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第十五話:独裁政権下における自己申告制の幸福

 小早川皐月様に強請(ねだ)られた宝石を買わせていただき、奉上する。


 皐月に永遠の愛を誓ってから、デートの度に買わせていただいている。大変ありがたい待遇、心より感謝申し上げます。


 この生意気盛りの後輩は光物に目がない。うちの女性陣は全員貢物を求めてくるのだが、その中でもこの娘にかかる金額は一撃が大きいぜ。


「うおぉ……っ、またお小遣いがゼロにぃぃ……」

「ふふーん。葉介先輩にしてはまぁまぁのセンスですね」

「お褒め頂き光栄の至り」

「ぷ、ホント、トリバレイの上に立つ人とは思えませんねぇ」


 人は生まれ持った格の違いがどうとか、きっと俺の前世はナナフシだとか。相変わらず口の悪い小娘だ。


 きらきらと輝く宝石。南方で採れた大ぶりのアレキサンドライトを指輪にして、薬指にはめて観賞する皐月。勝ち取った獲物を眺めながら、ふわふわ栗毛を自慢げに弄っている。結婚指輪は凄い金額のものを贈ったのに。毎度毎度搾取されっぱなしだ。おかしいなあ。


 そんな皐月のために今日も一日中買い物にお付き合い。


 確かに彼女の役割はトリバレイでの宝石、魔法石の売買なのだから、市場調査はその役割を立派にこなしてはいる。が、好きなように買い食いして、市場で宝石を買って、それを全部俺に支払わせるのは、この可愛らしい少女のちょっとした悪い癖だ。ちょっとしたね。


 この悪い癖のおかげで、俺は自分の財布の空っぽ状態の重さを何度も再確認させられる。


 皐月はその宝石を見せびらかしながら、居城のトリバレイ城に戻る。背後に荷物持ちの従者(夫)を引き連れて。女尊男卑、ここに極まれり。


「お、皐月。それに葉介くん。おかえり」

「ただいま、綾子さん」

「ただいまでーす。綾子先輩」

「あっ、また宝石貢がせたんだ」

「えへへ、いいでしょー」


 城の執務室の一角で迎えてくれたのは綾子だ。


 これは良くないぞ。


 綾子と皐月の組み合わせは惨事の威力がデカい。というか、ウチの陣営の女の子たちは組み合わせると大体厄介なことになる。皆さんとても良い性格をしていらっしゃいますから。


「これで何個目だっけ。もう数えきれないね」

「はい♪ ほんと、葉介先輩に貢がせるのって楽しいですね」

「うん。こいつ、小遣い与えて放っておくと絶対ろくな使い道しないから、こうやって定期的に絞らないと」

「絶対、変なお店なんかには行かせないようにしますね」

「君たちが居るのに、そんな店行くわけないだろ……」

「これでもう宝石十個目ですぅ。はぁ、愛されてるって感じがします」

「ふーん」


 ……あ、綾子ちょっと機嫌悪い。


 自分の方が贈り物ペース少ないとか思っているようだ。いやいやいや、今までの合計で見ると綾子の方がずっと多いから。という言い訳は女性には通用しない。賢い女性なのに、唐突に数すら数えられなくなる。不思議すね。


「ほんっと、葉介って女の子にはプレゼントすればいいって思ってるよねー。私もさー、出会っていきなりこのネックレス渡されてさー」

「ふーん」


 確かにプレゼントはした。けどそれはデバフアイテム収集の一環だろ。太陽と月のネックレス。魔物を追い払ったり逆に集めたりする、呪い装備の中でも低級のものだ。そもそも城で執務をする綾子には無用のもので、なんで今になっても付けているんだ。


 自慢気に見せびらかすのを止めなさいよ。正直、極上の女性に贈るにしてはあんまりにも安物で恥ずかしいのだから。


 ……あ、皐月ちょっと機嫌悪い。


 以下同文。


「いや、大好きな私に求愛したいのは分かるけどさー。普通相談もせずアクセサリー贈るー? こういうのって好みとかあるわけじゃん? ま、たまたま私が気に入ったからいいけれどー」

