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六月二十日、HR


 倉敷舞那

・クラス委員長。



 

僕の妹である黒澤花憐を見た時の反応は、概ね三種類に分けられる。

 一つは、全くの無反応。基本的にこの反応をするのは男である。それもアーベ教の教団員。もしくはちゃんとした倫理観をお持ちの大人の方々。特に前者はノーマルな僕としては余程の事があっても近づきたくない人達だ。アッーーな目には会いたくないしそんな事は考えたくもない。

 二つ目は、とてつもなく嫌な物を見るかのような目線を向ける。これは、プライドが高そうでついでに言えば金髪縦ロールをしそうな女子に見られる傾向だ。とは言え殆どの女子やノーマルな趣味を持つ男子は最後の三番目に該当するため、あまり数を見せないというのが現状。まあそんな反応をするような輩はフィクションの世界でしか見ないし、致し方ないのであろう。

 で、殆どの人が該当するであろう三つ目は――

「か……っ」

「き……っ」

「「「可愛いーーーっ!!!」」」

「「「綺麗ーーーっ!!!」」」

 ―――一瞬見とれて、その後に大反響を巻き起こす。

 今までこの反応を見た事は数あれど、これら以外の反応を示された事は殆ど無い。皆無と言ってもいいほどである。裏を返せば、それほど花憐の容姿は優れている、という事だ。

 最も小学生の頃は浮いた話なんて全く聞かなかったし、中学校はそもそも通っていなかったので、花憐は男女付き合いをした事が無い。まあ最も、花憐が男と付き合うなんてお兄ちゃんである僕が許すはずが無い。花憐は僕の宝だ。そこらの馬の骨に渡せるか。

「こらこら、少し静かに。じゃ、自己紹介をお願いします」

「は……っ、はい……今回転入して来た、黒澤、花憐です……その、三月までの短い間ですが、よろしくお願いします……」

 パチパチ、と一斉に拍手が湧き上がる。自己紹介としては十分過ぎる出来だろう。流石は花憐だ。いきなりクラス全員の心を掴むなんて、そう簡単には出来ない事を簡単に成し遂げるのは、花憐自身の人望だろう。可愛さと同時に人望まで持ち合わせているなんて、お兄ちゃんとして鼻が高い。

「正先生、質問いいですか?」

「ああ、どうぞ倉敷さん」

「じゃあお言葉に甘えてっと。ねえ黒澤さん、同じ黒澤って名字だけど、ウチのクラスの黒澤とは何か関係があるの?」

「ええっと……言い忘れてたけど花憐さんは」

「私の、義理のお兄ちゃん……です」

 クラスの男子が全員、超人的すぎる反応で一人の人間に殺気を放った。

 そんな殺意を向けられるような愚か者は誰なのかと自問してはみるが、残念なからクラスメイトの大半が僕を睨んでいるのでその愚か者は僕なのだろう。おかしいな、何もおかしな事はしていない筈なのだが。

「……へぇ……ちなみに、お兄ちゃんとはどういう関係?」

「……ただの、仲が良い兄妹です……今は、まだ……」

 クラスメイトの殺気の圧力が、先程と比べて五割増した。

 ここまで強い殺意だと、実体化して刃に変わるのではないだろうか。そんな殺気を見てみたいとは思うが、残念ながらそうなった場合死ぬのはこの僕になる。物の試しで死んでしまっては流石に笑えない。もしくは殺意の波動を纏って暴走して別キャラになるのだろうか。もしそうなった場合は、頼むから世紀末病人並みの力を持たないでくれと祈るばかりだ。流石に全員に一斉にスマイルビームを放たれてそれを回避しきる自信は、一般的な運動能力しか持たない僕には無い。

「今の話、後で良く聞かせてね。ようやく次のイベント用のネタが降りてきたわ。と、私の事実はともかく」

 ちょっと待て。人を薄い本の題材にしようとするな倉敷さん。僕と花憐をどうするつもりだ。後話を終わりそうな雰囲気だが、男子から放たれる嫉妬の刃は全く減らない。一体どうしろと言うんだ。

「先生、もういいです。ありがとうございました」

「そうですか。では他に質問のある方は。勿論倫理的に間違ったような質問はいけませんよ」

 此方に殺気を向けながら、倉敷さんの質問が終わった瞬間を待ち構えて手を上げようとしていた男子共の手が軒並み下がる。女子はもとからHR後に纏めて話を聞こうと思っているらしく、手を上げる気配はない。

「では、席は……そうですね。少しでも知っている人の方がいいですし、黒澤君の隣でいいでしょう。席もちょうど空いてることですし、ね」

 先程から収まらない殺気が、当社比さらに五割増で襲いかかる。そんなことしてていいのかお前ら。その本気っぷりに、女子が少し引いてるぞ。

「……これからよろしく、お兄ちゃん……」

「楽しそうだな、花憐」

「……そう、見える……?」

「ああ、そう見えるよ」

 なら、それはきっと正解――そう静かに呟いて、我が妹は笑顔を浮かべる。それは彼女を良く知っている僕でも容易に堕ちそうな、可憐な物であり。

「では、HRを終わります。解散」

 この殺気はこれから止む事はないのだろうと、そう確信するに至る物であった。



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