21.赤坂の秘密
■■21.赤坂の秘密
柔らかな日差しで、目が覚める。ベットから降りると、大きく伸びをして、カーテンを開けると、今日も良い天気だった。
こうして、赤坂の一日が始まる。
赤坂は、会社のそばの3LDKのマンションに一人で住んでいた。当初は寮に入ろうと思ったのだが、寮の部屋は狭すぎた。
実際、3LDKにすんではいるが、1部屋は魔法少女の特注装備置き場になっており、もう1部屋は魔法少女のDVDや資料置き場になっていた。そして、私服などは寝室に置いてある状態になっている。リビングは来客が来たときのために、なるべく物が無い状態にはなっているが。
「えっと、クリーニングはこれだけだよね。」
休みの日には、装備をクリーニングに出しに行く。赤坂の装備は特注品なので、通常の洗浄は使えず、個人でクリーニングに出しに行く必要がある。といってもその辺のクリーニング屋では、エンチャント類などの関係もあり扱ってもらえない。よって、開発部ご指定の真田クリーニングに出しに行く必要があった。真田クリーニングは、開発部の真田課長の実家だったりする。
しばらくすると、インターホンが鳴った。ドアを開けると、執事のようなカッコをした男が恭しく礼をしてくる。
「お嬢様、おまたせいたしました。」
「ご苦労様。ではまいりましょうか。」
装備の入った大きな袋をもって、マンションの入り口にいくと、黒塗りの高級車がとまっている。そのトランクに袋を入れると、赤坂は後部差席に座る。以前は、執事が袋を持つ、持たないでもめていたのだが、かたくなに赤坂が自分でやる、と言い張ったため、今では執事は残念そうな表情こそすれど、手は出してこなくなった。
車が真田クリーニングに着くと、赤坂は袋を持って、店内に入っていく。
真田クリーニングという名前だけだと、町のクリーニング屋っぽいが、ちょっとしたデパートなみの大型店舗である。1階こそ普通のクリーニング屋であるが、2階は高級品や特殊なものの受け付けをしている。ものすごく金持ちそうな人から、近所の主婦まで、さまざまな種類のお客でごった返しているのであった。
2階の横の方にある、特別カウンターに進むと、受付の女性が袋を受け取り、中身を確認していく。奥から、真田課長に似た男性が顔を出す。
「やあ、紅さん、じゃなくて、赤坂さんか。」
赤坂は、ちょっと困った顔をするが、すぐにその男性に微笑みかける。
「お邪魔しております。また、よろしくお願いしますね。」
「まかしておけって。それに、あれはうちじゃないと出来ないしね。」
男性はそういうと、忙しそうに奥にひっこんでいく。この男性は真田課長の兄で、真田クリーニングの跡取りだ。真田課長同様、技術屋であるが、その興味がクリーニングにしかない。ただし、その類稀なる才能が生み出すクリーニング技術と機器から、クリーニング界の神と呼ばれる逸材であるが。
赤坂は、クリーニングが終わった装備を受け取ると、ニッコリ微笑んで車に戻っていく。ちなみに支払いは、うん万円なのだが、実家のつけだったりする。
赤坂を載せた車は、高級住宅地にはいっていき、大きな家の門の中にはいっていく。サスケの家の近くだったりする。
家の表札には「青山」と書かれていた。赤坂の本名は、青山紅という。赤坂恵は勇者サービスに勤めるにあたってつけられた偽名である。
青山家は、青山財閥といえば、誰でも知っているぐらいの名家だ。そして、沖田達の会社も、サスケの親の会社も、青山財閥のグループ会社である。赤坂恵、いや青山紅は、青山財閥会長の孫であり、社長の娘だ。そしてその兄達も、役員など、主要な位置を占めていた。
そして、魔法少女クレナイのモデルは、青山紅だった。魔法少女クレナイの作者は、青山会長の友人であり、孫が紅と同級生であった。なので、赤坂は青山会長に連れられてくることや、また孫を訪ねてくることもあったので、幼少のころより顔なじみだった。
