無職の魔女 マリアッチ
麻薬輸送用道路が開通し、麻薬販売は軌道に乗った。
現地のことはサメンフントのやつに任せている。奴は信用が武器だと心得ている。大丈夫だろう。
クリオ「まぁ、それでエンハンブルクの奴らがどうなろうが自己責任さ。」
その金で鉱山開発も始まり、鉄器の試作品が私の執務机に並べられた。
ノワール「これホントに使えるの?なんかイビツなんだけど?」
アルゲン「食器は問題ないでしょうが……」
イスキア「ルーカーの塵遁ならどんな、なまくらでもスパスパですよ。」
ルーカー「いや、俺が使うわけじゃないし……」
ノワール「そう言えば、ヴァイスは?」(ソワソワ)
私はいつもそばにいる子分がいないので、ちょっと、落ち着かなかった。
アルゲン「朝の散歩に出かけられておられます。」
イスキア「もう暑くないですし。」
ルーカー「マスクで乾燥せずに済むでしょうしね。」
クリオ「心配ならついていけば?ノワールは運動不足なんだし。」
え?そうかしら?
自分の最近の運動を思い返してみる。
麻薬畑、ゴブリンの巣への往復登山。
馬の遠駆け。
メイドとSMプレイ。
アヌビス被ってヤクザのアジトに押し入り強盗。
アレ?言うて運動不足かな?
そうこうしていると、屋敷の庭が騒がしくなる。
ノワール「何?」
アルゲン「ルーカー見てこい。」
ルーカー「りよーかい!」
イスキア「ノワール様のヤッタ爬虫類でも地面から出てきたんですかね?」
ノワール『なんで知ってるの……』
ヴァイス「ルーカー、手伝って!」
ルーカー「うわ!どうしたんですかその人!?」
ルーカーが玄関まで来ると、ヴァイスが玄関に入ってきた。
そのヴァイスはメイドと共に気を失ってる女性を両脇を持って抱えていた。すぐさまルーカーはメイドと交代する。
ヴァイス「僕も詳しくは知らない。けど、道端で倒れてたんだ!」
ルーカー「早くベッドに運びましょう!」
客間のベッド
ノワール「誰コレ?」
私はヴァイスが連れてきた変な女性を指さした。
閉じたその目には濃いクマ。ボサボサのセミロング位の銀色の髪。ここらでは見ない形の服。でっかい丸メガネ。
そして羨ましい、でっかい胸……
アルゲン「服装からして東洋人ですかね?」
イスキア「でもお肌張りや顔の骨格は、平たい顔族のじゃないですよ?」
ルーカー「くちびるがカサカサだぞ?」
アルゲンが頷く。
アルゲン「何日か食べてないな……」
ぐぅぅぅ……
ノワール「…………」
イスキア「わ、私じゃないですよ!」
一同は寝ている女性を見やった。
ヴァイス「空腹で目を回したのかな?」
ルーカー「やれやれ。」
アルゲン「仕方ない。イスキア、厨房で何か見繕って食べさせてやれ。」
イスキア「はーい。」
朝食の残りのスープの匂いに女性は飛び起きた。
ズズズ……
女性は一心不乱にスプーンでスープをかき込んでいる。
イスキア「コレもどうぞ?アンパンっていうんです。」
女性は奪うようにイスキアの手からアンパンを取るとムシャムシャと食べ始めた。
モグモグ
イスキア『いい食べっぷりだなぁ』
美味しそうにアンパンを食べている女性をイスキアは満足げに眺めていた。
ルーカー「アンパン信者を増やす活動してやがる……」
ヴァイス「この辺のパン屋でも最近売り出したんだよね、アンパン。」
ノワール「イスキアが売り込みかけたんでしょ?」
イスキアは恥ずかしそうにエヘヘと笑う。
女性「た、助かりましたー!もう何日、食べてなかったのやら!」(モグモグ)
ノワール「自分でも覚えてないの?」
ヴァイス「ていうか、君の名前は?」
マリアッチ「私はマリアッチ。こう見えて魔女ですよ!」
ルーカー「魔女のクセに空腹で行き倒れてんのか……」
マリアッチ「いやー、お金がなくて……」
マリアッチは照れくさそうに左手で後頭部をかいた。
ボリボリ…
ルーカー『すげーフケだな。』
アルゲン「い、イスキア、マリアッチを風呂につれていけ。」
青ざめたアルゲンが言う。私もそんな顔をしていたと思う……
イスキア「え?は、はーい。」
マリアッチ「食事のみならず、お風呂も!?貴方がたは神様ですか!?」
ノワール「早く行きなさいよ。」
マリアッチは頭を深く下げながらお礼を言うとイスキアと共に部屋を出た。
アルゲン「ノワール様。」
ノワール「好きにしなさいよ。」
ちょっと、ウンザリしてきた私は投げやりに応えた。
ヴァイス「え!?彼女をどうにかするの?!」
ノワール「?ヴァイスがどんな想像してるか知らないけど、殺しはしないから安心なさい。」
ヴァイス「てっきり、ノワールが胸に嫉妬したのかと……」
ノワール「おこるわよ!」
コン!
