表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手紙と魔女と御茶会と  作者: 野花 智
第三幕 貴方を救うために。
31/31

二十八封 最愛の子の救世主。

 ごきげんよう。地下室の鍵を見つけ、引き抜きし勇敢な子。――それとも、魔女を前にしながら「魔女の殺し方」なんて本を手に取ってしまった、好奇心あふれる邪悪な子かな。

 君がいつここに辿り着き、いつこの手紙を読んでいるかは分からない。ただ一つ確信して言える、それは四月三十一日ではない、ということ。まぁその日になれば、ここに辿り着くことはおろか。君、存在してないだろうから。

 おそらく君は、ここに探し物をしに来たんじゃないだろうか? それが儀式に必要なものであれ、魔女の詳細を突き止めるというものであれ。ここには君の知りたいことが全てあるだろう。

 

 ここから下は彼女、このお館に君臨せし魔女について話そう。君が知りたくないと願うなら、この手紙を読むのを辞め、必要なものを手に入れてここを去るが良い。それでも知りたいと願うなら、後はお分かりだね?

 

 さて、君がどこまで彼女から聞いたのか、何が聞きたいのか。生憎私にはわかりかねる、と言いたい所だが、残念なことに私と君は運命共同体、なんでも分かるとも。お答えしようか。

 ただあの子のことだ、あまり深く話していないんじゃないか? だが勘違いしないでほしい。あの子が自分のこと、儀式のこと、その他諸々を語らないのは、君を傷付けたくないからだ。そこをどうか知っていてほしい。――本題に入ろう。



 

 まず一つ目、あの子について。

 

 あの子は魔女で、色々事情があるのを薄々感づいていることだろう。あの子がこのお館から出られないのは「誓約」があるから。そして書庫に干渉できないのは、この空間のみ「魔女の干渉を受けないようにする魔法」がかけられているから。

 

 二つ目、儀式について。

 

 四月三十一日の日没から五月一日の夜明けにかけて行われる「ヴァルプルギスの夜」。その日に、君が今せっせこ集めている道具を使って、儀式を行う。それが成功して意味するのはさきの「誓約の解呪」、彼女の救済だ。君が何人目かはわかりかねるが、彼女に会えているなら、そういうこと(失敗していること)だろう。

 

 三つ目、彼女以外の魔女は存在するのか。

 

 結論は否だ。彼女がこのお館に囚われた日、その日にこの世に存在する魔女というのは、彼女以外は滅びた。彼女が呪われる、他の魔女が滅びる、この二つが天秤に乗った時、あの戦いは終結した。

 

 最後の四つ目、私は一体何者なのか。


 名乗るものではない、と恰好付けたいところだが、どのみち後で知るだろうから、今ここで。私はあの子、魔女の主である。かつて彼女と契約して、主従関係が成り立っていた。だが私は既に死んでいる。だから君に、頼まれてほしいことがある。

 


 

 ――あの子を、救ってやってくれないだろうか?

 


 

 それともう一つ、この地下室のことはあの子には決して言わないでほしい。次会えた時、何されるか分からないからね。

 探し物はすぐ傍の本棚にあるだろう。他にも、君の役に立ちそうな書籍がいくつかある、自由に見てくれ。

 

 では、私の最愛の子の救世主よ。――幸運を祈る。



 

  次々に降りかかってくる真実と、触れてしまった秘密。その数々に身を震わせ受け止める。それとは別に「何気なく」「人助け」で手伝っていた探し物、そこに予期せぬ「責任感」「事の重大さ」があったことに、また恐怖と戸惑いに震える。

 

 私はこの手紙を読んで、どのような感情を抱けばいいのか、分からなくなっていた。

 

 魔女さんの状況に同情を? 私がいま手伝っている物の先に覚悟を? 今は存在しない彼女らの過去に絶句を? 伝えてくれた貴方に感謝を? 死ぬかもしれないという状況に恐怖を? 貴方の、あの子の未来に幸運を?

 

 私は、私の身じゃ償えないことに、手を出してしまったんじゃないだろうか。私一人では背負いきれない犠牲と、器から溢れ出すほどの期待の上に立っている。

 

 手元の手紙をくしゃりと握りしめる。呼吸が早い、吐き気がする、文字が歪む。

 


 

 はあ、はあ。

 

 あぁ、どうしよう。

 

 これ、私じゃ抱えきれないよ。



 

 口に手を当て、脚が挫ける。足元にひらりと紙が舞う。ゴトッと懐中電灯が壊れる。



 

 何がそれくらいだよ。

 

 何が呪いだ。

 

 何が救世主だ。


 私はそんなの、許されていい人間じゃないだろう。



 

 フューレンが顔を覗き込み、か細い声で鳴き続けているのが分かった。顔に落ちる雫なんか気にせず、ただ一生懸命に鳴き続けている。

 


 

 ごめんねフューレン、だめだ私。



 

 段々と何も聞こえなくなる、何も見えなくなる、何も感じなくなる。――硬い地面に、頭を打ち付けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