二十八封 最愛の子の救世主。
ごきげんよう。地下室の鍵を見つけ、引き抜きし勇敢な子。――それとも、魔女を前にしながら「魔女の殺し方」なんて本を手に取ってしまった、好奇心あふれる邪悪な子かな。
君がいつここに辿り着き、いつこの手紙を読んでいるかは分からない。ただ一つ確信して言える、それは四月三十一日ではない、ということ。まぁその日になれば、ここに辿り着くことはおろか。君、存在してないだろうから。
おそらく君は、ここに探し物をしに来たんじゃないだろうか? それが儀式に必要なものであれ、魔女の詳細を突き止めるというものであれ。ここには君の知りたいことが全てあるだろう。
ここから下は彼女、このお館に君臨せし魔女について話そう。君が知りたくないと願うなら、この手紙を読むのを辞め、必要なものを手に入れてここを去るが良い。それでも知りたいと願うなら、後はお分かりだね?
さて、君がどこまで彼女から聞いたのか、何が聞きたいのか。生憎私にはわかりかねる、と言いたい所だが、残念なことに私と君は運命共同体、なんでも分かるとも。お答えしようか。
ただあの子のことだ、あまり深く話していないんじゃないか? だが勘違いしないでほしい。あの子が自分のこと、儀式のこと、その他諸々を語らないのは、君を傷付けたくないからだ。そこをどうか知っていてほしい。――本題に入ろう。
まず一つ目、あの子について。
あの子は魔女で、色々事情があるのを薄々感づいていることだろう。あの子がこのお館から出られないのは「誓約」があるから。そして書庫に干渉できないのは、この空間のみ「魔女の干渉を受けないようにする魔法」がかけられているから。
二つ目、儀式について。
四月三十一日の日没から五月一日の夜明けにかけて行われる「ヴァルプルギスの夜」。その日に、君が今せっせこ集めている道具を使って、儀式を行う。それが成功して意味するのはさきの「誓約の解呪」、彼女の救済だ。君が何人目かはわかりかねるが、彼女に会えているなら、そういうことだろう。
三つ目、彼女以外の魔女は存在するのか。
結論は否だ。彼女がこのお館に囚われた日、その日にこの世に存在する魔女というのは、彼女以外は滅びた。彼女が呪われる、他の魔女が滅びる、この二つが天秤に乗った時、あの戦いは終結した。
最後の四つ目、私は一体何者なのか。
名乗るものではない、と恰好付けたいところだが、どのみち後で知るだろうから、今ここで。私はあの子、魔女の主である。かつて彼女と契約して、主従関係が成り立っていた。だが私は既に死んでいる。だから君に、頼まれてほしいことがある。
――あの子を、救ってやってくれないだろうか?
それともう一つ、この地下室のことはあの子には決して言わないでほしい。次会えた時、何されるか分からないからね。
探し物はすぐ傍の本棚にあるだろう。他にも、君の役に立ちそうな書籍がいくつかある、自由に見てくれ。
では、私の最愛の子の救世主よ。――幸運を祈る。
次々に降りかかってくる真実と、触れてしまった秘密。その数々に身を震わせ受け止める。それとは別に「何気なく」「人助け」で手伝っていた探し物、そこに予期せぬ「責任感」「事の重大さ」があったことに、また恐怖と戸惑いに震える。
私はこの手紙を読んで、どのような感情を抱けばいいのか、分からなくなっていた。
魔女さんの状況に同情を? 私がいま手伝っている物の先に覚悟を? 今は存在しない彼女らの過去に絶句を? 伝えてくれた貴方に感謝を? 死ぬかもしれないという状況に恐怖を? 貴方の、あの子の未来に幸運を?
私は、私の身じゃ償えないことに、手を出してしまったんじゃないだろうか。私一人では背負いきれない犠牲と、器から溢れ出すほどの期待の上に立っている。
手元の手紙をくしゃりと握りしめる。呼吸が早い、吐き気がする、文字が歪む。
はあ、はあ。
あぁ、どうしよう。
これ、私じゃ抱えきれないよ。
口に手を当て、脚が挫ける。足元にひらりと紙が舞う。ゴトッと懐中電灯が壊れる。
何がそれくらいだよ。
何が呪いだ。
何が救世主だ。
私はそんなの、許されていい人間じゃないだろう。
フューレンが顔を覗き込み、か細い声で鳴き続けているのが分かった。顔に落ちる雫なんか気にせず、ただ一生懸命に鳴き続けている。
ごめんねフューレン、だめだ私。
段々と何も聞こえなくなる、何も見えなくなる、何も感じなくなる。――硬い地面に、頭を打ち付けた。




