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手紙と魔女と御茶会と  作者: 野花 智
第三幕 貴方を救うために。
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二十七封 好奇心の先。

「こんにちは魔女さん」


「えぇ、ごきげんようお嬢さん」


「今日はどんな紅茶がよろしい?」


「うーん、目が覚めるやつが良いです」


「わかりましたわ」


 眠い目をこすりながら椅子に座る。もう既に紅茶を嗜んでいる魔女さんを前に、そこから私が探し物に行くまで、与太話が始まる。


「ところで。夢を見ない加護が切れるの、そろそろではなくて?」紅茶を片手に、首をかしげながらそう問われる。


「あ、それならもうとっくに切れましたよ」


 なんの迷いも戸惑いもなく、淡々と言い放って見せた。ぽかんとした魔女さんを片目上目遣いでみる。


「まぁそれは大変。もう一度かけましょうか」


「――いえ大丈夫です」


 目の前に手がかざされ、加護が降りかかるまであと一歩。遮る声が間に合った。


「夢を見なかった日の毎日。朝起きると、なんとも例えの付かない感情に苛まれるんです」


「それがとても、もやもやして。なのでもう大丈夫です、ありがとうございます!」


 手が徐々に降ろされる。あの感情、私もとても不思議に思うけど、それ以上に魔女さんも不思議に思っている様子だった。


「ふむ、それは謎ですね。どのような感じなんです?」


「うーん。なんだか後ろめたいような、満たされないような……。とにかく、なんとも言えない気持ちなんです。だから余計に困っていて」


「そうですか。お嬢さんがいいなら、加護はもう辞めましょうか」


 お互い紅茶に口をつける。それからまた、別の会話に移り変わった。――謎の感情の正体は、まだ分からぬまま。

 

 その日、新しい探し物を見つけ、また一つ印が付いた。


 しばらくの日にちが経った。ブレスレットやらリングやらを見つけて、探し物リストもあと半分を切っていた。

 今日はその中にある「召喚儀式とそのやり方」という題名の本を探しに、書庫へ来ていた。忘れることないあの出来事。避けては通れぬとは思っていたが、それでもやはり気乗りはしない。変な本を見つけてもスルーして、最優先で儀式の本を見つけることを心掛ける。――とりあえず、一番奥の本棚から探そう。

 

 右から左に、下から上に。梯子に上り、ぐらつき本棚にしがみつき。それっぽい本は手当たり次第に場所をマークして、机の上に置いておく。次々に積み重なり、背の高さを超えても気にしない。

 多分ジャンルごとに分けられてもいないし、著者や文字の並び方でも分けられていない。その証拠は、今私がこうやって端から端に見て回っていること。

 こんなに多くの魔術? 魔法? があるのなら分けてくれたっていいのに……。

 

 そう愚痴を零さずにはいられなかった。地に足をつけ、指でなぞりながら本の題名を見ていた時、見覚えのある文字が目に入った。


 「魔女の殺し方」


 心がグラつく。さっき心に誓ったはずなのに、私の良からぬ感情をくすぶるそれに、気付いたら手を伸ばしていた。押さえつけることもなく、本能に抗えない獣のように、私は好奇心で動いていた。

 震える手を抑えられない。ゆっくり、ゆっくりと。本のページをめくろうとする。

 

 ――その時、本を抜き取った奥に、キラッと光る何かがあった。

 恐る恐るのぞき込んでみる。そこにあったのは、鍵穴に刺さったままの、鍵だった。

 なんの迷いもなく、お菓子を手に取るかのように、鍵を引き抜く。そして掌で転がした。其のたびに目に入る輝きに、目を奪われる。取っ手部分に装飾がされており、全てが銀のような、鉄のようなもので出来ている。光っていたのはそこだろうか。

 

 その途端、大きく音を立て、ぐらりと大きな振動が身体を揺らし、目の前の本棚が蠢く。数歩下がり、移り変わる本棚を、じっと、頬に伝う雫と共に、眺めていた。ゴトゴト、ガタガタ。音を鳴らす様を、しばらく見つめる。

 

 ピタッと止まり、見える世界は闇のみだった。一人と一羽、完全静止。何が起こったのか、理解できずに、動くことができない。もしかしたらやばいことをしてしまったのではないかと、徐々に顔から血の気が引いていった。何に縋ればいいかも分からず、手元の本を目一杯に抱きしめる。

 

 現状把握のために、バッグの中のライトを取り出して、闇を照らしてみた。見えたのは明かりの灯らない蝋燭に、弧を描く螺旋階段。先の見ないお館の廊下と同じ、先も底も見えない。

 半分は、自暴自棄だったと思う。偶然とはいえ、私が引き起こした問題だし。元に戻れないなら、もうやってしまったのなら。選択肢は一つしかないじゃないか。

 何より、この本の先にあったんだ。これ関連の何かが待っているかもしれない、得られるものがあるのなら。

 

 好奇心の先に待つ景色が、地獄か、天国か。

 花園か、枯れ地か。

 ご褒美か、罰か。――甘んじて受け入れよう、その全て。その為に、手にしたのだから。

 

 そう静かに一歩を踏み出そうとしたとき、クイッと服を後ろに引っ張られたのが分かった。それはさっきまで肩で仲良く静止していたフューレンで、今だ見たことない必死なその姿に、ただ唖然とするしかなかった。


「な、何フューレン? 私この先に行きたいんだけど……」


 より強く後ろに引かれる。多分これ、行くなって言ってるよね。――でも、でも。私は、()()()()()()()()()()()に触れたいから。


「ごめんねフューレン、それだけは聞けない。お願い、進ませて」


 バタバタ暴れる翼を、すくい上げて腕に乗せる。君と初めて会った時のように、君の目にじっと訴えかける。様々な色が見えた、不安、悲しみ、心配、期待、熱気。

 

 数分じっと、その色を咀嚼し飲み込む。何を言うでもなく、ただ静かに、互いを理解する。

 仕方なく、本当に仕方なく、緩い力で肩に飛び乗っては擦りつく。


 「今度先に諦めたのは君だったね、フューレン。――ありがとう」

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