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手紙と魔女と御茶会と  作者: 野花 智
第三幕 貴方を救うために。
34/36

三十封 逃げないで、向き合って。

 母の呼び声で目が覚める。夜ご飯だという声。

 帰ってきてからすぐに寝たんだろう、カーテンの隙間から差し込む光はなくなっていた。

 布団もかぶらず、身を守るは布数枚。ドアの隙間から光が差し込む、母が階段を上る音が聞こえる。ドアのノック、名前を呼ぶ声に反応をする。

 頬を伝うその雫を拭い、見て見ぬふりをした。何事も無かったかのように、平然と、自然に。



 

 其の日から感情に蓋をして、考えまいと探し物に徹した。

 

「あ。あそこなんか光ってる!」


「おわ‼」


「あはは、指環ゲット!」


「フューレン、そこの上、なんかない?」


「やるー! また一個、集まったね」


「うげ、なにこれ、気持ち悪い……」


「とりあえず、一個ゲット……」


 順調に探し物を見つけていった。ように見えたが――。



 

 「探し物、順調そうですね」


 ふと会話の流れ、せっせこお館を歩き回る私を、ずっと見ていた魔女さん。


「いやー、それが……」



 

「最後の一つが見当たらない?」


「そうなんです……庭とか、ないですよね?」最悪で信じたくない可能性を問いかける。


「いえ、それはないと思いますよ。今まで一度もなかったですし」


「そう、ですか」


 ひとまずは安心だろう。いやそれでも、もう一度広いこのお館を、一から探し回らないといけない。庭よりまし、なんてこと言ってしまえばそうだが。――これはこれで骨が折れる。



 

 ただ、私には気がかりなことがあった。



 

 それは「彼女が何も話さないこと」



 

 ここ数か月と一緒に居て、飽きるように長くお話して。

 それなのに、彼女が私の問いに答えてくれた日なんて、一日たりとも無い。

 何度聞いても、訪ねても、いつも誤魔化されてばかり。


 書庫のことを忘れたわけじゃない。考えないように、とはいえど、あんなものを忘れられるわけがなかった。

 だから彼女の口から、真相を知りたかっただけなのに。


 少しどころじゃない寂しさを覚える。私は所詮その程度なのだと、聞くたびに胸に刺さる。



 

 そして私はもう一つ、可能性を信じていた。



 

 最後の一つが――あの地下室に眠っている、ということ。

 


 

 深淵に立ち入る勇気? 度胸? 対価? そんなもの、持ち合わせていないよ。


 でも、其の日《儀式の日》は刻一刻と迫っている。立ち止まってる暇なんて、私にはないから。ましてや寂しいだなんて感情を抱いてる暇も。



 

 先に、ずっと気になっていた階段の先の扉を開けた。

 地下室があることが分かってしまった手前、ここはそんなに重要なものは置いていないだろうと、すぐ開けることが出来た。

 

 答えは掃除道具入れ。


 ――勝手に勘違いしていたのは私だけど。嘘を用意されてたみたいで、少しムカッとしてしまう私がいた。

 

 念のため少し漁ってみると、探し物リストの、最後の一つを見つけた。

 ということは、これで全部? あとはもう儀式の日を待つだけ?

 なんとも呆気ない。もう一度お館を走り回る必要もないし、庭に赴くこともない。ただ、もうこれで、あと少しで、全てことが終わってしまうことに、やっぱりやるせなさを感じる。



 

 ――いや待てよ? なんで儀式を終えたら、そこで終わりなんだ?


 儀式っていったい何。それが終わったら、魔女さんはどうなるの。なんでもう会えないって、決めつけていたんだろう。

 魔女さんがそう言ったから? だから儀式の後そうなるって、そう思っていたの?


 そこに一つ、脳裏の焼き付く、忘れたかった記憶が浮かび上がってきた。

 


 

 ――まぁその日になれば、ここに辿り着くことはおろか。()()()()()()()()()()()()()



 

 覚悟が決まったらとか、その時が来るまでとか。そんなこと言って、わざと目を背けていたんだ。



 

 予知された、()()()()から。



 

 あぁ、なんてことだ。自分にずっと嘘をついていたんだ。信じたくないから、我が身が可愛いから。そんなの嘘だ、まやかしだって。


 なんで逃げるのかな。本当に弱いな――私。

 

 知りたくないと叫ぶ自分と、知らなきゃいけないと囁く自分が、共存している。

 ここで逃げてしまえばいいのに、諦めてしまえばいいのに、なんでそれすらも出来ないのだろう。

 見て見ぬふりをすればいい、最初からこんな日々はなかったと、そう言ってしまえばいいのに。



 

「だってまだ私、貴方を助けたいって気持ち、消えてないんだもん」

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