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8話「アンドロイドの恩返し」

忙しくて更新が一週間ぶりになってしまいました。

明日も更新する予定です。

◇アル(R1-D1)


 王都の郊外に位置する山岳地帯。その奥深く、狩人ですら立ち入らない程に鬱蒼と木々が生い茂った森林にアルはいた。その手には、一羽のウサギとリスが二匹掴まれている。生体センサーを用いて狩猟したばかりのものだ。

 己の狩りの成果に満足したアルはそろそろ帰ろうと、マインドサーキット内のマッピングデータを用いて帰路を導き出す。ゴール地点は「リリの家」だ。


 魔族の少女リリにその身を拾われて以来、アルは二つの理由から彼女の家で世話になっていた。

 一つ目の理由は、アルの身体の修復がまだ済んでいないことにあった。現在、彼女の身体は戦闘を伴わない日常生活を送る程度ならば問題なく活動できるまで修復が進んでいたものの、戦闘面においては本来の力の二割程度しか発揮できない状態にあった。その身に宿る666の兵器も、現在まともに使用できるのはナンバーの下位に属する一部の基礎兵器のみと、完全に持ち腐れだ。

 これを修復するためには、アルのボディを構成している「ナノマテリアル」と呼ばれる物質が必要だ。しかし、自分の出自に関する記憶すら失っているアルにとって、ナノマテリアルを補給する手立てを自力で探すことは困難なように思われた。だが、幸運なことにアルはそれを供給することが出来る人物に出会うことができた。それがリリである。

 リリは「マナ」と呼ばれる物質を操る力を持っており、それこそがアルのメモリに「ナノマテリアル」として記録されている物質だったのだ。

 この世界において、マナとは万物に宿る生命エネルギーのようなものと考えられており、それを操ることが出来るのは、ほんの一握りの才能ある者だけだった。

 リリもその才能を持った一人で、彼女が語るところによれば、彼女の母親もそのまた母親も代々マナを操ることに長けた人物だったいう。おそらくそういう血筋なのだろうとアルは推察していた。

 そういうわけで、自らの身体を治す手立てを他に持たないアルは、リリの厚意に甘える形で彼女の家に居候し、身体を治してもらっていたのだった。これが、一つ目の理由である。


 背中のジェットスラスターを使い、木々を見下ろしながら飛ぶこと数分。依然として人が寄り付かないであろう鬱蒼とした森の中に、ポツンと建てられた木造の小屋が見えてきた。リリの家である。

 アルはジェットを逆噴射させると、ゆっくりと小屋の前に降り立った。


「おかえりなさいっ!」


 すると、アルのジェットの音を聞きつけたリリが勢いよく戸を開き、待ちわびていたように出迎えてくれた。

 微笑ましいその様に、アルも手にした狩りの成果を示すように掲げて応える。


「タダイマ、リリ。小動物を三匹、獲ッテきマシタヨ」

「わぁー、すごい! ありがとう、アルおねえちゃん!」


 アルが持ち帰った成果に目を輝かせて喜ぶリリ。

 

「コレくらいナラバ、おヤスイご用デス。身体を治シテいただいてイルお礼デスから」


 喜ぶリリの姿に満足したアルは、表情筋シミュレータを使用して、にっこりと微笑んでみせた。アルがこのような表情を用いるようになったのは、リリとの生活が始まって以来のことだった。


 彼女自身も知る由はないことだったが、記憶メモリの大部分を失ってこの世界にやってくる以前、アルは強襲制圧を目的とした戦闘用アンドロイドとして開発、運用されていた。

 そんな彼女にとって、表情を作るという「優先度が低い」行為に少しでも演算力を割くことは本来ならばあり得ないことであり、それはこの世界に来た当初も同じだった。

 しかし、今は事情が違っていた。

 この世界に来たばかりの頃は「人間を殲滅する」という命令規定のみに従っていたアルだったが、今の彼女のメモリにはもう一つの優先すべき事項「リリへの恩返し」が追加されているからだ。

元が戦闘用アンドロイドであるアルにとって、最も評価の高い行動は「できるだけ長く生存、活動することで作戦行動を継続すること」にあった。それは記憶を失ったあとでも変わりなく、それ故に「リリに命を救われた」という結果に対してアルのマインドサーキットが導き出した恩返しの優先基準は、人類の殲滅とほぼ同等かそれ以上に高いものだった。

 命を救われたことに対する恩返し。それが、現在アルがリリの元に留まっている二つ目の理由だった。



「それじゃあ、アルおねえちゃんがお肉を獲ってきてくれたことだし、そろそろわたしもごはんを作ろうかな」

「了解デス。ワタシは水汲みのツイデニ血抜キもシテキマショウ」


 てきぱきと火を起こし始めたリリに、アルも水桶と獲物を手に川へ向かおうとする。


「いってらっしゃい! 気をつけてね!」

「エエ、行ってキマス」


 リリの声を背中に受けながら、アルは再び空高く飛び立った。


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