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22.猫耳という正義と、花子という理不尽

■22.猫耳という正義と、花子という理不尽



 恒例の定期会議であるが、大変なことが起こった。しかも2つも。

 

 その1。なぜか花子がいる。

 

「ということで、三村さんは沖田のチームで面倒見てくれ。」

 

 どうやら、花子は戦闘職に転属になったらしい。しかも、俺のチームとかいっている。

 そんな罰ゲームをくらうようなことをした覚えは無いんだが。

 

「よろしくね。」


「三村さん、よろしくお願いしますね。」


「よろしくっす。」


 赤坂とサスケは、何のためらいもなく受け入れてやがる。

 

「戦闘職に配属になるのは、分からんでもない。でもなんで、うちなんだ?」


「だって、ここって楽しそうだし。」


 いやいや、意味分からん。少なくとも、俺はまったく楽しくないんだが。

 他のみんなは、意図的にこちらを見ないようにしてやがる。なんとかして、ほかに押し付けないといけない。

 さてどうするか・・・

 

 

「という訳で、猫人族の村がフィールド型ダンジョンに飲み込まれているらしい。」


 なんだと・・・ 花子をどうやって他に押し付けるかを考えていて、聞いていなかった・・・ 失態だ・・・

 ということで、大変なことの2つ目がこれ。「猫耳」お姉さん達の危機である。まあ、お姉さん以外もいるが、そこは無視。

 

「このダンジョンは進化途中のようで、詳細が分かっていないので、救出と調査には主力を出すことにする。」


 主力だと・・・ お呼びでない? 出る幕なし?

 

「それでは、今日の会議はここまでとする。続けて打ち合わせをするから、千葉のチームと沖田のチームは残ってくれ。」


 ん?うちも残るの? 赤坂とサスケは当然という顔をしている。どういうこと?

 他のみんなは早々に会議室を立ち去っていった。

 

「うちらって何の用でしょうか?」


「ん?」


 なんか、一斉に注目を浴びている。

 

「さっき、主力っていいましたよね?」


「沖田。主力っていったら、俺のところと、お前のところだろ?」


 千葉さん、恐ろしいこと言ってる・・ な、な、なんですと?! 俺達って2課の主力だったの?

 赤坂とサスケも呆然と俺を見ていた。あ、そうか。この二人がいれば、それは主力といってもいいかもしれない。納得した。

 

「じゃあ、話を進める。目的の村は、ニーランドから東に3日ほどいった先にある。」


「ニーランドっすか。」


 俺達は顔を見合わせる。ニーランドといえば、「猫耳」と温泉ではないか。このままダンジョンが広がるとまずいことになる。そう、個人的にも。


「優先事項は、村の人たちの退避だ。そして次にダンジョンの確認となる。退避については、応援を予定しているので、状況の確認と経路の確保を重点的に頼む。」


「「了解しました。」」


 そのあと、移動経路の確認や、割り振りなどを決めて、準備に向かった。

 

 

「さて、ひさびさにニーランドだな。といっても、今回は温泉に行ってる暇はないけど。」


 千葉さん達が、ギルドにいってるので、俺達は馬の準備とかをしながら待っていた。

 しばらくして、千葉さん達がもどってくる。

 

「よし、準備完了だな。でも、なんだ。沖田のところはもう、訳がわからんな。」


 千葉さんが俺達のカッコをみながら、今更ながら苦笑している。

 赤坂は例によって、魔法少女。サスケは忍者。花子もチャイナドレスみたいなカッコをしている。俺は例の試作品だ。

 まあ、俺の試作品が、唯一この世界にマッチしているだけである。

 

 着替えてくるわけにも行かないし、そもそも着替える服もないので出発することにした。

 赤坂にいたっては、何に着替えても魔法少女だし。

 

 道中、何度か魔物と交戦するが、このチームだと平均戦闘時間が10秒ほどというオーバーキルだった。

 夜も一応見張りが立つが、全部見張りだけで対応可能という状態である。おかげで、まったく疲労感なしでダンジョンの入り口と思われるところに着く。

 