孫にせがまれて魔法少女クレナイを書くにあたって悩んだ時も、当時怪我をして落ち込んでいた紅を励ますような作品を書こうと思い立つにいたったのだ。そして、当時、紅がはまっていたという、魔法少女になれる話を書くことで励まそう、というのが魔法少女クレナイの誕生秘話である。
そんな紅が、就職先として選んだのが勇者サービスの戦闘職だった。お嬢様である紅が戦闘職を選ぶというのは、世間一般からすれば非常識といわれかねないが、青山家はその辺に柔軟だった。紅が会社経営に参加せず、する必要も無かったし、するつもりもないというのも、大きい。
また、よく言われる政略結婚というのもなかった。青山家クラスになると、進んで親戚になりたいほどの家柄はなく、むしろ先方からせがまれる立場にいる。よって、紅が会社経営に関与し、ほかから夫を受け入れるというのは、夫次第では結構面倒な話になっていく。紅自体も、会社経営にかかわるつもりがなく、そのような目的の男性を夫とすることもなかったが。
赤坂としては、魔法少女になりきれる職場、という点で選んだのであった。そしてもう一つ、それを認める大きな理由があった。
赤坂が30畳ほどもあるかと思えるほどのリビングに入ると、そこには、赤坂のおじいさんである青山会長、両親の青山社長夫妻が座っていた。
「紅、よく来たな。」
「おじい様、ご無沙汰しております。」
「元気そうでなによりだ。」
赤坂の両親も、娘の顔を笑顔で見ていた。
「沖田の孫はどうだ。元気でやってるか。」
「ええ、沖田さんは、りっぱなリーダーですわ。サスケも崇拝しておりますわ。」
「ほー、あの服部の倅も認めているのか、父さん、彼はなかなかの人物のようですね。」
「あの沖田の孫だ。当然だろう。」
青山会長と、沖田のおじいさんは、昔戦争で同じ部隊にいた。
あるとき、その部隊が詰めていた拠点を敵の主力が攻めてきて、あっという間に包囲されてしまった。そして、一応の応戦はしたものの劣勢に追い込まれ、部隊は徐々に被害が増えていき、指揮官達もあきらめムードになっていった。
そんな時、無気力化した指揮官達を尻目に、残された者たちの指揮をとり、奇跡ともいえる脱出劇を成し遂げたのが、沖田のおじいさんだった。しかしその武勲は、そもそも司令部の采配ミスが引き起こしたということもあり、自分達の失敗が広まることを恐れた指揮官達の手回しにより、広く知られることは無かったが、一部では非常に有名な話だった。
そして、その脱出劇の中に青山会長もいたのである。当時、司令部の下っ端だった会長は、無気力化した指揮官達にやる気を出させるために奔走したが、効果もなく己の無力さを感じていたのだった。そんな中で、一般兵であった沖田のおじいさんの活躍を目の当たりにしたのだった。
終戦後、青山会長は、沖田のおじいさんを青山財閥に誘ったのだが、静かに暮らしたいと断られたそうだ。復員した沖田のおじいさんは、地元に戻り結婚し、沖田の父親が生まれた。
青山会長は、沖田の父親も青山財閥にさそったが、これも断られた。
実は、沖田家は現代の勇者の家系であり、その地に眠る魔王を封印するという宿命を持っていた。そして、なぜか沖田家は男子が1名しか生まれなかった。ゆえに青山会長の申し出を断り続けていたのである。
しかし、沖田の代でなぜか二人の男子が生まれた。沖田の兄と、沖田である。沖田が生まれたとき、沖田の祖父は運命を感じた。
結果として、そのことは沖田には知らされず育てられ、その運命に導かれるように、沖田は青山財閥グループの勇者サービスに就職した。このことについて、沖田のおじいさんや父親は、沖田には何も言わなかったらしい。
また、赤坂も沖田のおじいさんと会長が知り合いである、ということまでしか知らされていないし、青山会長も、沖田家が勇者の家系であることまでは知らなかった。
勇者サービスでは、沖田がそのような経緯の、青山会長にゆかりのある人物だとはいざ知らず、採用してから大騒ぎになった。
沖田の入社を知った青山会長が、勇者サービスに乗り込んできたのである。
しかし、最終的に青山会長の指示は、このとこは極秘とし一般社員として扱うこと、であった。
