表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鼠谷健一郎の並行世界な話  作者: しろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/2

プロローグ、蛸顔の兎

プロローグ、蛸顔の兎


 門歯がちょろりと突き出した男と肥満体の男と原始人(ピテクス)顔の若い男は、瀬戸内海に浮かぶ大久野島へ、年休を消化する為、兎達との触れ合いに来て居た。

「先輩達、兎さん達のお出迎えですよ!」と、原始人顔の若い男が、はしゃぎながら、目を細めた。

「餌を貰えると思って、来て居るんだろ?」と、肥満体の男が、素っ気無く言った。

「かもな」と、門歯がちょろりと突き出た男も、相槌を打った。兎達が、見ず知らずの者に近付くと言えば、餌が見え見えだからだ。

「先輩達ぃ〜。そんな、夢の無い事を言わないで下さいよぉ」と、原始人顔の若い男が、口を尖らせた。

「確かに。どう思おうと、お前の自由だもんな。すまなかったな」と、前歯がちょろりと突き出た男は、詫びた。気分を害させるつもりは、無かったからだ。

「でも、ここって、“毒ガス研究所”だったんだろ?」と、肥満体の男が、顔を顰めた。

「そうらしいな」と、前歯がちょろりと突き出た男も、頷いた。大久野島の歴史には、興味が無かったからだ。

「ぼ、僕は、初耳ですよ! でも、兎さんを駆除する為に、飼育(しいく)していたんでしょうかねぇ〜」と、原始人顔の若い男が、小首を傾いだ。

「まるで、“ゴキブリ”みたいな物言いだな」と、肥満体の男が、ぼやいた。

「おいおい。戦時中に、兎を飼ってまで、駆除剤の実験でもすると思うか?」と、前歯がちょろりと突き出た男は、溜め息を吐いた。毒ガス研究所で、しかも、戦時中に、兎の駆除用の毒薬を、開発している訳が無いからだ。

「でも、鼠谷(ねずみだに)先輩。これだけ沢山(たくさん)の兎さんが居るんですよ! 他に、考えられないじゃないですか!」と、原始人顔の若い男が、異を唱えた。鼠谷。比手元(ぴてもと)の頭じゃあ、多分、他の発想は無いと思うぜ」と、肥満体の男が、が、溜め息混じりに言った。

「確かに、兎の駆除までが、関の山だろうな」と、鼠谷も、同調した。額面通りに見れば、兎を駆除する為の駆除剤の施設跡と思っても、不思議じゃないからだ。

「この兎さん達は、駆除を免れた子孫なのでしょうね」と、比手元が、思いを馳せた。

「比手元。半分は、正解だが、半分は、間違いだ」と、鼠谷は、訂正した。そして、「毒ガス用の実験用の兎だろうぜ」と、口にした。毒ガスの効果を試す為に、連れて来られたのだと考えられるからだ。

「鼠谷先輩。兎さんに、毒ガスを吸わせて、効き目を見る実験なんですよね?」と、比手元が、小首を傾いだ。

「そうだ。人間が、どれだけ、“速くくたばる”かのな」と、鼠谷は、冷ややかに、回答した。本土決戦を想定していて、この島で、秘密裏に、毒ガス実験をしていると推察したからだ。

