十八封 重ねる問い、明かされし答え。
「さて、何から聞きたいかしら? 考えがまとまらないなら、わたくしが適当にお話しましょうか?」
これも彼女なりの気遣い。さっきの私の姿を見て、本当におおよそを察したのだろう。ここで彼女の優しさに怯えるのも、甘えるのも違う。
「いえ、大丈夫です」
「まず、なぜここはずっと夜なのか教えてください」
「そうさね、簡単に言うなれば」
――ここの時間は進んじゃあいないから。
納得ができたような、それでも何か納得がいかないような。こんな非現実的な現象と言葉を、そうだったんですねの一言で済ませられる訳がない。その真相を確かめるため、問いに問いを重ねる。
「時間が進んでない……?」
「そう。もう何百年も前ね。わたくしがここから出られなくなった日から、ここは一秒たりとも進んじゃあいないのよ」
「日が昇ることを知らず、日が落ちることを知らない。ここはそういう場所なのよ」淡々と、紅茶を飲みながらそう一つ語り終える。
じゃあ、ここに入ってから出て少し歩くまで、時間の進みがおかしかったのはそういうことなんだ。
「二つ目もいいですか……?」これが分かればきっと、全てに紐が説かれ、また正しく結びつく。
「ええ、どうぞ」
「貴方は一体、何者なんですか?」
紅茶を飲む手が止まる。感情の分からぬ顔にも、少しは慣れただろうか。今度こそは大丈夫、そこが貴方の踏み入れざる深淵だろうと、私は土足で踏み入る勇気と好奇心を持つ。少しの静寂が過ぎる。この間が怒りなのか、戸惑いなのか、どういう感情によるものなのか、分からない。ひしひし伝わるこの空気は一体なんなのだろう。気まずさを覚える中、やっと彼女が口を開く。笑いを含ませながら。
「ふふ、わたくしはね――――魔女、ですわよ」
目を丸くい固まる私など、お構いなしに続けて語る。
「お嬢さんが来た道がすぐ塞がったのも、わたくしが姿を指先一つで変えられるのも、魔女だから」
「お嬢さんのその髪を編むことだって、お嬢さんを幸せな眠りにつかせることだって、造作もないこと。怖くなったかしら?」私の前で、手をひらひらと舞わす。その手を追いかけることはなく、ただ目を見つめる。
「いえ、なんというか。怖いより、納得の気持ちの方が大きくて。いや確かに! いきなり魔女だって言われて困惑もありますけど、変に頷いちゃうんです」なんでだろうな。でもあんなもの見せられた後にそう言われちゃうと、納得せざるを得ない。
くすくす笑う彼女。私だってなんで納得してるのかなんて分からない。まだ会って二回目だし、我ながら警戒心がないなとは思う。思うけど、彼女は悪い魔女? じゃないと思うんだよなぁ……。ずずっ。紅茶を一口。
そういえば、彼女の名前をまだ聞いていなかった。ずっと貴方だとか、彼女だとか。この先もそんな呼び方をしていくのは、気が引けるというもの。
「あの、なんとお呼びすればいいですか? 名前とか……」
「ごめんなさいね、魔女において名というのは秘儀するもの、身内以外に知られてはならないの。知られたが最後、命の尽きだと覚悟する」
「なのでそうね……。魔女さん、とでも呼んでくださいな。わたくしもお嬢さん呼びですもの」
「じゃあ、魔女さん……?」
「えぇ!」心底嬉しそうに微笑む魔女さんに、自然と心が暖まるのだった。




