた。時間を跳躍しただけで、場所は、移動していないからだ。
「ゲロッピーさんに相談して、一度、元の時代へ帰らせて貰えるように、頼めば良いんじゃないかなあ」と、比手元が、提案した。
「そうだな。ピテにしては、気が利いているじゃないか!」と、豚崎が、称えた。
「よし。一先ず、人目に付かない場所へ移動しよう」と、鼠谷は、口にした。典然や模罹田を、時間跳躍に、巻き込み兼ねないからだ。
「確かに、こいつらに見られると、余計に面倒臭くなりそうだしな」と、豚崎も、憮然とした表情で、同調した。
「ですね」と、比手元も、相槌を打った。
「兎の隠れて居た繁みなら、目立たないし、この建物からも、かなり離れているから、問題無いだろう」と、鼠谷は、考えを述べた。場所的に、条件が良いからだ。
「上から、誰かが、下りているよ!」と、黄兎が、両耳を立てた。
「おい、何も聞こえないぜ?」と、豚崎が、訝しがった。
「もう一回、寝た振りでもして、誤魔化しますか?」と、比手元が、提言した。
「難しいだろうな」と、鼠谷は、難色を示した。次も、旨く行くという保証は無いからだ。
「何だったら、俺が、もう一丁、体当たりを食らわせてやろうか?」と、豚崎が、満面の笑みで、申し出た。
「典然みたいに酔って居れば、賛成だが、多分、撃って来るんじゃないのか?」と、鼠谷は、冴えない表情をした。容赦無く、発砲して来ると、考えられるからだ。
「確かに、“スパイ容疑”が、懸けられているから、間違い無く撃って来るだろうな」と、豚崎も、聞き入れた。
「今なら、まだ、外へ出られます! 急ぎましょう!」と、黄兎が、告げた。
「よし! 急ごう!」と、鼠谷も、頷いた。そして、駆け出すのだった。