「だってよ!」と、肥満体の男が、相槌を打った。

「豚崎先輩も、本当のところは、分かって居なかったんじゃないんですか?」と、比手元が、半笑いで、指摘した。

「う、うるせえ!」と、豚崎が、怒鳴った。

「その様子ですと、知らなかったみたいですねぇ~」と、比手元が、からかった。

「このお!」と、豚崎が、激昂した。

「二人共、兎達が、びっくりして居るぞ!」と、鼠谷は、注意した。二人の険悪な雰囲気を察知して、兎達が、距離を取って居るのを、視認したからだ。

「しかし、鼠谷。お前、どうして、毒ガス研究所の跡地だなんて、知っているなぁ〜」と、豚崎が、感心した。

「前に、テレビで、観た事が在ったんだよ」と、鼠谷は、口にした。何年か前に、民放の旅番組で、放送していたのを覚えていたからだ。

「でも、毒ガス研究所の跡地でしたら、まだ、毒ガスが、残っているんじゃありませんか?」と、比手元が、顔を顰めた。

「ヤバかったら、立ち入り禁止区域になっているだろう。だったら、“原爆ドーム”周辺は、未だに、立ち入り禁止だぞ!」と、豚崎が、指摘した。

「確かにな。まあ、兎が住めるのだから、毒ガスが無いと証明されているようなもんだろう」と、鼠谷は、あっけらかんと言った。

「比手元、ビビってんのか? これだけ、兎さん達が、跳ね回って居るのにな」と、豚崎が、冷やかした。

「ははは…。そんな、まさかぁ〜」と、比手元が、あからさまに、虚勢を張った。

「豚崎。跡地だからって、まだ、毒ガスが、無くなったとは限らないぜ。まだ、地中の何処かに、埋まっているのかも知れないからな」と、鼠谷は、可能性を述べた。未だに発見されていない未使用の毒ガスが、残っている可能性も、有り得るからだ。

「鼠谷、嫌な事を言うなよ。毒ガスが気になって、楽しめなくなったじゃねぇかよ!」と、豚崎が、表情を曇らせた。

「すまん、すまん。脅すつもりは、無かったんだ」と、鼠谷は、詫びた。嫌な気分にさせる気など、更々無いからだ。

「鼠谷先輩は、悪くないですよ。豚崎先輩が、見下すような事を言うから、嫌な気分になったのですよ」と、比手元が、転嫁した。

「俺の所為にするな!」と、豚崎が、突っ撥ねた。

「お前らなぁ〜」と、鼠谷は、呆れ顔をした。くだらないからだ。

 突然、「何だ? この不細工な兎はよ!」と、若者のからかう声がした。

「兎というよりは、“蛸顔”しているぜ!」と、別の男子の声がした。

「近寄るんじゃねえ!」と、若者が、怒鳴った。

 程無くして、鼠谷達の前へ、一羽の黄ばんだ兎が、飛来した。そして、着地をしたままで、四肢を、小刻みに震わせて居た。

(ひど)い事をするなぁ〜」と、鼠谷、飛来した先を見やった。次の瞬間、数名の茶色い学生服の男子生徒が、視界に入った。

「すいませぇ〜ん! 気色悪い物体が、当たりませんでしたかぁ〜?」と、背の高いボサボサ頭の男子生徒が、悪怯れる風も無く、口にした。

「君が、この兎を、飛ばして来たのか?」と、鼠谷は、問い掛けた。一応、確認をしておきたいからだ。

「ええ。何となく、蹴飛ばしたくなったんで、蹴っちゃいましたぁ〜」と、ボサボサ頭の男子生徒が、半笑いで、あっけらかんと言った。

「何となくじゃないだろう。心が痛まないのか?」と、鼠谷は、不快感を露わにした。何となくで蹴られては、兎としても、堪ったものではないだろうからだ。

「おっさん、そんなに怒んなよ。俺は、軽く蹴っただけだぜ。そうしたら、そいつが、思ったよりも、飛んだだけだぜ」と、ボサボサ頭の男子生徒が、自己弁護をした。そして、「行こうぜ」と、仲間達に促した。

