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暁なき世界の覇王   作者: 未記入です。


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第十一話 揺らぎ始めた日常

第一章 神に忘れられた子

朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。


アルヴェインは、ベッドの上で目を覚ました。


三ヶ月を迎えたばかりの身体は、まだ思うように動かない。


手足を動かし、寝返りを試みる。


しかし、身体は思ったようには動いてくれなかった。


(……もう少し自由に動ければな)


前世では当たり前にできていたことが、今では一つ一つ難しい。


歩くことも、言葉を話すこともできない。


知識だけが先に成長しても、身体が追いつかなければ意味がない。


アルヴェインは小さく息を吐いた。


「ん? アルヴェイン、起きたの?」


部屋に入ってきたのは、エリシアだった。


彼女はベッドのそばまで来ると、優しく顔を覗き込んだ。


「今日はご機嫌ね」


アルヴェインが手を伸ばすと、エリシアはその小さな手を指で受け止めた。


「ふふ。握ってくれた」


(いや、たまたまだ)


そう思いながらも、アルヴェインは彼女の指を握り続けた。


そのとき、魔力視が自然と働いた。


エリシアの身体を流れる魔力。


以前よりも、少しだけ細部が見えるようになっている。


魔力は血管のように身体の各所へ巡り、一定の周期で流れていた。


しかし、よく見ると、胸元から肩にかけての流れがわずかに乱れている。


(またか……)


以前も似たような乱れを見たことがある。


だが、今回は違った。


乱れの周囲に、ごく薄い膜のようなものが重なっている。


魔力そのものではない。


それは、エリシアの身体を取り巻く空気に近い場所に存在していた。


(これは何だ?)


アルヴェインが目を凝らした瞬間、視界が揺れた。


《未知の構造を検出》


《分類:判定不能》


《既存の魔力構造との一致率:低》


(また新しいものか……)


それ以上見ようとしたが、視界がぼやけた。


長時間、魔力視を使い続けるのは難しい。


アルヴェインは目を閉じた。


「眠くなっちゃった?」


エリシアが笑い、毛布を整える。


今は無理をする必要はない。


少しずつ、確かめていけばいい。


     ◇


同じ頃、クロイゼル公爵家の執務室。


グレイヴは、北方山脈から届いた報告書を読んでいた。


報告の内容は、先日の石柱についてだった。


石柱の反応後、周囲の魔物の行動に変化が見られたという。


普段は人里に近づかない種類の魔物が、山脈の奥へ移動している。


一方で、群れで行動する魔物の一部は、縄張りを捨てて南へ向かっていた。


「魔物が逃げているのか……」


グレイヴは報告書を机に置いた。


魔物が人里へ向かうこと自体は珍しくない。


だが、今回の動きは明らかに不自然だった。


何かから逃げている。


あるいは、何かに追い立てられている。


「閣下」


扉の向こうから声がした。


「入れ」


入ってきたのは、北方調査隊の隊長バルドだった。


「直接報告に参りました」


「石柱の件か?」


「はい。あの反応以降、山脈の様子が変わっています」


バルドは地図を机に広げた。


「こちらが石柱の発見地点です。そして、赤で印をつけた場所が魔物の移動を確認した地域になります」


グレイヴは地図を見つめた。


移動経路は一見ばらばらに見える。


しかし、いくつかの群れの動きを結ぶと、奇妙な共通点が浮かび上がった。


「……中心は石柱ではないな」


「はい。石柱からさらに北。現在、調査が困難な地域です」


「何がある?」


「分かりません。ただ、古い地図には何も記されていません」


グレイヴは腕を組んだ。


「調査隊を増やす。だが、深入りはするな。異常を確認したら、必ず撤退しろ」


「承知しました」


「それと、石柱には二度と触れるな。反応を再現しようとすることも禁止する」


バルドは深く頭を下げた。


「かしこまりました」


報告を終えたバルドが退室すると、グレイヴは机の引き出しから古い記録を取り出した。


六百年前の記録。


名もなき旅人。


魔力を持たず、魔法を使わず、それでも世界を見通した人物。


そして、六角形の紋章。


「アルヴェイン……」


息子の名を口にする。


まだ何も確かなことは分からない。


だが、北方で起きている異変と、息子の周囲で起きている現象。


それらが無関係だとは思えなかった。


     ◇


昼過ぎ。


アルヴェインの部屋に、レオンハルトがやってきた。


「アルヴェイン!」


扉を開けるなり、兄は嬉しそうに近づいてくる。


「今日は新しいことを覚えたんだ」


その手には、小さな木製の人形が握られていた。


「これ、父上が作ってくれたんだ。魔力を使う練習にちょうどいいって」


レオンハルトは人形を机に置いた。


それは人の形をしているが、手足の関節が動くように作られている。


「ここに魔力を流すと、腕が動くんだ」


レオンハルトが指先を人形に添えた。


淡い光が指先から流れ込む。


すると、人形の右腕がゆっくりと持ち上がった。


「できた!」


レオンハルトは笑顔を見せた。


(魔力を使った簡単な操作術式か)


アルヴェインは人形を見つめた。


魔力視を使う。


人形の内部には、細い魔力の通り道が組み込まれていた。


魔力を受け取る部分。


流れを分岐させる部分。


そして、関節を動かすための仕組み。


その構造は、以前見た母の浮遊魔法とは異なっていた。


だが、根本には共通点がある。


魔力を受け取り、一定の形に整え、目的に沿って動かす。


(やっぱり、魔法の基本は構成にあるのか……)


アルヴェインは人形を見つめ続けた。


すると、胸元の紋章がわずかに熱を帯びた。


《構造情報を取得》


《対象:簡易操作術式》


《既存構造との共通点を検出》


《解析率:0.06%》


数字はほんの少しだけ上昇した。


しかし、アルヴェインはそれ以上に気になることがあった。


人形の魔力が流れる瞬間、その周囲に一瞬だけ別の線が見えたのだ。


魔力の通り道とは違う。


人形を動かすための構造とも違う。


まるで、動いたという事実そのものが、どこかへ送られているようだった。


(記録……なのか?)


そう考えた瞬間、その線は消えてしまった。


「アルヴェイン?」


レオンハルトが顔を近づける。


「そんなに気に入った?」


アルヴェインは声を上げた。


「あう!」


「ははっ。そうか、欲しいのか!」


レオンハルトは人形を持ち上げた。


「大きくなったら、これよりもっとすごいものを作ってあげるよ」


(期待してるよ、兄さん)


アルヴェインは小さな手を伸ばした。


     ◇


夕方。


セレスティアはアルヴェインを抱きながら、窓の外を眺めていた。


庭ではレオンハルトが木剣を振っている。


少し離れた場所には、訓練を見守るグレイヴの姿もあった。


「アルヴェインは、どんな子に育つのかしらね」


セレスティアが穏やかに呟く。


「お兄様みたいに剣が好きになるのかしら。それとも、お父様みたいに魔法が得意になるのかしら」


アルヴェインは母の胸に頬を寄せた。


(どちらでもいい。まずは自分の足で立てるようにならないとな)


「ふふ。まだ分からないわよね」


セレスティアは彼の額に口づけた。


「でも、あなたがどんな道を選んでも、私は味方だからね」


その言葉に、アルヴェインは目を閉じた。


この世界に生まれてから、何度も思ってきたことがある。


自分は何者なのか。


なぜ魔力を持たないのか。


なぜ世界の記録に存在

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