「大体、この辺からダンジョンだと思っていいでしょう。」


 埼玉さんが、まわりを伺いながら、場所の確認をしていく。

 フィールド型ダンジョンは、明確な規定はない。ボスを中心として、フィールド内に異常に魔物が多発する。

 その魔物の数が増えてきて、ダンジョン並みの密度になると、一般的にフィールド型ダンジョンと呼ばれる。

 場合によっては、魔物達の手などによって迷路状の道が作られたりもする。

 

 俺達は、目的の村にむかう。

 村までに遭遇した魔物は、ゴブリンとスケルトンだった。ゴブリンはもともとこの辺にもいるが、スケルトンが出るのはめずらしい。ダンジョン化した影響であろう。

 

「村が見えてきたっす。どうも、結界を張ってる様子っす。」


 先行している埼玉さんとサスケから、状況が伝えられる。俺達が合流するまで、警戒してもらう。

 

 埼玉さん達に合流すると、村に近づくが、当然結界で入れない。しばらく結界の前にいると、村長らしき老人がこちらに向かってくる。村長さんは猫人族だが、あれを「猫耳」というべきかどうかは、議論が必要であろう。俺は反対だが。

 村長さんが手を上げると、結界が解かれた。俺達が中に入ると、再び結界が張られる。

 しかし、長時間にわたり、これだけの強度のある結界ってどうやって張ってるんだろうか。

 

「冒険者さん達ですな。ありがとうございます。この村の村長です。」


「千葉といいます。皆さんの避難をお手伝いに来ました。」


 俺達は、村長の家に招かれ、村長と避難の打ち合わせを行う。

 お茶を出してくれた村長の孫娘は、正真正銘の「猫耳」お嬢さんだった。当然、やる気スイッチが入る。

 

 この村の人数は、10家族で総勢50人だ。ダンジョンがこのあとどうなるのか分からないため、一時避難ではなく引越しになりそうだ。

 輸送には偽装トラックを使うことになっている。中身はトラックなのだが、念のため馬に引かせた馬車に見せかけている。当然、道さえよければ時速100キロとかでてしまう。見つかると問題になるので、当然ださないけど。

 また、避難先もニーランドの郊外に場所を確保しており、現在6課が仮設住宅やライフランの工事を行っていた。仮設住宅は、当然うちの広告入りのやつだったりする。

 

 トラックは2台用意しているので、4家族づつ、3回での輸送計画である。トラックは満載していても片道2日でいけるので、大体1週間ぐらいで終わる予定だ。

 そしてトラックの護衛は別チームに対応してもらい、俺達はこの村の護衛をしつつ、ダンジョンの調査にあたる。

 

 早速、センターに報告をいれ、トラックと護衛の手配をしてもらう。

 

「俺達の拠点は、この結界の外のほうがいいだろう。」


 斥候にでるのにも、いちいち結界を解いてもらう必要がでてくるので、結界の中だと不便だ。

 また、結界の中だと、俺達の通信機器もかなりの雑音がはいるし、レーダーも動きがおかしくなる。

 

 俺達は、一旦結界の外にでて、謹製テントやトイレを設置していく。

 トラックの到着は明後日になりそうなので、今日明日は本格的な調査に入っていく。

 

 

「たしかに多いですね。」


 赤坂がレーダーを見ながら、そうつぶやいた。レーダーには、10を超える魔物が確認できている。普通なら、せいぜい2~3ぐらいだろう。やはり、これもダンジョン化の影響だ。

 

「埼玉とサスケは先行して斥候を頼む。敵を発見しても手はださないように。俺達はそのあとを追う。」


 埼玉さんとサスケが出発するのを見届けて、俺達も出発する。


「やはり、魔王が原因なんでしょうか。」


「その可能性は高いな。って、その話、誰から聞いた?」


 千葉は思わず相槌をうってしまい、しまったという顔をしながら、赤坂に情報元を確認する。

 