 程無くして、学生の集団が、立ち去った。

「どういう教育を受けているんだ!」と、豚崎が、腹を立てた。

「そうですね。この兎は、もう、駄目かも知れませんね」と、比手元も、顔を顰めた。

「そうだな。内臓が、破裂しているかも知れないな。黒い血を…って! おい!」と、鼠谷は、目を見張った。兎の血も、一応、赤い筈だからだ。

「まさか、“突然変異”って事は、無いだろうな?」と、豚崎も、表情を強張らせた。

「ちょっと、気味が悪いですねぇ。毒ガスの影響を受けた“毒兎”とか…?」と、比手元も、声を震わせた。

 その直後、「やれやれ。まさか、蹴飛ばされるとは、思わなかったよ…」と、黄兎が、喋った。そして、「何事も無かったかのように、起き上がった。

 鼠谷達は、顔を見合わせた。目の前の出来事が、信じられないからだ。

「君達、何を驚いて居るんだい?」と、黄兎が、振り返った。

 その瞬間、「鼠谷先輩。どうやら、“突然変異”みたいですよ!」と、比手元が、口にした。

「確かに、“突然変異”で、蛸みたいな顔になったのだろうな」と、鼠谷も、同調した。異形の顔になるには、毒ガスも、一役買っていると思われるからだ。

「こんな気味の悪い奴と絡んで居たら、碌な事にならんから、離れようぜ」と、豚崎が、提言した。

「確かに!」と、二人は、即答した。豚崎と、同意見だからだ。

「ちょっと待て!」と、黄兎が、呼び止めた。そして、「兎を差別するのかっ! 憲法一四条の“基本的生物の平等”に、違反する事になるぞ!」と、怒鳴った。

「は? 何処の国の憲法だ? “基本的人権”なら、知っているがな!」と、豚崎も、凄んだ。

「何か、ズレて居ますねぇ」と、比手元が、眉間に皺を寄せた。

「そうだな。まるで、“異世界”の入口に来た感じだな」と、鼠谷も、同調した。何だか、調子が狂うからだ。

「何だ? このラノベ的な展開は⁉」と、豚崎が、周囲を見回しながら、口にした。

「何だい? その“ラノベ”って?」と、黄兎が、小首を傾いだ。

「若者が読む、“小説”だよ」と、比手元が、口を挟んだ。

「小説? 何かしらの“読み物”かい?」と、黄兎が、眉間に皺を寄せた。

「そうだね。俺は、読まないけど、色んな種類(ジャンル)の話が在るそうなんだよ」と、鼠谷は、冴えない表情で、説明した。自分の知っているのは、これだけだからだ。

「単行巻って事かな?」と、黄兎が、口にした。

「単行本じゃないのか?」と、豚崎が、指摘した。

「本? 何だい? それは?」と、黄兎が、表情を曇らせた。

「現物が無いから、難しいな」と、豚崎が、顔を顰めた。

「豚崎先輩。呼び方が、違うのかも知れませんよ」と、比手元が、したり顔で、告げた。

「そうだな。同じ物でも、別の呼び方が在るもんな」と、豚崎も、理解を示した。

「そうだ! 僕、単行巻を持って居るんだった!」と、黄兎が、あっけらかんと言った。そして、何処からともなく、巻き物を出現させた。

「巻き物の事を言っているみたいだな」と、豚崎が、呆気に取られた。

「僕らとは違う媒体(ばいたい)なのですね」と、比手元も、見解を述べた。

「だな」と、鼠谷も、頷いた。まさか、巻き物が、読書の主流とは、思って居なかったからだ。

「どうやら、君達の呼ぶ“本”とは、別物みたいだねぇ」と、黄兎が、察した。

「そうだな」と、鼠谷も、相槌を打った。確かに、媒体が、別物だからだ。

「で、どんな作品を読んでいるんだ?」と、豚崎が、好奇の眼差しで、問うた。

「僕も、興味が在りますねぇ」と、比手元も、眼差しを向けた。

「そうだねぇ。黄河物かな?」と、黄兎が、得意顔で、告げた。

「黄賀物って、忍者のやつか?」と、豚崎が、口にした。

「忍者物ですか! 面白そうですねぇ!」と、比手元が、食い付いた。

「いいや。違うよ」と、黄兎が、淡々と否定した。そして、「何か、勘違いしているみたいだね」と、溜め息を吐いた。

「ひょっとして、“コウガ”ってのは、大きい川の事を指しているんじゃないのか?」と、鼠谷は、尋ねた。自分達の知るところの“大河”と同義語のような気がするからだ。

「うん。多分、気味の言っている事と同じ意味だと思うよ」と、黄兎が、頷いた。

「何だぁ〜。忍者物じゃないんだぁ〜」と、比手元が、落胆した。

「大河なら、“歴史物”だろうなぁ〜」と、豚崎も、冷めた表情で、ぼやいた。

「この二人は、何を残念がって居るんだい? “茶(だらい)合戦”を題材にした作品なんだよ!」と、黄兎が、熱っぽく語った。

「茶盥?」と、鼠谷は、眉を顰めた。何を言っているのか、さっぱりだからだ。

「ええ⁉ “段ノ浦”で在った合戦ですよ!」と、黄兎が、素っ頓狂な声を発した。

「“壇ノ浦”なら、“源平”合戦なんだけどな…」と、鼠谷は、口にした。言っている事は、何となく分かるのだが、話が噛み合わないからだ。

「どうやら、俺達は、“並行異世界(パラレル・ワールド)”に迷い込んだのかも知れないな」と、豚崎が、可能性を口にした。

「う〜ん。そっちの兎さんが、僕達の世界へ来たのかも知れませんよ」と、比手元が、逆説を述べた。

「ひょっとしたら、蹴飛ばされた時に…」と、黄兎が、言葉を詰まらせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