ヴァイスのデスマスクを小突く。
ヴァイス「あいた!」
ノワール「ごめんなさいは?!」
ヴァイス「ご、ごめん!なさい!」
ルーカー『気にしてんだ……』
アルゲン「魔女は使えます。あのようにお人好しなら、なおさらです。」
ルーカー「住んでるとこもなさそうですしねー?」
ノワール「ワイナリーの隠し部屋が空いてたわね?あそこに収まってもらいましょう。」
風呂から上がったマリアッチにヴァイスが良かったらここに住まないかと提案した。
マリアッチ「何から何まで、ありがとう!神様!部屋を追い出されて行くとこなかったんですよー!」
ヴァイス「正教会にバレるとまずいから、地下の隠し部屋になるけどいい?」
そこへ、私は部屋に入った。マリアッチはイスに背筋を伸ばして両の手を膝においている。
クリオ「……面接か?」
マリアッチ「はい!そこで大丈夫です!」
ノワール「ところで、マリアッチはー」
マリアッチ「はい!無職です!」
ノワール「…………ここで働かない?」
私の言葉にマリアッチは目を輝かせた。
マリアッチ「はい!メイドでも何でもやります!」
ノワール「いや、魔女として働いてもらおうかと。」
ヴァイス「マリアッチは何ができる魔女?」
マリアッチ「ゴ、ゴースト作成を少々!」
クリオ「簡易霊のことか?」
ヴァイス「他には?」
マリアッチ「学校は卒業しました!」
ヴァイス「え?ちょっと……」
グイッ
私はヴァイスを捕まえて耳元で囁いた。
ノワール『他は何もできないってことよ!』「マリアッチ?交友関係は?」
マリアッチ「た、たくさんお友達だった、人がいました!(タブン……)」
クリオ「命令コードは書けるんだよな?」
ノワール「うちの鉱山で働いてる屍兵くらいは書けるのよね?命令コード。」
マリアッチは目が泳いで言い淀んでいる。
クリオ「嘘だろ?!」
ノワール「……マリアッチ、アナタ、成績は?」
マリアッチ「ギリギリでした……」
クリオ「無職なわけだぜ……」
無職だった魔女を地下の隠し部屋で飼育するようになって、数日
マリアッチ「できました!」
呼ばれてきてみると、マリアッチの机の上でクネクネと動く泥の人形がいた。
ノワール「何、この見てくれの悪いのは?」
マリアッチ「ゴーレムですよ!」
クネクネ
クリオ「一応、簡易霊は作れるのか。」
ノワール「あ、そうだ。クリオ出てきて。」
マリアッチ「クリオ?」
ずずずず……
私の髪の毛の一部がクリオの顔になる。
マリアッチ「ま、禍津神!?」
クリオ「授業で習うもんな!」
マリアッチ「すごい!ノワールさんは魔女だったんですね!?禍津神を飼ってるなんて。」
クリオ「飼ってる?髪の毛に居候してるだけだぞ?」
ノワール『知識はそれなりにあるのか。』「マリアッチ、今度は石でゴーレムを作れる?」
マリアッチ「やってみます!」
ノワール『できますじゃないのか……』
クリオ「石?何にするんだよ?」
ノワール「鉄器の実戦テストよ。」
後日
アルゲン「で、私ですか。」
ワイナリーにスペースを作って自分のところで作った剣の耐久テストをやる。石のゴーレム相手に。
ノワール「いざとなったら、幻術で何とでもできるでしょ?」
アルゲン「過大評価。」
ノワール「自信持ちなさいよ。」
アルゲン「忍びは謙虚であるべきです。」
マリアッチ「あのー、命令コード一応組み込んだんですけど。」
ゴーレム「グギギ……」
ノワール&アルゲン「けど?」
マリアッチ「バグったらすみません。」
ゴーレムはアルゲンに襲いかかってきた。
ガキィン!
ゴーレムのパンチで試作品の剣はすぐにひしゃげてしまった。
アルゲン「!」
周囲に霧が立ち込め、アルゲンの輪郭が歪む。
グニャ
ゴーレム「オ?ガガ……」
ゴーレムのパンチの連打はアルゲンを手応えなく突き抜ける。
どこからともなくアルゲンの声がする。
「水遁、氷結郷。」
ミシシ……
ゴーレムの体にシモがついたかと思うと瞬く間にその体は凍りついて動かなくなった。
ゴロン
ノワール「死んだ?」
ガカァ……
しばらくするとゴーレムの体はひとりでにバラバラに崩れた。
マリアッチ「ゴーストの消滅を確認。死にました。」(ガチガチ)
マリアッチは寒さで全身が震えている。
ノワール『敵対者だけ凍らせる術。久しぶりに見たわね。』
私の後ろの壁あたりから不意に声がする。
アルゲン「まだ、実戦には使えませんね、この鉄器は。」
霧が晴れるとともに壁に腕を組んでもたれていた、アルゲンが姿を現した。
ノワール「鉄器の構成から調べる必要があるわね。」
それを聞いたマリアッチが何か思いついて提案する。
マリアッチ「それなら、専門の魔女がいるんで、今度、頼みに行きましょう!」
ノワール「誰に?つか、どこに?」
マリアッチ「魔女集会。鍛冶屋のへパにゃんです!」
ノワール「へパ?」
アルゲン「にゃん?」