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手紙と魔女と御茶会と  作者: 野花 智
第一幕 最愛の貴方へ。
7/19

六封 少し、冒険気分で。

 二度目の手紙のことは友達には言わなかった。二度目ともなれば、本当に心配されること間違いない。それだけは避けたい。授業中は気が気じゃなく……。なんてことはなく、家に帰ったら読もう、という軽い気持ちだった。二度目で慣れるのは早いが、今気にしたって仕方がない、ので授業は真面目に受けて、家に帰った。家について、ご飯とお風呂を済まして、やることをやって。

 

 いざ開ける。――中には指輪と、手紙。前回と全く一緒。肝心な内容と言えば……。

 

 ――ごきげんよう、親愛なる美しいお嬢さん。手紙、ちゃんと読んでいただけて何よりだわ。それにお返事のお言葉まで綴られていて……。とても嬉しかったですわ。ですけれどね、なんで断るんです!? 我がお館に歓迎するのでしてよ!? これまでにない絶好の機会なんでしてよ!? お友達にも自慢できますわ!! ――してもらっては困りますけれど。わたくしの愛しいお嬢さんを独占できなくなるのは、少々困りますもの。ですが、断ってもいいとは言いましたけれど、本当に断るなんて思ってもいませんでしたわ。建前でしてよ建前。わたくしもいささか心に来るものがありましてよ……。それはそうとして、もう一度、チャンスを差し上げますわ。また指環を入れてあります。ハロウィンの夜になったらそれを指におはめなさいな。勿論断ってもらっても構いませんが……。一度、導きに身をゆだねて、お館の一歩手前まで来てみてはいかが? 一目だけでも、ご覧になられてみてほしいわ。すぐ近くまで来てくれるだけでいいんですの。一つ、貴方の親愛なる者の頼みだと思って、聞いてはくださらない? 来る方法は前回の手紙と一緒ですわ。それでは、貴方の姿がお見えになるのを心より、心よりお待ちしておりますわ。――貴方の最愛なる○○より。

 

 前回より、圧と距離の近さを感じる。これは遠巻きに来いと言われているのだろうか。人違い覚悟でお返事も書いたけれど、この様子だとそれは無いのだと分かった。――ここは行くべきなんだろうか。いや、行かなきゃ後が怖い。

 まだ一週間の猶予があるとはいえ、相手も場所もなにも分からない場所への呼び出しだ。導き? があるとはいえ。――いやはやそんなものを信じているわけではないが――色々用意をしとかないと、何がどうなるかわからない。まずは服だろうか……。

 

 その翌日私は、服や防犯ブザーや虫よけなど、必要なものから必要そうなものまで、全て買いそろえた。親へハロウィンの夜は出かけるとも伝えてある。これでばっちり。ハロウィンの夜、お館へと向かおうではないか! ――少し、冒険気分で。


 服良し、メイク良し、スマホ良し、防犯ブザー、虫よけ、ライト、その他良し。手紙に指環良し。――行こう。

 

 零時近く。寝ている家族を起こさないように、静かに玄関のドアを開け、静かに閉めた。家に背を向け歩き出そうとしたとき、指輪から白く明るい光? 煙? のようなものが私の前を漂っていた。全てが暗く染まり、私を照らすのは、玄関のライトと、数少ない街灯、後は月のみだというのに。そんなもの気にせずにゆらゆら漂うそれは、正真正銘、導きだと言えるのだろう。息をのみ、意を決して歩き出そうとしたとき。――バサバサッという音と風と共に、一羽のカラスが肩へ乗ってきた。今更わざわざ言わなくても分かるであろう、こいつが何者かぐらい。目を細めぴくぴくさせる私の顔も知らずに、このカラスは自慢の唇で毛づくろいをしていた。数秒経って満足したのか、私の顔をちらっと見た後、片翼を広げ、くちばしを上にクイっとした、早く進めだろうか。少しの苛立ちと、その通りだという納得が混同する。ペットは飼い主に似る、なんていうけれど、この子の飼い主は一体、どんなやつなんだろう。

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