第八話 スライム退治はムリゲーの予感
本日3話目の更新となります。
第八話です。
ギルドと呼ばれる場所は、二階建ての幅の広い建物であった。
海賊映画で出てきそうな木材とレンガで形作られた家屋には、様々な武具に身を包んだ人々がいた。
一気に人々の雰囲気が武闘派へ変わったのを見て、緊張した俺はナナと共にギルドの中へと足を踏み入れた。
「うお……」
中はそこそこ人が多い。
受付らしき場所には人が多く並び、別の窓には手に魔物の素材らしきものを持った人が並んでいた。
その中をナナは慣れた足取りで進んでいく。
「ナナは慣れてるのか?」
「うん、素材を換金するときは私も利用してるからね」
なるほど、ドラゴンの鱗を換金していたというのはここなのか。
すると彼女は人がそこそこ少ない受付へと向かっていく。
「あ、すみません。私達、ギルドの入団試験を受けたいのですが」
「はいはーい」
慣れた様子で受付の職員が出てくる。
物静かそうな男性は、ぱらぱらと書類を捲りながら、笑みを向けてくる。
「二名様ですね。では、入団試験を受ける基準を満たすために、スライムコアを提示してください」
「「……はい?」」
すらいむこあ?
もしかして試験を受けるためにはそれが必要なのか?
俺だけではなくナナも不思議そうな顔をしていると、ギルド職員さんは苦笑した様子で説明してくれる。
「すみません! 当ギルドの入団試験を受けるためには、スライムからとれるスライムコアが必要なんですよ。ある程度の実力の証明が必要ということです」
「身分を証明するものは必要ですか?」
「? あはは、変なことを聞く方ですね。必要ありませんよ」
必要ないんだ……。
悪用されるとか考えないのかな?
やはり、ズレのようなものを感じながら、なぜか無言になるナナに代わり、俺が職員さんに話しかける。
「スライムは、街の近くにいる魔物なんですか?」
「ああ、もしかして外から来た方ですか? パワルワには長期の滞在を予定して?」
「そんな感じです。……あ、もしかして駄目でしたか?」
長くいないとギルドの冒険者にはなれないとかありそうだ。
「いえいえ、街を離れる際に手続きさえしていただければ大丈夫です。えぇと、スライムですが……街を少し出た湖近くに多く出没しますね」
湖の近くだな、よし。
この世界に来てから持ち歩いている手帳にメモしておく。
「武器はギルドで貸し出しておりますので、自由にお持ちしていただいても構いませんよ」
「あ、じゃあ、木刀……じゃなくて、木剣ってありますか?」
「木剣……ですか? 普通の剣ではなく?」
「はい」
普通の剣なんて持てるはずがないだろ。
絶対何十キロもあるだろ。
それなら、まだ木製の剣の方が武器になりそうだ。
「ナナ、君は剣はどうする?」
「え、あ、あー、私は普通のをもらっておこうかな」
「かしこまりました。では、お持ちしますね」
職員の人が奥の方へと向かっていくのを見てから、ホッと一息つく。
「ナナ、どうした? さっきから無言で」
「スライムは、まずい」
「は? まずいってどういうことだ?」
彼女から見てもそこまでヤバい魔物なのか?
いや、でもギルドで推奨されている生物だから、そこまで危険なやつではないんじゃないか?
あわあわと困っているナナに不思議に思っていると、職員さんが二振りの剣を持って出てくる。
一本は鞘に納められた剣。
もう一本は、鞘にも納められていない木製の剣だ。
「今どきオリハルコン製の剣ではなく、ただの木製の剣とは。珍しい方だ」
「は、ははは」
持てねぇなんて一言も言えねぇわな……。
てか、さらっと今オリハルコンとか言ってなかったか……?
木剣を片手で持つ。
そこそこ重いが振れないほどじゃないな。
「スライムコアは多少破損しても問題はありません。むしろ無傷な状態で手に入れるのはすごく難しいので、コアの状態に関しては気にしなくても大丈夫ですよ」
なら軽い気持ちでいってもオッケーかもしれないな。
いくらこの世界基準で強くとも所詮はスライム。
俺でも十分に倒せる相手だろう。
「じゃあ、ナナ。スライム狩りに行こうぜ」
「う、うん……」
それぞれ武器を携え俺達はギルドの出口にまで歩き出す。
いやに注目を浴びている気もしながら、僕達はスライムのいる湖へと足を運ぶ。
●
スライムが生息しているという場所は、街から歩い五分ほどにある湖の近く。
この都市の人々の魔物に対する危機感がおかしすぎると思ったが、一人一人がとてつもなく強く、子供ですらリトルオーガ呼ばわりできるほどに強いので、ある意味で納得してしまう。
「ナナ、さっきから無言だけど大丈夫か?」
「あのさ、私、スライム倒すの無理かも」
「はぁ?」
突然のカミングアウトに呆けた声が出てしまう。
スライムを倒せない……?
