十五封 癒しと、導きの動物。
数時間後の朝、目が覚めた。疲れ眠った時でさえ良い夢が見られないなんて、どうかしている。いつもの体のだるさに加え、昨日の疲れが上乗せされている。今朝は一段と身体が重い。今日は……そうか休日か。
正直気乗りしないし、だるいし、しんどい。でも後日来る、なんて言ってしまった暁には破るわけにはいかない。今から行ってもいいのだろうか。いや、試しに行ってみるのもありかもしれない。昨日の荷物を床に掘り投げたままなのは助かった。風呂に入って身支度を整えたらすぐに出られる。
昼前、朝ご飯をさっと済まし家族に出かけるの一言を伝えて家を出た。足を引っ張る後ろめたさと、頭を抑える疲れがありながらも、私は疑問を確信に変えるためにお館へ向かった。
気を紛らわすために、大して楽しくもない旅路に無理に音楽をかける。鼻歌を混じらせながら、いつもの空き地に出た。塀からひょこっと顔を出せば、あくびをしながらくるまって日向ぼっこをする猫ちゃん達が待ち構えていた。私を見るなり鳴きながら歩み寄ってくるこの子達に、少し、いやだいぶ癒された。今日はもうここにずっと居たいと思うほどに。ゴロゴロと喉を鳴らしながら足と手に擦りつく。日向ぼっこした後のこの極上の毛並みは何にも抗いがたし。もふもふ。
すると猫ちゃん達が空の方を凝視し始めた。もしや、なんて思ったけど、十中八九……。肩にそっと乗ってきたのは案の定フューレンだった。
「なんでここにいるの? 迎えに来てくれたの?」そう問いかけて帰ってくるのは頷きだった。私が来るのを見越してずっとここで待っててくれたんだろうか。
「この子はフューレン。仲良くしてね」フューレンを肩に乗せつつ、ゆっくりしゃがみこみ、笑顔で諭す。
ぷい。一斉に顔を逸らされた。やっぱり仲良くはなれなそう……。
程よく撫でたら、みんなに別れを告げて館へ向かった。夜とは比べ物にならないほど人がいる、それでも都会の方には敵わないが、休日の朝、昼は凄い。田舎、とはいえど、どこも休日は人がすごい。ただカラスを肩に乗せて歩いている女子高校生なんて、注目されること間違いない。そしてなにより怪訝な目を向けられる、友達に遭遇だってするかもしれない。なので、フューレンには上からついて見守ってもらうに言った。そしたら潔く飛び舞った。時々上を見上げると、こちらを見つめるカラスが一羽。それも少し前にいる。なんだかちょっと頼もしいなと、心に余裕が出来る。
学校を抜け、町を抜け、森に近づくにつれてさっきまでの人気は無くなった。もう一度空を見て、アイコンタクトをとる。そして肩をトントンと叩く。降りてきていいよの合図。こちらを凝視する黒が近づく。さすがに森の中では側にいてほしい、何があるかわからない。といっても、一羽のカラスに人間が守れるかどうかは分からない。傍にいてくれるだけで安心する、という利点がある、それだけで心は確かに救われる。




