十九封 お昼ご飯の出来上がり。
「さて、そろそろお昼の出来上がりかしらね」
後ろの扉がゆっくり音を立て開かれ、ふわふわ浮遊しながら、数枚のお皿とカトラリーがやってくるのが見えた。その途端、とても甘い匂いがこの部屋に充満し、紅茶しか口につけていない私のお腹の虫が声を上げた。光にあてられ姿が見える。それはゆっくりテーブルの上にコトッと体を揺らし落ちる。
「わぁ! なんですかこの大きなパンケーキ!」
「ふふ、喜んでいただけたかしら? お嬢さんくらいの子達はこういうの、好きだと思ったのだけれど」
「好きです! でもこんなに本格的で美味しそうなの食べたことないです!」
「いいんですか? こんなの食べさせていただいても」
「いいのよ、そこのジャムや生クリームなんかもお好きにつけて頂戴」
「いただきます!」
目の前のキラキラ輝くパンケーキに目を奪われ、待ちきれないと叫ぶ身体に応えるよう、カトラリーを手に。いやでも待てよ、確かテーブルマナーなんてものがあった気が……。なんだったか、カトラリーは外側からとる? 内側だったか?
あたふた目を回す私をみかねたのか、魔女さんは笑みをこぼした。
「いいのよ、マナーなんて気にしなくて」
「魔女は上品な方が多いけれど、わたくしは気にしませんわ」
ニコッと微笑む魔女さんのお言葉に甘えて、適当なナイフとフォークを取って、上からふわっと一刺し。一段、二段、三段。最初から最後までふわふわで弾力がある。ナイフを通り過ぎた時にぽよんと跳ね返る。一番上を別皿に移し、一口より少し大きくカットする。上品のかけらもなく大口を開け、口の端にホイップをつけながら咀嚼する。鼻を通り喉を通り、ありとあらゆる甘さや酸味が身体中を駆け巡る。頬が落ちるというのはこういうことを言うのだろう。カトラリーを持っていて抑えること叶わないが、また一口を食べると戻っては落ちる。無限ループ。
パクパク間髪入れずに飲み込んでは、また頬に詰め込む。ジャムをかけて生クリームをつけて、また頬に詰め込む。
「お嬢さん、頬に詰め込むのはいいけれど、お口の端についてますわよ」
あまりの美味しさに夢中で気が付かなかった。ペロッと舌で掬い上げる。じっとこちらを見つめるのみで、魔女さんの前にはパンケーキが置かれていないのにも気が付いた。
「魔女さんは食べないんですか?」
「わたくしはいいんですの。紅茶でお腹いっぱいですもの」
「さて、先程の続きをしましょう。他に聞きたいことは無くて?」
うーん。疑問に思っていたことも晴れたし、特に聞くことも……。――そういえば、探し物のことを深く聞いていなかったな。
「この間言っていた探し物で、まだ日はあるからいいと言ってましたけど、具体的にはいつまでに何を探しきればいいんですか?」
「そうね、その話もしましょうか。少々お待ちを」
そう言い魔女さんは散らかった部屋の家具を漁り始めた。私はそれを眺めながらパンケーキを頬張る。部屋をあっちこっち移動する魔女さんを目で追っていた時、止まり木にいるフューレンを見た。フューレンも魔女さんを目で追っていて、かと思えばため息をつくかのように頭を下げた。
「魔女さーん、フューレンって果物食べられますかー?」
「食べられるわよー」こちらを振り向かずそう返す魔女さん。
「おいでフューレン」
肩を叩く。こちらを振り向くなり静かに肩に飛び降りた。別皿にあったベリーを一つ取り、フューレンの口元に近づけた。指を嚙んでしまわないようにそっとベリーを咥え、食べる。そのまま頭を撫でる。そして顔になすりつき、もう一粒と強請る。私が買ったものではないけれど、黙って私のことを導いてくれたフューレンに、少しもの敬意と感謝を込めて。




