二十四封 ケーキと紅茶。
「ただいま戻りまし……ん?」扉を開けた途端、鼻腔に甘い匂いが充満した。この間のパンケーキとはまた違う。
「おかえりなさい、お茶の準備ができていますよ」こちらのティーカップに、いい香りのする紅茶を注ぎながらそう言う。
「とてもいい匂いですね、今日は何ですか?」
――ふふ、今日はね。
椅子に座り、目の前に見えるはカラフルなケーキ達。
「この間はパンケーキでしたけれど、あれはかけたり乗せたりするだけだったでしょう?」
「ですから今日は少し張り切ってみました。昨日と今日、お館の散策を頑張ったお嬢さんへのご褒美ですわ」
さっきまでのことが水に流されたかのように、スッと不安や懸念は消えていく。それが目の前の沢山のスイーツによるものなのか、はたまた彼女と話しているからなのか。
「えー、どれにしようかなぁ」あまりに沢山の種類に目をくらます。
「おかわりはまだありますから、あまり悩み過ぎずに」
なんてことだ、まだあるなんて。
「じゃあ、これにしよっ!」
選んだのは鮮やかな緑色のスポンジで、上には白の生クリームと模様が描かれている。抹茶味だろうか。特段抹茶が好きというわけではないが、緑色が好きで、一番に見入ってしまった。
ふわふわ浮遊し、ホイップを揺らしながらお皿に乗る。コトっと置かれたお皿に手を添え、片方の手でフォークを持つ。先端に縦にかまえ、ふわっと押しかえるそれに容赦なく刃をたてる。落ちないように恐る恐る口に運ぶ。味わうようにゆっくり咀嚼し、舌の上で躍らす。抹茶の苦みと、生クリームの甘さが絶妙に絡まり、鼻腔をくすぐり最大限の調和を生む。ケーキ屋さんのような出来に、頬を落さずにはいられなかった。
「この二日、お館を散策していかがだったかしら?」
ティーカップを指でつまみ、いつも通り紅茶を堪能する魔女さんに、そう問われる。
「間取図がないと迷子になっちゃいそうなほど複雑ですね。あと広さもあるので、やっぱり疲れます」
「でもとても綺麗で感動しました」
そうでしょうといわんばかりに微笑む魔女さん。
「それで、明日からは探し物をなさるの?」
「そうですね……。いえ、期間もまだあるので、お休みの日だけここにお邪魔しますね」
――学校もあるし。そう言いながら次のケーキに手を伸ばした時、明らかに紅茶の手を止めた魔女さんの姿が目に入った。その次に分かりやすく口を噤む。なんだろうこの反応。さっさと物を探せっていう圧……? でもまだ期間あるよね……? そんな不安が、脳裏をよぎる。
「そうですか……。いえそうですよね、構いませんわ」
「でも少し、寂しくなりますわね」
ケーキを口に入れようとした瞬間、聞こえたそれに驚きを隠せない。あ、そういうこと? 寂しいの? ――確かにいつも一人っぽいし、人気もないし、フューレンしかいないのか。
幾分か心が痛む。けれど毎日町の外れまで歩き、森を駆け抜ける体力は私にはない。毎日外出なんてしていたら、親とか友達の目もあるし。――魔女さんには申し訳ないが、流石に毎日は来られない。
「そ、その代わりと言ってはなんですが。来た時には長居するようにするので」
俯く顔が上がり、噤む口が開く。時間が進まないのなら、いくらここにいたっていい。それに、ここで魔女さんと話すのも楽しい、お菓子もご飯だって出るし、美味しいし。私だって、魔女さんとの時間が減るのは、寂しいのだ。
「それは良いですね、お約束ですわ」また紅茶に口をつける。その姿を見て、私もまた一つケーキを頬張る。