「ふ、ふーん……」

「しかもペアのネックレス買ってそっちは自分がつけてるの。ちょっとアピールが一人よがり過ぎだよねー。ま、たまたま私が気に入ったからいいけれどー」

「……先輩?」

「はい」

「も一回市場に行きますよね? 先輩は私のこと大好きですもんね」

「はい」


 はい。


 わかりました。


 引きずられて市場へ。財布が空なので小遣いの前借をした。


「ふふっ、先輩って何でも言うこと聞いてくれて最高。ド陰キャで恋愛経験薄々だと、金払うしかアピールできなくて大変ですねぇ」


 男を虐げることに無類の喜びを覚えるのか。ぞくぞくぞく、っと皐月の笑みは深まっていく。好きな子が喜んでくれて嬉しいなあと思いました。


「うう、こっちの宝石でいいかい? 皐月さん」

「もう一回り大っきぃやつがいいですぅ」

「ひぃぃ……!」

「毎度、兄ちゃん! また来ると思って一番お高い石を取っておいたぜ。今日も良い払いっぷりだな!」

「アンタの店、最近露骨にデカい宝石を仕入れるようになったな……」


 太陽より眩しい接客スマイルを放つ商人に恨めしい目線を向け、金貨をポイポイ渡す。ああ、さようならお小遣い。こんにちは借金生活。


 マウントの取り合いは乙女のたしなみ、みたいなところがあるトリバレイ女性陣。


 その彼女らに、皐月は指輪と、ネックレスと、宝石と、花束と、甘味と、不動産を見せつけて満足した。勘弁してくれ。


――


 やれやれ、今月も来月もタダ働き確定か。


 皐月や綾子たちは続々と個人資産をたくわえているというのに。俺の方は銅貨一枚すらおぼつかないありさま。本当にトリバレイの当主なのだろうか。


 皐月のために買った品々を、彼女の部屋にうやうやしく捧げ――


 続いて皐月が一番欲しがっているものを奉じる。


 正午辺りまでは頑張って我慢していた皐月だが、こらえきれなくなった今はつま先立ちで舌を差し出してくる。小柄なこの子が一生懸命口先を持ち上げるのは、頭上から見ていてとても趣深い。


「んっ、んっ、先輩……ちょっと早いですけれど……一旦ベッド行きましょう。先っぽだけベッド行きましょう?」

「はいはい」

「ふっ……あー……うー♥」

「はい、先っぽだけ」

「も、もうちょっと……っ」

「はいはい」


 貢物を何度も要求する皐月の癖は、どうも自信の無さからくるものだとお嫁さんに迎えてから気づいた。


 生まれてきてから今まで、皐月は数多の男から貢がせるだけ貢がせてきた。そしてそれに一切返礼せずに無視してきた。


 だから男への応対がこれしか知らないのだ。物品量でしか愛情を測れないのだろう。


 だが、それも最近はすっかり矯正されちゃったけど。


「……先輩、い、いつも貢物、ご、ご苦労様です……」

「うん。皐月が喜んでくれて嬉しい」

「貯金すっからかんですねっ」

「皐月様に貢いだら一文無しになっちゃった。もうデートも出来ないね」

「ち、ちがいますぅ……! 先輩がどうしてもって言うなら、っ、ぅ」

「どうしてもって言うなら?」


 皐月の視線が宝石から離れて久しい。大好物の輝く石には目もくれず、俺の舌に吸い付いてくる。


 女の子の価値観を書き換えて一生を貰うのは最高だなあ。口づけを離さないようにしながら、腹で押しつぶすように愛するのがコツだ。


「どう、してもって言うなら……♥ デートの度に宝石じゃなくていいっ、銅貨一枚でいいです!」

「ダメ。値段高すぎ」

「ひいっ!♥ わ、わかりました! 負けです! 皐月の負けです! 無料でいいです!♥」

「一生無料?」

「一生無料っ!」


 やったぜー。


 でも油断してはいけない。携帯の契約みたいに実質無料だとか基本無料だとか、変な抜け道があるかもしれないからな。


 朝までかけて完全永年無料(無料追加オプション皐月使い放題)を確定させておいた。

なんか二章になって良い思いばっかしてんなこいつ、と思ったので、

ちょっとくらいプロット変えて大変な状況にしてもバレへんか……

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