「もしかして、スライムもやべぇ強さだったりするのか……?」
「そうじゃなくて、むしろ逆なんだけれど……」
整地された道を歩きながら、彼女は悩まし気な声を零す。
「スライムって基本的に不死身なんだ」
「やべぇ生き物じゃん……」
「水でできているからね。心臓部のスライムコアがなくなっても再生するし、水気があればいつかは生き返るんだ」
な、なんだそういう意味での不死身か……。
いやよくねーよ、スライムでさえ規格外かよ。
「で、なにが問題なんだ?」
「それはね……あ」
すると、俺とナナの目の前に水色の丸いゼリーのようなものがぴょんぴょん跳ねて出てくる。
「キュ、キュー」
「あれがスライムか……」
意外とかわいい見た目をしているな。
一目でスライムと分かるそいつに、頬を引き攣らせたナナは剣も抜かずに俺の前に歩み出る。
「ナナ?」
「いける。頑張れ、私、いけるはず……!!」
そう自分に言い聞かせると、彼女の姿が目の前から掻き消える。
地面に焦げたような足跡が残っているのを見ると、次の瞬間にはスライムのいた場所からバチャ!! という音が鳴り響いた。
「えっ?」
そちらを見れば、地面に作られた水たまりとそこに立っているナナの姿。
掌から滴った水が、ぽたぽたと地面に落ちているところを見ると……スライムをその手で握りつぶしてしまったようだ。
「え、えーと、ナナ?」
「私さ。スライムが柔らかすぎて、加減ができなくてこうなっちゃうの……」
……。
「ナナ。今後、俺に近づかないでくれるか?」
「に、人間相手なら大丈夫だよぅっ! ちょ、ちょっと露骨に距離取らないで?!」
マジかよこの子。
強さが異次元過ぎて魔物に手加減できないとかヤバすぎる。
「フッ、分かった。ここは俺に任せておけ」
「ユーマぁ……」
しかしここでようやく俺が役に立つ時がきたということか。
今まで頼りっぱなしで、よわよわの能無しダメ男でしかなかった俺だがここでいっちょ活躍してやらんとな。
そうしていると俺達のいる場にもう一体のスライムが現れる。
「キュウ……」
そいつもぴょんぴょんと跳ねて移動はしているが、頭にカウボーイハットに似た古びたボロボロの帽子を被ってる。
変わったやつだがあれもスライムだろ。
倒しても死なないらしいし、ここは本気で叩きに行こう。
「ナナ、下がってろ」
「! う、うん!!」
木剣を手にしスライムへと近づく。
俺の足音に気付いたのか、動きを止めこちらを見るスライム。
近くで見ると大きさ30センチほどか。
「へ、へへ、こいつなら俺でも倒せそうだぜ……!」
「キュ……」
「わ、悪く思うなよぉ……俺も命がかかってんだぁ。動くんじゃあねぇぜ……!」
なぜか三下ムーブをかまして笑みを浮かべる俺に、スライムは依然として動かない。
木剣を振り上げ、勢いよく叩きつけようとしたその時、俺の顔のすぐ横を何かが通り過ぎた。
「えっ?」
木剣の剣先が消え失せ、断面からは煙が噴き出している。
スライムを見れば、まるで煙草の煙を吐き出すように口から蒸気を吐き出し、帽子のつばを触手で動かしている。
やけに様になっているポーズを目にしてから後ろを見ると、俺のすぐ後ろに会った大きな樹木は——綺麗に斜めに斬られていた。
……。
……、……。
「な、ななな、ナナァ!! スライムの解説を! はやく、できるだけ早く……!!」
「あ、うん!! スライムはね! 口から水を吐き出して相手をびっくりさせるのー! かわいいよね!」
吐き出すって勢いじゃないよな?
レーザーばりに射出しているよな?
水が当たった樹が後ろで轟音を立てながら倒されているんだけどぉ!?
「キュ……」
なんか「そこまでにしておきな、坊や……」的なため息をつかれてるじゃん……!!
か、かっけぇのが腹立つ! なにこのガンマンスライム、無駄にダンディな雰囲気まき散らしやがって……!!
「ユーマ! 頑張ってー!!」
俺の焦燥を未だにナナが察してくれない。
なんでスライムまでこの世界基準で理不尽に強いんだよ……!!
もうやだ、こんな世界……!!
強すぎるナナの戦闘力をユーマの弱さでプラマイゼロにさせたバランスのとれたパーティ。
なお、スライムコアは入手困難な模様。
今日中に後一話、更新する予定です。