「先日、1課の永倉さんからそのような話を聞いたものですから。1課も魔王の動きを調査するのに忙しいそうで。」


「1課か。まあ、そういうことだ。だが、これは機密事項だから、口外無用だ。」


 魔王の動きが活発とか、正直聞きたくも無い。

 それより、赤坂ってやっぱり永倉さんと付き合ってるんだろうか。まあ、1課のエリートだし、かっこいいし。

 気にしてもしょうがないのは分かっているが、やっぱり気になるのである。

 昔はこっちの世界に移住して、「猫耳」お姉さんと結婚しようか、とか考えていたのだが。

 

 とかいってるうちにも、調査は進んでおり、村周辺の魔物の分布はおおよそ確認が取れた。

 数は多いが、種類はゴブリン、ダークウルフ、スケルトンだけのようだ。

 さらに奥にいくと、分布が変わってくると思われるが、今日はこの辺で引き上げることになった。

 

 村に帰ると、村の人たちが食事を用意してくれていた。今日の獲物は村に渡すことにして、食事をありがたく頂くことにする。

 赤坂は研究に余念がないようで、食べながらいろいろと聞いていた。

 

 その夜の見張りで、ちょっとした問題が発生した。

 通常、俺とサスケが見張りをするのだが、花子にも見張りの経験を積ませたほうがいい、という千葉さんからの提案があった。

 それ自体は、当然そうなのだが、問題は誰とくませるか。

 おそらく、俺がベストなのだろうが、なぜか赤坂が反対した。かといって、赤坂と花子の組み合わせもいろいろと怖い。

 結局、サスケと花子の組み合わせで見張りをすることになった。明日以降は、後発部隊が到着予定なので、後発部隊に村の護衛を含めて見張りを頼むことになる。

 

 そして、サスケと花子に見張りを任せて、俺達は寝ることにする。

 

 何事もなく翌朝を迎えた。サスケが心配だったが、別に問題はなかったようだ。意外とこの二人は相性がいいらしい。仕事をするという意味でだが。ただ単に、サスケのコミュニケーションスキルが高いだけかも知れない。

 

 今日はさらに奥を目指すことにする。朝食をすませ、マップで今日の調査エリアを確認した後に出発する。

 

 先行している埼玉さんから連絡が入る。

 

「千葉さん、どうも瘴気が増えてきてるようですね。」


「魔物はどうだ。」


「なんと、ホブゴブリンがいましたよ。」


「ホブゴブリン?!」


 ホブゴブリンはゴブリンの上位種である。ゴブリンと違い、それぞれがアーチャーやキャスター、ファイターなどのジョブを持っている。普段、俺達が活動しているエリアでは、出会うことはあまり無い。今回はいつもよりも強敵がいそうだ。

 

「厄介な感じだな。ほかにもいろいろと居そうだ。」


 千葉さんも心なしか、いつもよりも緊張しているようだ。

 埼玉さん達と合流する。

 

「あれですよ。」


 埼玉さんの指す方を見ると、アーチャーと思われるホブゴブリンが確認できた

 

「アーチャーのようだな。おそらく斥候だろう。」


「千葉さん、見つかると厄介だ。やるよ。」


 そういって、埼玉さんが弓を構えて放つ。一撃でアーチャーが沈む。アーチャー対決は、埼玉さんの方が上手だったようだ。当然だけど。

 

「本隊が近くにいるはずだ。先行頼む。」


 埼玉さんとサスケが先行していき、周りを警戒しながら、その後を追う。

 

 しばらく先にいったところに、ホブゴブリンが5匹程度の集団がいた。本隊だろう。

 剣と盾を持っているのと槍や斧をもってる4匹がファイターだ。その後ろに杖を持ったキャスターが居た。

 

「キャスターを黙らせろ。一気にいくぞ。」


 千葉さんの号令で、埼玉さんがキャスターに矢を放ち、一発でしとめる。

 

「サンダー(範囲)」


 間髪いれずに、赤坂の魔法が飛び、ファイター達が麻痺状態になる。

 

 俺と千葉さんがファイターに対峙し、すかさずサスケと花子がその後ろに回りこんで攻撃を繰り出す。埼玉さんと赤坂も続けて攻撃していく。

 そして、ホブゴブリン達は、反撃する間もなく全滅していった。

 

