七封 赤い薔薇のアーチ。
私は指環の導きと、一羽のカラスと共に「お館」を目指していた。不安、というのは自然となく。いや、全くないといえば嘘になる。けれども、今まで普通に家族と過ごし、友達と遊び、なに不自由なく幸せに日常を暮らしてきた私が、今この瞬間、普通ではない道を歩み、非日常に向かっている。そう思うと心の底から沸き立つ好奇心と興奮が、不安や戸惑いや後ろめたい気持ちを覆いつくしてしまうのだ。この感情は、もう止まることを知らない。もはや止めようともしない。
学校の方向に歩き、だれともすれ違わず、あるのは静寂に包まれた世界と、ただ一つだけ。見慣れた通学路を歩き、見慣れた学校を通り過ぎても、導きは消えることなく漂っていた。何も思わず、何も口にせず、ただしばらく歩き続ける。段々と建物がなくなり、明かりもなくなり、自分の足音だけが耳を通り過ぎ嫌になってきたとき、目の前が森なのに気が付いた。黙々と歩いているうちに、どうやら町の外れの森の前まで来ていたらしい。
学校では古くから、とある噂が生徒の間でまことしやかに囁かれていたらしい。「学校のさらに奥、町の外れの森には近づいてはならない。近づけば最後、神隠しにあうから」
――なんてものはなく。というより、死者にくちなし。突然跡形もなく居なくなるのだから、そう囁かれるほどの証拠がないのだろう。そんな噂はないけれど、熊が出るだとか、イノシシ、蛇がでるとかで近づくな。とは言われていたような。
だが夜中なのも相まって、背の高い木々に見下ろされているこの状況は凄く不気味だった。風が靡くたびに鳴り響くそれはもう地獄の呻き声のようで、先の見えない足場の不安定な道は、地獄への一本道であった。
「ライトも持ってきてよかった」そう軽く安堵したあと虫よけスプレーを念のため身体にふって、足元に気を付けながら、深淵へと足を動かした。
イノシシや熊に遭遇したらどうしようと心配だったが、数十分歩いてみても出てくるどころか、木々の揺れる音や木の枝が折れる音以外に、なにも聞こえなかった。スマホもチラチラ見てはいるが、まだ圏外になる様子はない。肩のカラスのこいつはというと、よほど暇だったのか、寝ている。てっきりカラスも導きと一緒に案内してくれるんだと思っていたが、見当はずれの考えだったみたいだ。呆れ果てながらも左右前後の分からない道を進んでいるうちに、目の前の草木がさっきとは違う雰囲気を放っているのを感じた。それは感覚的なものもあるけれど、赤い薔薇のアーチが高くあり、もっと深い深淵に誘うかのように待ち構えていたのだ。
もう戻ることは許されないのだと。足をすくませていた時、ちょうどカラスが起きた。かと思えば、アーチ手前の木の枝に乗って、深々と頭を下げて見せた。
それはまるで「此処までよく来られました。貴女のご到着を、心待ちにしていました」と言わんばかりの、敬愛に満ちたお辞儀で、先程までの姿は何だったのかと目を疑いたくなった。
でもここまで来たんだ。正直怖いし不安だけど、今更ノウノウと帰るなんて、出来