そして、赤坂も勇者サービスを選んだ。普通に考えれば、娘にはあまり選んで欲しくない職業であるのだが、勇者サービスには代々青山家に仕える永倉家の息子もいるし、沖田もいた。
ちなみに、永倉家は代々青山家に仕えており、青山財閥の要職にも着いていた。1課の永倉もそうである。
紅は永倉と沖田に任せる、という条件で、赤坂は勇者サービスに入社した。その際、青山家とのつながりを隠すため、赤坂恵という名前がつけられたのである。そしてこのことを知るのは、ごく一部のものだけであった。
永倉は、赤坂の上の兄の同級生でもあり、昔から青山家に出入りしていた。よって、幼少のころの赤坂も知っており、殆ど妹のようなものだった。そんな赤坂が勇者サービスに入るにあたって、青山家の面々から直々によろしく頼むと頭を下げられたときには、流石の永倉もどぎまぎしてしまった。
その後、サスケの入社が決まったところで、サスケも同じチームに配属させる。サスケの暴走は想定外だったが、もともとサスケは赤坂とも面識があったし、優秀であったため、赤坂の護衛にはもってこいだった。
赤坂も当初は沖田を見下すようなことがあったようだが、今では沖田と一緒に居られることが嬉しくなっていた。
さらに、赤坂はこのまま沖田と一緒に居られるなら。「青山紅」ではなく、赤坂恵として生きていくのもいいかな、と思い始めていた。
青山紅を捨てる必要はないのかもしれないが、沖田に相応しいのは赤坂恵ではないか、という思いもあった。
正直、沖田にしてみれば、青山紅でも、赤坂恵でも、どちらでも違いはないのであったが。
むしろ、青山紅であれば、沖田にとっては特別装備の費用の出所にも納得がいくし、魔法少女クレナイのモデルという対沖田の強力な武器にもなりえるのであった。
家族との夕食をすませ、赤坂は執事に送られてマンションへ帰っていった。
風呂上りに鏡の前でじっと自分の顔を見ていた。そして、その手に持った猫耳のカチューシャを着けて、ポーズをとる。
「にゃん。」
赤坂の手元には、30をこえる猫耳があった。見つけるたびに買い集めていたのだ。
先日、沖田がサキュバスに魅了されたときに使ったのも、このコレクションである。
自分が猫耳をつければ、サキュバスの魅了にも勝てるはず、という訳の分からない自信は、こういう日ごろの努力?からきていたのである。そして、実際に勝っているのだが。
一通りの確認をして、満足したところで時計を見ると、もう寝る時間になっていた。
明日は会社で沖田にあえる。そしてどんな仕事がまっているのだろうか。
以前から気になっていた、沖田の装備についても、対策が終わって一安心していた。
沖田は最前線で敵と向かい合っているにもかかわらず、3人の中では一番装備が弱かった。これは赤坂の最も懸念すべきポイントだったが、ブラックシャドウの新型装備を沖田用にカスタマイズしたものを、試作品として渡すことが出来ていた。
カスタマイズに当たっては、永倉や真田課長、サスケなどの協力もあり、効果は十分のようだった。
猫耳をしまい、ベットにもぐりこんで電気を消す。
「おやすみなさい、沖田さん。」
沖田には聞こえるはずのない、おやすみの挨拶をして、赤坂は静かに寝むるのだった。
独身寮のとある一室で、ひたすらレンタルした魔法少女シリーズを見入っている男がいた。
「ああ、この間のカッコはこれだったのか。」
ようやく10本目にして、目当てのキャラクターを見つけることができた。
別に検索すれば出てくるだろうと思うが、本編を確認する、という訳の分からないこだわりがあった。
「うわ、やべぇ。こんな時間か。寝ないと明日きついな、これは。」
沖田はあわてて片付けると、布団にもぐりこんだ。
「おやすみ。」
ちょっと気持ち悪いが、この男もにやけながら聞こえないおやすみの挨拶をしやがってた。
爆発しとけや、まじで。
21話です。ちょっと短めです。
22話以降は難航気味なので、再来週になるかもしれません。




