二十三封 祈りを密かに。
これで全ての部屋を回り終えたな。――あとは庭、か。流石に庭に物は隠されていないんじゃないだろうか? というのは、私がそうであってほしから、という願望にすぎない。
そう思いながら、窓に手をつき庭を見る。下からでも大きいな、なんて思っていたが、上から見ても変わらず大きい。やっぱり、辺り一面赤い薔薇園なんだ。あ、門からじゃ見えない位置に東屋がある。でも西洋では東屋って言い方ではないんだっけか。
なんて歩みを止め、自問自答を繰り返す。変化することのない庭を見ながら。
「あそこ、なんの窪み?」
薔薇生い茂る庭の右側。丸く空きがあり、それを囲い惑わすような高い芝の迷路。そしてまた真ん中に丸く空きがある。そこになにがあるのか、はたまた何もないのか。高い芝のせいで見えないけれど、もしかしたらあそこにも探し物があったりして。
「フューレン。あそこの真ん中、何があるか知ってる?」
カー。
「ふふ、これはどっちの返事だろう」
聞いたのはこっちなのに、分からなかったのは申し訳ないけど、少し微笑ましく頭を撫でる。君の言ってることも分かればいいのにな。
――そろそろ書庫の窓を閉めて魔女さんの部屋に戻ろう。
さっきとなんら変わりない廊下に景色。この目に見える当然とは相反し、私の心境には、何か変わりがあるのだろうか。
ドアを押す。冬が近づきつつある今、窓を開けて数十分、数時間もすれば、喉に張り付く冷気が充満していることだろう。なのにそれがない。暖かいのか、寒いのか。湿度はどうなっている? 高い、低い? 何も感じられない。春や秋とはまた違う、過ごしやすい温度って言うのだろうか。ただ変化がないというのも味気ないし、落ち着かない。でもそれが、ここに風が吹いていない証明になる。次々に証明される不可解な事実に、有無を言わせぬように刷り込まれていく。
「この空間が当たり前になりませんように」――そう祈ることしか、私に出来ることはない。
今度は本に目をやらない。見てしまえば、また意識のないまま本を手に取ってしまう。邪な気持ちを持ってしまう自分を、どうも許せなくなる。何にも目をくれてはやらない。真っ先に窓へ向かい、すぐさま閉める。窓の外を見やることもない。いや、それくらいは許されるだろうが、どこにも置けないこの気持ちを、早く忘れるために、私は何も見ない。こんなところで道草を食うわけにはいかない、私は魔女さんに会わなきゃならないから。そして何より、彼女との約束を守るために。
「よし、戻ろう」
全ての窓を閉め終えた。あとは魔女さんの元に戻るだけ。なんだけど――あれ、こんな扉あったっけ。
階段を降りる手前、踊り場の先。行きは気にしていなくて気付かなかった、片方の行先。その先に歩みを進めると、一つの扉があった。装飾も柄も何もない、まっさらな茶色の木のドア。でも今の私には、そのドアノブに手をかけることは出来なかった。さっきのこともあるし、何かあって暗い顔で戻るわけにはいかない。まだここに来て数日しか経っていないんだし。もうちょっと、もうちょっとここに慣れて、勇気が出たらここにまた寄ろう。それまでは、近寄らないように。