「さすがに、ホブゴブリンともなると、結構強いな。」


 千葉さんが、周りを警戒しながらそう言うが、

 

「ホブゴブリン5匹をあっという間に殲滅とか、どうなってんだよ。」


 回復のために待機していた静岡さんが、苦笑する。

 

「まあ、攻撃は最大の防御っていうから、これはこれでありじゃないの。」


 埼玉さんがこともなげに言い放つ。千葉さんも思わず苦笑していた。

 

 もともと俺のチームは赤坂、サスケという超戦闘力のチームだったが、それに花子が加わったことで、さらに過激になっていた。

 千葉さんのチームみたいに、バランスの取れたところから見ると、有り得ない構成であるのは間違いない。

 そんな俺達と2課のトップチームである千葉さんのチームが組んでいるのだから、こういう結果もある意味当然なのだが。

 

 

「たしかに、この辺は瘴気が増えてるようだな。」


 ダンジョンの全景が確認出来ていないので、現在の場所がどの程度奥なのかは分からないが、少なくとも瘴気は増えている。そして、さらに奥まで続いているとすれば、大量の魔物が生息しているか、あるいは最深部であるボスがかなりの瘴気量を持つものと思われる。

 

 周りの様子が変わってきているので、突発的な襲撃に備えて警戒しながら進んでいく。

 その後も、何度か戦闘を繰り返したが、ゴブリンやダークウルフが少なくなる代わりに、ホブゴブリンの割合が増えてきているようだ。やはり、瘴気が濃くなる影響であろう。

 

 こうして、予定エリアの探索を終え、村に帰ることにした。


 村に帰ると、馬車に見せかけたトラックが到着していた。千葉さんがトラックで送られてきた護衛と打ち合わせをしている間に、俺達は食事の準備だ。

 

「明日、第一陣が出発する。あと、この村の護衛もつくから、明日からはさらに奥にいくぞ。」


 村から離れすぎると、村を襲撃されたときにフォローができないので、それ程奥にはいけなかったが、護衛がつくのであれば、俺達はダンジョンの調査に全力を向けられるのである。

 食事も終え、これまでの魔物の状況などを共有したのち、後発部隊に見張りを任せて明日に備えて寝ることにする。

 

 

 昨日よりも奥のエリアを目指していく。

 

「うわ、迷路状になってやがる。」


「これはきついっすね。」


 先行している埼玉さんとサスケの目の前には、迷路状になった森があった。

 フィールド型ダンジョンたる所以である。

 

「これか。注意しながら進むしかないだろう。」


 フォーメーションを確認したのち、迷路状の森に入っていく。

 


「気配がやばすぎるっす。」


 サスケが埼玉さんに止まれの合図をして、あたりを警戒する。レーダーの反応もなく、特に人影はないようだが、確かに妙な気配がしていた。

 サスケは足元の木の枝を拾うと、目の前の通路に投げてみた。投げられた木の枝は、急に伸びてきた蔓のようなものに絡め取られた。

 

「人食い蔓みたいっすね。」


 埼玉さんの顔色が真っ青だ。人食い蔓も危険だが、それよりも、人食い蔓をあっさり見破ったサスケに脅威を覚えていた。いまさらだろ、という気もしないでもないのだが。

 

 人食い蔓とか、接近戦はもってのほかなので、見当をつけて焼き払うことにする。森の炎上が怖いが、頑張って消火していくしかない。

 

 静岡さんが、指定された周辺にピンポイントでファイアを打っていく。森が燃え上がると、断絶魔のような悲鳴がしてきた。

 悲鳴がとまったところで、赤坂がウォーターで消火していく。俺と千葉さんも、周りの木を切って、火が燃え広がるのを抑えていく。しばらくして、消火が完了した。

 人食い蔓は、周りの木ごと灰になったようだったが、動物と思われる骨が散乱していたところがあるので、そこにいたのだろう。

 しかし、レーダーに映らないタイプの魔物は厄介だ。

 

 さらに奥へと進んでいくと、道が分かれていた。

 

