三封 名の知らぬ最愛の貴女から。
「……確かカラスにこれを」
正直、気味が悪い。一般的でよく見る白ではなく不気味で怪しい黒、しかも宛先も差出人も書いてない。これじゃあどこかに落ちてしまった場合、絶対に宛先の人に届きなんてしない。届かなくてもいいなんて考えてるなら、別だけど……。でも読まずに捨ててしまうならと、私は心の奥でどこかの誰かに謝りながら、思い切って封を切った。中には白い紙に赤いインク。それと――――指輪? シルバーで赤い宝石? が真ん中に埋め込まれていて、二つの線が交わって出来ている、とても綺麗な指輪だった。月の光あて覗き込んでも、それは凄まじい輝きを放って私の目の中に飛び込んでくる。こんな高価そうなものを入れてカラスに運ばせるなんて、差出人は一体どういう神経をしているんだろうか。
すると、手紙に書いてあったはずの外国語? が日本語に変わっていた。いや、見間違いだろうか、最初から日本語だったかもしれない。
とりあえず、書いてある文章を読んでみる。
――ごきげんよう、美しいお嬢さん。
唐突の手紙を許してほしいわ。なにせわたくしも忙しくて忙しくて……。直接お迎えに行けなかったのをすごく悔やんでいるの。今読んでるその手紙、カラスが届けたでしょう? あれはわたくしの使い魔です。大人しい子だったでしょう? だから病気だとか、襲われるだとかの心配はしなくて大丈夫よ、安心してちょうだい。あ、そうそう、本題に入らなきゃいけないわね。
十月三十一日、ハロウィンの夜。わたくしのお館にいらっしゃらない? たっぷりお菓子もお紅茶も用意しておくわ。退屈な時間にはさせない。勿論、断ってくれてもいいわ。その時は、空を見上げてちょうだい。貴女をじっと見つめるカラスがいた時、中に入っていた指環を掲げてちょうだい。カラスがその指輪を咥えたとき、お断りの意だと受け取ります。でももし…………もし、おいでになられてくれるのなら、その指輪を指にはめてほしいの。その時、私は貴女を、正式にお館への招待者として認め、貴方がお館にやってきてくれるのを待ちます。そして、その指輪は、きっと貴方を導いてくれるわ。
それじゃあ、良いお返事を期待してるわね。
――貴女の最愛の□□より。
とのこと。最後の名前? の部分だけ外国語で達筆に綴られすぎて読めなかった。でも、その手紙の真意だけは分かったような気がする。不安と楽しみとが入り混じるこの手紙に、嘘は書かれていないと思う。
それを踏まえても、私は不安で不安でしかたなかった。本当に私宛かもわからない上に、どこの誰とも知らぬ人の家? お館? にお招きされたって、行くわけがない。誰だってそうする。というか、指輪をはめると導きが……。なんてファンタジーじゃないんだから、そうツッコミたくもなった。
でも、そのファンタジーを信じてしまいたくなるほど、何もかもが綺麗で美しい贈り物だった。きっとこの贈り物の宛先人は、この贈り物に見合う綺麗で美しい人なんだろうなと、思わざるを得なかった。多分、この贈り物の宛先人は私なんかじゃない。
一刻も早く正しい人に渡してあげないと。そう思って私は「間違って受け取りました。お返ししておきます」と便箋を書き、入っていた指環と共に、貰った手紙の中に入れて、机の上に置いた。
机の明かりを消して、カーテンを閉めて、私はベッドの中に潜り込んだ。今日こそ