「さてどっちかね。」


 埼玉さんとサスケが足跡などから情報を得るため、地面の様子を調べ始める。


「こっちに向かう足跡のほうが多いかな。」


「そうっすね。魔物がそっちに向かうのが多いっすね。そっちが正解だと思うっす。」


 俺とかだと、運だのみでエイヤで決めそうだが、この二人は魔物が多く通る方が奥に向かう道だと判断していた。少ない方は行き止まりか罠があるはず、とのことだ。そんな確認の仕方があったとは・・

 ちなみに、その足跡を見せてもらったが、思った通りまったく分からなかった。

 

「なあ、赤坂。これ分かるか?」


「いえ、さすがにこれはわかりません。」


「お前達、それ分かる奴はめったにいないぞ。おれとか静岡でもわからん。」


 分からないのが俺だけだとちょっとへこむが、わかるほうが珍しいのであれば、ちょっと安心した。

 

「じゃあ、先進みますよ。」


 そういって、埼玉さんとサスケが先行していった。

 

 

「レーダーに反応あります。」


 一斉にレーダーを確認すると、左前方にレーダーの反応があった。しかも数が多い。

 レーダーは数や場所は分かるが、魔物の種類までは分からない。ゴブリン程度ならなんとかなる数だが、さらに上位の魔物だと厳しい数とも言えた。

 

「とりあえず見てくるっす。」


 サスケが状況を確認しにレーダーの反応のあるほうへ向かっていく。

 俺達は周囲を警戒しつつ、サスケからの連絡を待つ。

 

「これはまずいっす。」


 サスケが見たものは、こちらに向かってくるゴブリン、ホブゴブリン達だった。


「流石に戦闘は避けたいところか。」


 千葉さんも悩む状況である。


「だったら、迂回すれば?」


「「え?」」


 一斉に花子を見る。

 

「ここは森でしょ。木を切れば道ができるし。」


「なるほど、その手はあるな。」


 千葉さんがうなずく。花子ならではの常識がない、力ずくの作戦だ。でも、欠点もある。

 

「でも、作った道を奴らは負ってきますよ。」


 そう、静岡さんの言うとおりだ。


「いっそのこと、森ごと燃やしちゃえば?」


「いや、俺達も一緒に燃えるから。」


「なるほど、その手は使えますね。」


 なんか、赤坂まで常識がなくなりつつあるようだ・・

 

「どういうことだ?」


 千葉さんが怪訝そうに赤坂を見る。

 

「道を作って、そっちに逃げたように見せかけます。で、そっちに向かったところで壁で囲って火をかけて燃やしてしまえばどうでしょうか。」

「「なるほど。」」


 赤坂の法外なMPがあってこその作戦だが、さっそく行動に移す。サスケには、監視をたのみ、俺達は道を作っていく。

 無理やり変えさせられた試作品の剣だが、恐ろしいぐらいに性能が良かった。前の剣ではせいぜい10cmぐらいの木を切り倒すのが限界だったが、この剣は30cmぐらいでもあっさり切り倒せた。間違いなくいえるのは、俺の腕ではなく剣の性能だ。

 

 そうして、わずかに曲がって奥の行き止まりが見えないようにした道を切り開いていく。

 その間に、俺達が隠れるスペースもあわせて作っていった。

 

「そろそろお出ましだ。」


 見張りをしていた埼玉さんから連絡がはいり、俺達は偽装されたスペースに隠れる。

 

 しばらくして、約50匹ほどの魔物達がやってきた。魔物達は、俺達が作った道を発見するなり、立ち止まる。

 リーダーと思われるホブゴブリンが何体か話をしているようだ。しばらくして、30ほどの集団が、作った道に進んでいった。

 

 千葉さんが合図を出す。

 

「ウォール」


 赤坂によって、道が土の壁であっという間に囲まれる。それにあわせて、俺達はその場に残った20匹ほどに襲い掛かる。

 混戦といえば混戦だが、ゴブリンを中心とした20程度の敵など、俺達の一方的な殲滅戦だった。

 

 静岡さんが、空に向かってファイアを放つ。

 

「え?」


 そのファイアは、なんと放物線を描きながら、森に着弾していった。

 本来魔法は重力の影響を受けないため、威力がなくなるまでまっすぐ進んでいく。それが、カーブしていたのだ。

 

 サスケや花子も、一瞬それに気を取られるが、すぐに戦闘に集中する。

 

 着弾したファイアが壁の中の森を燃やしていく。土の壁の向こうから、魔物達の悲鳴が聞こえてくる。

 俺達は通路の魔物達を倒していき、悲鳴が聞こえなくなるころには、残った魔物も全滅していた。

 そして、壁の内側は完全に燃え尽きたようだった。

 

「じゃあ、壁の撤去しますね。」


「いや、赤坂ちょっと待て。」


 俺は、あわてて赤坂を止める。

 

「壁の中って、丸焦げになった皆さん方がいるんだよな。ちょっとそれはきついぞ。」


「・・・ たしかにそうですね。」

 

 土の壁については、結局その向こうに広がるであろう景色を想像すると、そのままにしておこう、ということになった。

 そのうち、風化して崩れるだろうけど。

 

 さらに奥に進んでいった。先ほどの戦闘はおそらく感知されているであろうから、それなりに戦力がでてくるかと思っていたが、しばらくは小規模な戦闘のみが続く。

 

 日も暮れ始めてきたため、場所の確保をして野営の準備をすることになった。

 

「静岡さん、さっきのファイアって曲がってましたけど、魔法って曲げられるんですか。」


 サスケや花子も手を止めて、うなずいていた。

 

「あ、あれ? 説明難しいんだけど、魔法を放つ瞬間に、こう曲げるようなイメージをすると曲がるんだ。」


 ああ、なんとなく理解できそうで出来ない。

 

「赤坂も出来たりするわけ?」


「ええ、曲げるだけなら出来るんですが、どのくらい曲げるとかというコントロールまでは出来ないです。」


 つまり、静岡さんぐらいの精度がないと、実用は無理ってことか。

 なんか、花子がフックとかアッパーの練習し始めたが、それは違うからな。

 

 食事を済ませ、寝ることにする。今日の見張りは、前半がサスケと花子で、後半が俺と赤坂だ。

 

 

 サスケに起こされて、見張りの交換をする。謹製テントを出ると、赤坂がすでに居た。

 状況の引継ぎをするが、特に魔物の動きもないようだった。花子とサスケが謹製テントに入るのを見送る。

 

「なんか、サスケと花子はうまくやれてるみたいね。」


「ええ、サスケは誰とでもうまくやれる子ですから。」


 戦闘してよし、見た目よし、コミュニケーションスキルありとか、お前は主人公かっての。

 

「あ、でも沖田さんも素敵ですよ。」


「へ?」


「え?」


 赤坂が真っ赤な顔をしている。どうも、俺がいらっとしたような表情をしたようで、そのフォローをしたらしい。

 でも、なにも真っ赤にならなくても、と思うが。だったら、こっちも恥ずかしくなるから言うなと。

 

 ちょっと場の雰囲気が気まずくなってきたので、周囲の警戒に向かうことにした。

 俺はサスケほど気配を感じることができないので、時々レーダーをチェックしながら進む。

 森は静かだった。魔物は夜に活動するという話を聞いたことがあるが、魔物も寝てるんじゃないかと思えるほどだ。

 このダンジョンは、いまのところホブゴブリンがでたぐらいで、魔物の種類はそれほど多くなかった。また、その数も一度50匹ぐらいの集団がいだけで、あとは少数ばかりだ。

 いまの状況だけだと、このダンジョンがこれほど広がっている理由がつかめない。これほど広がるためには、大量の魔物による瘴気の拡大か、ボスが異常に瘴気をもっているか、ぐらいである。今の可能性としては、ボスの瘴気量が多いのだろう。

 

 そんなことを考えているうちに、何事もなく赤坂の元に戻ってきた。

 赤坂に、特に異常がないことを伝えると、赤坂も何も無かったと返事をしてくる。

 やることも無かったので、剣の手入れをし始める。

 

「あ、その剣て新しいのですよね。その装備も。どうですか。」


「これ? 試作品とかいってたけど、ものすごく性能いいよ。前の装備には、もう戻れないぐらい。でも値段考えると、ものすごく怖いけどね。」



 沖田には知らされていないが、その装備は沖田には手が出ない値段だった。そもそもローンとかいったら、数十年レベルでの支払いが発生する。

 でも、その装備を見る赤坂は、ものすごくうれしそうだった。

 そして、この時間が永遠に続けばいいのに。赤坂の思いに反して、夜が明けていく。

 

 

 翌朝も、さらに奥へと進んでいった。昨日に比べると、魔物の数が少ないような気がする。

 順調に奥へと進み、昼食をとることにする。昼食の準備をしている間に、千葉さんがセンターへ連絡を入れる。

 

「俺達以外もこのダンジョンに入り始めている。ギルドから結構な数の冒険者がこのダンジョンに入り始めた、という情報があった。それに別チームも参加しているそうだ。」


 魔物の数が減っているように感じるのは、戦力を分散し始めたのが原因のようだ。魔物達の動きが活発になる可能性もあるが、俺達にとっては戦力が分散されるメリットの方が大きい。

 あと、リモートを使ってアメリカ支部のアーノルド達も参加しているらしい。ひょっとしたら、鎌を振りかざすミランダを見れるかもしれないな。

 

「それと、第一陣は無事到着だそうだ。トラックの台数を増やして、明日で引越しも終わらせる予定らしい。」


 現状、ダンジョンの調査すら終わっていないため、避難が完了するのはありがたい。仮に村に戻れるとしても、かなり先になりそうなので、安全な場所への避難はどのみち必要だ。

 

 昼食を済ませると、午後の行動を開始する。

 瘴気の量は増えているが、魔物の数は少なくなっているのがはっきり分かり始めた。分散の効果だろう。

 しかし、ホブゴブリンが確認できている以上、冒険者側の被害も少なからず発生する可能性はある。ダンジョンなどにおける被害は自己責任で、無理をして怪我などをするのも自分のせいなので特に止めることも無いし、レベルの足りないチームなどはギルドが止めてくれるはずである。

 

 俺達は昨日より早いペースで進んでいく。

 

 

 先行していた埼玉さんとサスケの足が止まる。

 

「なんだ、あれ・・」


「埼玉さん、あれ・・ ちょっとヤバそうっす。」


 二人の目の前には、森に囲まれた黒い城のようなものがあった。

 

 

「なんだと?! 合流するまで待て。」

 

「千葉さん、どうかした?」


 静岡さんが、動揺している千葉さんに驚いていた。俺もこんな千葉さんは始めてみる。

 

「あたりを引いたようだ。森の奥に城のようなものがあるらしい。」


「「城?!」」


 一斉に驚く。なんでダンジョンの奥に城があるんだ? ひょっとして魔王の城とか?!

 

 千葉さんがセンターに報告を終えると、埼玉さん達に合流すべく先を急ぐ。



「なにあれ! ひょっとして魔王の城とか?!」


「花子、俺に聞くな。俺も初めてみる。」


 サスケは埼玉さんと、なにやら話しこんでいるが、赤坂を見ると流石に言葉がでないようだ。

 千葉さん達もその様子からすると、やはり初めて見たようだ。

 

「いや、魔王の城なら何度か見たことがあるが、あれほどのものは流石に初めてだ。」


 見たことあるのか。って、あれはやっぱり魔王の城なのか。道理でやばそうな雰囲気でいっぱいだ。

 

「とりあえず、あれは流石に手がだせない。1課の到着を待つ。」


 千葉さんの指示により、俺達はベースキャンプを設営する準備を始めた。


ようやく22話UPしました。あともうちょっとです。

最初は続きとか、まったく考えていませんでしたが、ちょっと思いついたものがあるので、第2章的に続けるかもしれません。

といっても、いつになるのかは不明ですが。


あ、ブックマークとか、評価とかありがとうございました。

これって、かなりモチベーションあがりますね。

順調にいけば、来週か再来週ぐらいに次話UP予定です。

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